「突破力――社会と女性たち」

「生きてて良かった」を実感させる場所に

2010年度 エイボン女性大賞を受賞
NPO法人「特養ホームを良くする市民の会」代表 本間郁子さん

特別養護老人ホーム。自宅での介護が難しい高齢者の入居施設としてもっとも身近なところの1つだ。入居者30人未満の地域密着型施設もあり、待機者が年々増え続けていると聞く。だが、その施設の中身はというと意外に知られていない。一人の勇気ある女性がその施設のカギをこじ開けた。

全国850カ所の特別養護老人ホームを訪ねる

Q 特別養護老人ホームに関心を持たれたのは、どのようなきっかけからですか。

本間 3人目の子が幼稚園に入り、老年学を研究したいと大学に戻りました。ただ、当時は高齢者の姿をつかめていなかったので、高齢者が集まる場所をということで老人ホームを思いつきました。いわゆる特別養護老人ホーム(以下、特養ホーム)です。

初めて訪ねた施設の建物は立派でした。福祉機器もトイレも最先端でした。ただ、カーテンで仕切られた4人部屋には人が暮らしているぬくもりが感じられません。入居者の表情は一様に暗く、散歩のため施設の外に出たとたん、「親をこんなところに入れちゃだめよ」という声が飛んできました。

高齢者の生活の場は、私たちが日常生活をしている場所とは大きくかけ離れていたのです。日本は豊かな国と言われながら、介助や介護が必要になったときに、その豊かさを享受できないということが分かりました。私の出発点でした。

Q かなりの数の特養ホームをご自分の目で確かめられたと聞いています。

本間  特養ホームは全国に6,380施設あり、43万人の高齢者が暮らしています。私は、そのうちの約850施設を自分の足で見てまわりました。なぜ、そんなに回ったのかというと、行けば行くほど特養ホームの役割が分からなくなったからです。

当時、特養ホームは、行政からするとたまたま空いていたからその場所に「措置する」というものでした。本人も家族も連れて行かれて初めて施設名や場所が分かるという状況です。「措置」という言葉は介護保険になってからは「契約」に変わりました。それまでは特養ホームの割り当ては一種の“行政処分”だったわけです。施設の側も行政から割り当てられた人を「看てやっている」という姿勢でしたね。利用者の側も「お上の世話になっている」「福祉の世話になっている」という意識から抜け出せません。

見えてきた特別養護老人ホームの実態

Q 入居の際の荷物は段ボール箱3つだけというのは本当ですか。

本間 段ボール箱3個は、行政が目安として本人に書類で伝えているようです。これでは引越しというよりも、収容されるという感じですよね。

また、施設の中のお年寄りは名札付きのジャージを着せられています。うしろから見ると男か女かも分かりません。施設の職員が着替えさせやすいということでジャージになり、洗濯をしたときにだれのものか分かるように名前を書くようになったということですが、そこには利用者の人格が消し飛んでいます。

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