企業とのNGO/NPO

看護師と技術者。異分野のプロが協働して創る、日本の医療と地域の未来

~非言語コミュニケーション・ツール「フット・プラネタリウム」を共同開発

これからの日本において、私たちは“自立的に健康を守る”ことが求められている。しかし、そのためには医療の専門家と患者との対等なコミュニケーションが必要だ。“開業ナース”の草分けとして日本の在宅看護を切り拓いてきた村松静子さんが、秋田県でヘルスケア事業をテーマに独自の発想力と技術力を発揮するエーピーアイ(株)との医療関連機器の共同開発をスタートさせた。異分野間の協働が目指すものは、真の意味で患者に寄り添う医療の実現、そして地方から世界への技術の発信だ。村松さんとエーピーアイ(株)須田代表取締役に話を聞いた。

共同開発で生まれた「フット・プラネタリウム」を前に。在宅看護研究センターLLP/看護コンサルタント(株) 村松静子代表(右)と YURIホールディングス(株)/エーピーアイ(株) 須田哲生代表取締役

共同開発で生まれた「フット・プラネタリウム」を前に。
在宅看護研究センターLLP/看護コンサルタント(株) 村松静子代表(右)と
YURIホールディングス(株) /エーピーアイ(株) 須田哲生代表取締役

医療現場での体験から生まれた非言語コミュニケーション・ツール

Q. 村松さんは1986年に在宅看護研究センターを設立、“独立したプロの看護師”として日本の在宅看護を切り拓いてこられました。今回初めて機器開発に携わった、しかもそれが足裏マッサージ専用コミュニケーション・ツールとのこと。まずは「フット・プラネタリウム」とは何か、開発の経緯から教えてください。

村松:開発のきっかけはシンプルで、海外経験が長い当社(看護コンサルタント(株))の国際交流研究企画室担当者から、足裏マッサージの施術を受けた際に、施術する側とされる側のコミュニケーションが難しいと感じたという話からです。言葉で伝える以外に、心の中で思っていることを素直に伝える手段がなかったからと。

マッサージの具合や力加減を聞かれても、強すぎて痛いとか、場所が少しずれているなどとは、周囲の状況や施術中の姿勢からなかなか言い出しにくい、伝えにくい。そして、施術者との会話はリラックスできる時もあれば、会話自体がストレスになる時もある。そうした点は、日本でも海外でも同じだそうで、何か良いコミュニケーション・ツールを開発できないか、十年以上も前から育てていたアイデアだというのです。

皆さんも、美容院、歯医者さん、タクシーの中、さまざまな場面で同じようなご経験があると思いますが、一般的に日本人は自分の要望を伝えることが苦手というか、遠慮しがちです。世界に目を向けると、言葉の壁や文化の違いもありますが、要望を伝えるのを我慢してしまう場面は、日本人に限らずある。目には見えない「心」の部分を大切にするサービス、そしてこれまで通り、「人の手による温かいサービス」を大切にするには? 

企画者の彼女は長らく心理学を勉強していたため、そうした人間心理に敏感で、直接的に施術師に話しかけるのではなく、ボタンを押すなど機器を通して視覚的に要望を伝える仕組みがあれば良いのにという話になりました。

その時に、私は“これは、医療の現場での患者さんのニーズと同じだ”と感じました。

例えば、治療中に痛くても我慢してしまうとか、さらに医師からのインフォームド・コンセント(手術など医療行為の前に詳しい説明を受けること)の場面でも患者さんは医師に反論しにくい、なかなか本音を言わない日本人の国民性もあるかもしれませんが、言葉や表情で表されていることが患者さんの気持ちの全てではありません。

看護師は医師の指示に基づき看護を行うことが原則ですが、様々な局面で患者さんの容態を“判断”して医師に伝える役割も担います。だからこそ、私は現場のナースたちに「五感をフルに活かして患者さんの心に心で向き合う」、“非言語コミュニケーション”の重要性を常日頃から言っています。

今回開発した「フット・プラネタリウム」は手始めとして足裏マッサージ専用コミュニケーション・ツールと位置付けていますが、“施術される側の気持ちを言葉ではなく視覚的に伝える機器”というコンセプトは、看護の現場でも応用できるのではないか、「よし、作ってみよう!」となったわけです。世界初の新しい製品として、国籍やハンディキャップの有無を問わず、できるだけ多くの場でご活用いただきたいと、可能な限りシンプルなユニバーサルデザインを目指すことにしました。

