国内企業最前線

困難な状況にある若者の「働く」を応援する

セールスフォース・ドットコム ファンデーションのBizAcademyプログラム

“自分たちだから出来る”社会支援を実践する企業が増えている。セールスフォース・ドットコムのBizAcademyはIT技術という自分たちの強みを最大限に発揮した若者への就労支援プログラムで、社員がプロの技術を提供するプロボノを積極的に活用している。セールスフォース・ドットコム ファンデーション マネージャー遠藤理恵さんに話を伺った。


セールスフォース・ドットコム ファンデーション マネージャー遠藤理恵さん

世界の潮流である実践的かつ具体的な雇用につながるプログラム

― セールスフォース・ドットコムのBizAcademyは、“困難な状況にある若者を応援する”就労支援プログラムとして世界の各拠点で実施されているそうですね?

遠藤:日本では10年ほど前から主に高校生を対象に、例えば児童養護施設で生活している若者などに研修を行ってきました。従来は1日から1週間の期間で、ビジネスの体験、自信を持って社会に出るために当社の人事採用担当者が自己PRの仕方をアドバイスする、または開発・営業・総務などの仕事を知ってもらうことで、将来こんな仕事をしたいなど、自分の将来について具体的にイメージを描くサポートなどを行ってきました。

― 日本では、今年は8月21日(木)から2週間とこれまでより長い期間でBizAcademyを実施され、研修内容もかなりバージョンアップされたと伺いました。

遠藤:期間を14日間に、20代を中心と対象年齢を従来よりも上げました。研修内容も、ビジネスマナーやITに関する基礎講座に加えて、当社が実際にお客様にご提供しているCRM(顧客関係管理)プラットフォームSalesforceの管理者向けトレーニングをも行うなど、より実践的プログラムとなっています。

中でも、一番の特徴はプログラム修了後に、セールスフォース・ドットコムのビジネスパートナー企業を中心とする企業・団体が受入先となり、実践研修を行う機会を用意している点です。受講生が何らかの形で就業のチャンスをつかめるように応援しています。

近年、セールスフォース・ドットコム本社がある米国をはじめ、海外各地で行うBizAcademyでは、研修プログラムを実施して終わりではなく、プログラムを契機に受講生が何らかの雇用形態でセールスフォース・ドットコムやビジネスパートナー企業に就職する事例が増えてきています。インターンシップや派遣社員から始まり、その後に正社員に登用される例も少なくありません。

これまでの日本のプログラムでは、受講生から「とても良い研修だった。次はどうしたら良いのか?」「次のステップとなるプログラムはあるのか?」との問いかけがありました。こうした声に対するソリューションとして、今回からより高度なプログラム内容と、修了後に具体的な就業につながるコンテンツとしました。

― 具体的にどのように就業機会を得るチャンスが生まれるのですか?

遠藤:受講生の受け入れに興味を持つ6つの企業・団体が、プログラムの中で企業紹介を行ったりして受講生と積極的に交流を図り、個別に直接交渉を行っています。弊社は人材紹介事業を行う資格は有していませんので斡旋は行う形式はとっていません。



●2014年BizAcademyプログラム概要
8/21(木)セールスフォース・ドットコムについて
8/22(金)パートナー企業・団体による会社説明会
8/25(月)IT業界セミナー、ビジネスマナー研修
8/26(火)~9/3(水) Salesforce管理者研修
9/4(木)~9/8(月) CTAC:コンピューター技術基礎講座
9/9(火)受講生卒業プレゼンに向けた講習・準備
9/10(水)受講生卒業プレゼン

― 6日間にわたるSalesforce管理者研修もかなり高度な内容だそうですね?

遠藤:「Salesforce管理1 基本機能を習得しよう」という、これからSalesforceを設定・管理する方にとって必須のスキルを習得するコースです。業務イメージのシナリオと演習を通してシステム管理の基礎を学習し、効率よく即戦力を養います。

また今回は、ビジネスパートナーであるアクセンチュア株式会社のご協力で、3日間のコンピューター技術基礎講座 CTAC(Computing Technology Academy)も行います。ITって何?という基礎の部分から学ぶことができます。アクセンチュアはコーポレート・シチズンシップ(企業市民活動)の取り組みとして「Skills to Succeed」を展開されており、プロボノ(社員のスキルを無償で提供する取り組み)についても積極的で、セールスフォース・ドットコムと互いが同じ方向を向いているということで、今回の協働が実現しました。

― 今回のプログラムでは、さらに協力企業・団体との連携も広がったようですね。

遠藤:NPO法人ETIC.(エティック)と企画・立案段階からパートナーシップを組んでプログラムを実施しました。また、若者を支援する非営利団体の方など専門性を持ったプロフェッショナルからも助言をいただきました。

世の中に支援を必要とする方々は多くいらっしゃるのですが、その方たちにプログラムの存在を知っていただくのが難しい。今回はETIC.や若者支援に取り組む方々のネットワークを生かした告知のほか、事前説明会を開催するなど、できるだけ多くの方にリーチできるよう努めました。

― 日本では既に長らく若者が働く難しさ、非正規雇用やブラック企業の問題が取りざたされています。今回のようなIT専門技術を学べる研修を希望する若者は不特定多数いると思います。その中で、貴社が支援すべき “困難な状況にある若者”とはどのような人たちでしょうか?