●足裏マッサージ専用コミュニケーション・ツール「フット・プラネタリウム」

村松xYURI2


Q. 実際の機器開発において、どのようにエーピーアイ(株)との協働が始まったのですか?

村松:今回の開発に当たっては、当初から「フット・プラネタリウム」という名称も、影絵のように浮かび上がる宇宙・星のイメージも、スクリーンが二面ある等々、機器のイメージに関する発想は豊かでしたが、何せ、私たちには技術面がわからない。機械製造には全くの素人ですので、実は最初はある研究所に相談しました。しかし、どうしても“非言語コミュニケーション・ツール”というコンセプトが理解いただきにくく、足裏マッサージにはレーザーを使うと効果的だとか、マッサージ機器の性能を高める開発会議になりがちでした。アイデアを忠実に形にしてくれるところを探していたのです。

目的意識を共有頂けるパートナーがいない中、たまたま以前にお会いした秋田県に本社があるエーピーアイ(株)のホームページを拝見したところ、“地域から世界の技術を創造しよう”というメッセージに強く魅かれ、私自身が秋田県出身だったことでもご縁を感じ、早速に須田社長に連絡をとりました。それが、2013年ぐらいでしたでしょうか。

Q.開発現場の皆さんにとっても、これまでとは異なるパートナーシップだったそうですね?

須田:お話を頂いた時には、完成形となる機器の具体的な形ではなく、イメージを伺ったわけですが、非言語コミュニケーション・ツールという点が面白いとまず思いました。開発目的を足裏マッサージ用機器に限定すると狭い市場の商品ですが、“コミュニケーション+癒し”というコンセプトを広げていくことで、将来的には様々な社会の問題解決に役立つ製品に成長していくのではないか、その可能性を探っていきたいと感じましたね。

当社は以前から国立大学等と産学連携で医療機器開発を行ってきました。しかし、村松さんたちのような医療の現場の皆さんとのコラボレーションは初めてでした。村松さんたちは臨床心理士でもいらっしゃいます。当社の技術者が看護師ら皆さんの生の声をお聞きしながら、対等な立場で率直に意見を交換しながら製品開発を行ったことが、今回のコラボレーションの最大の特徴だと思います。

村松:製品開発は初めての経験でしたが、私どもが現場で感じてきたことを技術者の皆さんにぶつけ、互いに自由な発想でディスカッションすることでプラスαのアイデアが生まれました。開発は非常にスムーズに進み、2015年3月に「フット・プラネタリウム」を販売できるまでになりました。実際に出来上がった物をみて私が思ったことがあります。それは、足裏マッサージ店はもちろんですが、相談を受けた後の癒しとしてもプラスして使えるし、看護や介護の教育の場でも使える、実践の場でも研究的に使えるのではないかということです。可能性が広がりました。

「フット・プラネタリウム」は看護系大学にも研究的に導入された。日本では主体的医療を支える 看護教育の重要性が高まっており、「主体性」「足裏の科学」「リラクセーション」の3つのキーワードを軸にした体験学習に「フット・プラネタリウム」活用の試みが始まろうとしている。

「フット・プラネタリウム」は看護系大学にも研究的に導入された。日本では主体的医療を支える
看護教育の重要性が高まっており、「主体性」「足裏の科学」「リラクセーション」の3つのキーワードを軸にした体験学習に「フット・プラネタリウム」活用の試みが始まろうとしている。


ヘルスケアをキーワードに、社会に役立つ製品を開発したい

Q. エーピーアイ(株)は、歩行者の交通事故低減に役立つ「わたりジョーズ君」や電子白杖など、これまでも社会貢献をテーマとする製品を開発されているそうですが。

須田:当社は1983年に創立、もともとは電子部品メーカーとして、ブラウン管TV時代のコア部品である偏向ヨークなどをメインに製造していました。

約10年前、父親である先々代社長の時代に秋田大学との産学連携事業をスタートしまして、2007年に共同開発した歩行環境シミュレータ「わたりジョーズ君」は現在までに全国36都府県(2015年12月現在)の警察本部等に77台納入され、交通安全講習に活用されています。

村松:私も「わたりジョーズ君」を体験させていただきましたが、自分自身の動きが画面上の人の動きに反映され、昼夜、雨や雪など様々な環境下での歩行体験ができるんですよね。