遠藤:今回プログラム受講者についていえば、児童養護施設出身で働きながら夜間学校に通う方、海外にルーツがあって経済的な理由から大学進学を断念した方、精神疾患のため自宅療養をしていた方など、バックグラウンドは様々で、そのほとんどが現在非正規雇用社として働いています。


研修最終日には受講者による1人15分のプレゼンテーションが行われた。各受講者は緊張しながらも、初日とは異なる自信あふれる語り口調で、自己紹介、BizAcademyプログラムでの学び、将来の目標と夢を語った。プログラムで得たものとしてIT技術の習得に加えて「実は人と接することが好きだと気づいた」「働くことをポジティブにとらえられるようになった」など、精神的な変化を挙げる受講者も多かった。他の受講者が補足してプレゼンターの長所をアピールする場面もあり、14日間の研修を通じて受講者同士が信頼関係を培った様子も伺われた。


社員の技術を無償で社会に提供する、プロボノの意義

― 今回のプログラムには、社会貢献専門部署であるセールスフォース・ドットコム ファンデーション以外も含めて、150名近い社員が協力されていると聞いて驚きました。

遠藤:これまでより充実した内容で実施するために、今年の初めに広くセールスフォース・ドットコム社員に「若者の就労支援というソーシャルイシュー(社会問題)に興味があり、企画・立案に協力してもらえませんか」と呼びかけ、5名から構成される運営チームが発足しました。

定期的にミーティングを重ねて具体的な形が見えてきたところで、改めて社内にボランテイアを募りました。例えば、研修講師や受講者8名のメンター(助言者・指導者)になってくれる人、経済的に厳しい受講者のために一口500円のランチ代を寄付するなど貢献の仕方はさまざまですが、結果的に約150名の社員が何らかの形でこのプロジェクトにかかわっています。


BizAcademy修了証の贈呈式では、メンター(助言者・指導者)役のセールスフォース・ドットコム社員から担当した受講者に熱い応援メッセージが送られた。

― そのように社員の方が就業時間にボランテイア活動に参画できる背景として、セールスフォース・ドットコムの「1/1/1モデル」が存在することが大きいですね。

遠藤:「1/1/1モデル」はセールスフォース・ドットコムの人々(社員によるボランティア活動)、テクノロジー(非営利団体への製品寄贈・割引)、リソース(非営利団体への助成)の活用により、世界中のコミュニティを向上することです。

社員は就業時間の一部を有効活用して、様々なボランティア活動に取り組むことができます。また、そのような社員の主体的な活動を会社全体として推奨していますので、これほど多くの社員が関わる事ができたのだと思います。

今回のBizAcademyでは人事執行役員がビジネスマナーについて話したり、営業社員がファシリティ役となってアイスブレーキングセッションを進行するなど、様々な社員が就業時間内に運営に協力しています。余談ですが、この営業社員は若者の夢保持率100%の世界を作ることをビジョンに掲げる非営利団体の代表も務めるなど、社員の主体的な社会貢献活動は社内に浸透しています。

今回のBizAcademyについては、経営陣への理解・協力を得て全社会議でも告知を行っています。このような活動について全ての社員が認識・応援し、会社全体で取り組むことが非常に重要だと思います。


川原 均 取締役社長兼COO(最高執行責任者) は受講者に対して、自らの職業選択に際しての試行錯誤の経験を語るとともに、「若者に望むことは“チャンスを逃さずやりたい事を実践する”こと。セールスフォース・ドットコムはこれからも若者が“実践”する機会を平等に得る取り組みを続けていきたい。」と力強く語った。

― 今回、貴社がSalesforce管理者研修という本業の主力商品を提供することもそうですが、社員が本業の技術を無償で社会支援に提供するプロボノについて、理解しにくい日本企業経営者もまだまだ多いように感じるのですが?

遠藤:当社は自社製品を世界110カ国の23,000を超える非営利団体に寄贈・割引価格で提供しています。日本国内でもご利用になる非営利団体の数はどんどん増えています。非営利団体のみなさまが限られたリソースを最大限に活用し、効果的に業務を行ってミッションを達成できるよう、製品のご提供のみならず、活用支援をすることも私たちの役割だと思っています。当社にはSalesforceのテクノロジーを心から愛する社員が多くいますので、本業のビジネススキルをそのまま生かして、自分ならではの専門性の高いプロボノにより非営利団体のご支援ができることは幸せなことです。

プロボノというと、社員の技術を無償で提供する=一方的なgivingであるという印象をもたれてしまうかもしれませんが、そうではありません。

社員たちはボランテイアだからといって普段の仕事よりも軽い気持ちで関わるのではなく、通常の対価を得る仕事と同じように真摯に取り組んでいます。非営利団体のみなさまと同じ目線に立ってアドバイスをさしあげ、寄せられる質問には自らが調べて回答し、それがスキルアップにつながったという声は数多くあります。

比較的大人数が関わるプロボノプロジェクトにかかわった社員の中には、普段の業務では経験しないリーダー役を経験し、プロジェクトマネジメントについて身をもって学んだという人もいます。そして、自分だからできることで、社会を変えようとしている素晴しい方々のお役に立てるというのが、何よりもうれしいのだと思います。

このように、それが目的ではありませんが、プロボノを経験することで結果的にビジネスパーソンとしても大きく成長する可能性があります。また、結果論ですが、セールスフォース・ドットコムにこの「1/1/1」モデルという企業文化があることで、優秀な人材が当社に入社されたり長く勤務するメリットもあります。

日本におけるBizAcademyは、これからも時代のニーズに沿って、規模・内容を拡充して開催していきたいと思っています。現状、不本意な形で非正規雇用にある若者、社会に本格的に出る前に踠いている子どもたちに何をしたらよいのか、今後も改善を繰り返していく、その最初のステップが今回のプログラムだと思っています。(2014年9月)

●株式会社セールスフォース・ドットコムの社会貢献活動について
http://www.salesforce.com/jp/company/foundation/


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