須田:交通事故の被害者はお子さんからお年寄りまで年齢を問いませんが、特に高齢者は横断歩道を渡る際に左右を確認するとっさの視野が狭くなるため交通事故が起きやすくなります(180度の視野が高齢者は120度に)。「わたりジョーズ君」を体験いただくことで、身体全体を左右に向けて車を確認する必要があるなど、安全な歩行方法を学ぶことができます。実は秋田県は高齢化率が全国トップでして、地元にも広がる社会問題の解決に貢献する製品として力をいれてきました。

歩行環境シミュレータ「わたりジョーズ君」http://www.api-kk.com/watarijozu/

歩行環境シミュレータ「わたりジョーズ君」
http://www.api-kk.com/watarijozu/


Q.国内初の視覚障がい者向けセンサ内臓型「スマート電子白杖」や手術用針探知機「ニードルハンター」も開発されています。

須田:グループ企業である秋田精工(株)が秋田県立大学との産学連携により共同開発し、現在は「わたりジョーズ君」と同様に社会貢献という製品特性を持つことから、当社が事業を引き継ぎ、販売と軽量化や機能向上など改良を重ねています。

「スマート電子白杖」は高齢で中途失明された方を主な対象に開発したものです。現在、全国に視覚障がい者(1級・2級認定)が約22万人いらっしゃる、しかし、お一人で外出される方は1割に満たないと伺っています。「スマート電子白杖」は正面と上部の2メートル以内の障害物を感知し振動で知らせます。少しでも視覚障がい者のお役に立てばという思いで開発したものです。

国内初の視覚障がい者向けセンサ内臓型「スマート電子白杖」http://www.api-kk.com/denshi-hakujo/

国内初の視覚障がい者向けセンサ内臓型「スマート電子白杖」
http://www.api-kk.com/denshi-hakujo/

また、「ニードルハンター」は秋田県立脳血管研究センターと共同開発をした製品で、手術の際に使用するマイクロ針と呼ばれる小さな吻合用の針を床上に紛失した時に、簡単に検知、回収できる製品です。2013年に上市をしており、すでに全国の大病院で使用してもらっています。手術室で実際に針を探す看護師の皆さんからは「画期的な製品でとても便利です」と喜んでもらっています。

手術用針探知器「ニードルハンター」http://www.api-kk.com/content/#need

手術用針探知器「ニードルハンター」
http://www.api-kk.com/content/#need


Q.村松さんはエーピーアイ(株)の企業理念に魅かれたとおっしゃっていましたが。

村松:ホームページに掲載されている須田社長のメッセージに大変魅力を感じました。少し長いですが、引用させてください。

「弊社は2年前(注:2010年)に大きな決断をしました。今までやっていた大量生産型の製造業から産学連携をベースとした開発型企業へのシフトです。会社の規模はダウンサイズされましたが、小粒でもピリリと辛い山椒のように、小さい規模だからこそフットワーク良くお客様のニーズにお答えしていきたいと思います。自社製品を売れる喜びと誇りを感じながら『お客様第一』をモットーに日々業務に邁進して参ります。今後も「地域から世界の技術を創造しよう」という企業理念を仕事を通じて実現して行きたいと思います。」

須田:実は「わたりジョーズ君」の製造を開始した2007年当時、メイン事業は国内大手企業から受注する電子機器製造で、ピーク時には社員数も約200名おりました。しかし、大量生産型の製造が海外にシフトされるようになり、自社製品を製造する開発型事業への転換を決断しました。

多くの社員にグループ企業や地元誘致企業等に移っていただき、現在のエーピーアイ(株)の社員数は出向者を入れて18名です。設備もスリム化し、本格的な生産はグループ企業を含む外部にアウトソーシングする、グループ企業の中で当社はモノづくりの根幹となるソフトの部分に特化する企業形態としました。

ビジネスモデルを変革するなかでキーワードとなったのがヘルスケア事業です。「わたりジョーズ君」「スマート電子白杖」「ニードルハンター」そして今回の「フット・プラネタリウム」を含めて、根幹には「社会に役立つ製品を開発したい」という思いがあります。

Q. 2015年4月にはエーピーアイ(株)を含む7企業を傘下とする持株会社、YURIホールディングス(株)を設立され、須田さんが代表を兼任されています。

須田:もともと秋田を拠点に創業者を同じくする7製造企業が絆のグループとして何かと協力しあってきたのですが、先ほども申し上げたモノづくり企業を取り巻く環境変化を踏まえ、永続的に発展するためには一つの連結グループとなることがベストであると考えました。時間をかけて議論を重ね、2015年4月に持株会社であるYURIホールディングス(株)を設立しました。

グループの企業理念には「創造によって地域社会に貢献する」を掲げました。エーピーアイ(株)のみならず、グループ各社は電子部品製造、半導体製造装置の製造、基板実装等、モノづくり技術が強みです。今後のグループ成長においては、技術力を通じて“社会に貢献する”という事業ドメインを重視していきたい、特に医療・介護・健康などヘルスケア事業が重要なキーワードです。

村松:エーピーアイ(株)以外のグループ会社も、医療機器製造に従事されていますね。

須田:例えば横手精工(株)は医療機器も製造しており、医療機器の品質保証のための国際標準規格ISO 13485や医療機器製造販売業許可も取得しています。

Q. 村松さんと須田さんたちは今後も提携を続けていかれるとのことですが、連携を通じて期待される点を教えてください。

村松:須田さんたちのグループ会社は、将来的に医療に貢献できる様々な技術をお持ちではないかと思います。例えば、同じく須田さんが代表を務める由利工業(株)は精密機器の洗浄も手掛けていらっしゃいますが、看護の現場では“感染予防”が非常に大きなテーマですし、何か応用できるんじゃないか。

また、血圧計を製造されるグループ会社もあるそうですが、これからは医者や看護師に頼るだけでなく、“自己管理”で健康を守る時代、そのためには自らの身体の状態を定期的に自分でチェックすることが不可欠です。私自身も団塊の世代ですが、団塊の世代が60代後半を迎える日本は介護の時代などと言われますが、医療の切り口を変えれば私たちの社会の未来を変えることが出来るはずです。

そのためには、一般の方が使いやすい医療機器の開発も必要でしょうし、そして、何のために、どのように使うのか、使わせるのか、一般の方そして医療現場での教育も一層必要です。

今回、私どもは「フット・プラネタリウム」開発を契機として、エーピーアイ(株)と資本関係は一切関係なく、今後も協働していきましょうという提携契約を交わしました。医療の現場の人間と、モノづくりの現場の皆さんがさまざまな形でアイデアを出し合い、「心」を重視して、少しでも社会を良い方向に変えていければと思っています。

須田:多くの日本の地方と同じく、秋田県も過疎化という問題を抱えています。しかし、地方にも、首都圏の企業、そして世界に負けない発想力と技術力があると自負しています。高齢化社会という現実と向き合い、村松さんをはじめとして、さまざまな外部の方ともコラボレーションしつつ、村松さんが当社をパートナーに選んでくださるキッカケとなったホームページの挨拶文にもありますが、まさに“小粒でもピリリと辛い山椒のように、小さい規模だからこそフットワーク良く、お客様のニーズにお答えし、地域から世界の技術を創造”し、発信していけたらと思います。

(2016年2月)

【フット・プラネタリウム】 
http://www.nursejapan.com/nci/cat23825989/index.html


●村松さん、須田さんの取り組みをより詳しく知っていただくために。

●「世界で勝てるブランディングカンパニー ―ブランド力でマネジメントを強化する日本企業の挑戦」●関野 吉記 (著), 奥山 由実子 (著) ダイヤモンド社 1,200円+税※世界を勝ち抜くジャパンブランドの取り組みとして、YURIホールディングス/エーピーアイのブランド戦略、「フット・プラネタリウム」も紹介。

●「世界で勝てるブランディングカンパニー ―ブランド力でマネジメントを強化する日本企業の挑戦」
●関野 吉記 (著), 奥山 由実子 (著) ダイヤモンド社 1,200円+税
※世界を勝ち抜くジャパンブランドの取り組みとして、YURIホールディングス/エーピーアイのブランド戦略、「フット・プラネタリウム」も紹介。


●「自分の家で死にたい―死に逝く人、看取る人の幸せな終末期の考え方 」●村松 静子 (著) 海竜社 1,400円+税※訪問看護の現場での患者さんや家族との出会い、「自分らしい幸せな最期」を考える一冊。

●「自分の家で死にたい―死に逝く人、看取る人の幸せな終末期の考え方 」
●村松 静子 (著) 海竜社 1,400円+税
※訪問看護の現場での患者さんや家族との出会い、「自分らしい幸せな最期」を考える一冊。



◆在宅看護研究センターLLP
http://www.nursejapan.com/

◆看護コンサルタント株式会社
http://www.nursejapan.com/nci/

◆エーピーアイ株式会社
http://www.api-kk.com/

◆YURIホールディングス株式会社
http://yuri-holdings.co.jp/


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