韓国現地レポート:小さなグローバル企業。韓国中小企業の強さの秘密とは

第7回:「歯を削らない革新的な歯科技術“ヒューマンブリッジ”」

取材・原稿:申 美花(シン ミファ)氏

2.“ヒューマンブリッジ”の制作原理

“ヒューマンブリッジ”技術の素晴らしさは、施術時に「麻酔も要らない、痛みもない、出血がない」点である。従って、高血圧、糖尿病、心臓疾患の患者にも施術が可能だ。さらに施術がとても簡単で、多くの患者は1回目に歯型をとり、2回目にセッティングすれば終わりである。食べる際に違和感もないという機能面に加えて審美的にも自然の歯とほぼ同じだと権氏は説明する。

權氏にヒューマンブリッジの制作原理について、簡単な説明をお願いした。
「従来の差し歯は“上から下へ”差しますが、ヒューマンブリッジの場合は“横から”装着します。つまり歯が持っている本来の特徴を最大限利用した技術がヒューマンブリッジなのです。歯の構造をよく観察してみると、傾いている部分というか小さな窪み、食べ物を噛む際に表面がぶつからない面があります。これは患者さんによって違いますが、このような歯の構造を適切に利用し、それを歯の維持手段として考え、金属の弾性を利用すると簡単に装着できます。つまり損傷された歯の両側の歯に金属の土台をつくり、その土台に新しい歯を入れて前からも後ろからも上からも脱落しないようにします。」とのことだ。

しかし一般的に考えると、インプラントの一種ではないかという意見があるかも知れない、その点を聞いてみると、
「インプラントを優しく説明すると、歯茎の骨の中に穴を開け、金属材料を埋め込み、それを人工歯根にして人工的な歯を作ります。しかしヒューマンブリッジは歯茎の骨には全く触りません。もっとも人にやさしい治療法です。抜けた歯はもちろん、動く歯を簡単に固定することができるだけでなく、入れ歯にも適用できるのでインプラントより適用範囲が広いです。」と權氏は答えた。

例:ヒューマンブリッジ(奥歯)

さらに權氏は「ヒューマンブリッジは歯を削る、血を流す外科的手術が全く要りません。また神経を治療するための麻酔も必要ありません。歯科治療につきまとう恐怖、苦痛から解放された革命的な施術法です。」と力強く話す。

ヒューマンブリッジは5年間の臨床実験を経て、2007年には特許庁から10大優秀発明品に認定された。有名な歯科大学と全国歯科医院で施術されるようになったヒューマンブリッジは今も進化をつづけている。開発初期には材質が主に金であったが、今は見た目が自然の歯と同じ材質ジルコニアが開発され、審美的な問題も解決した。

3.国内市場より海外進出に力を入れる

現在、国内では約1,000カ所の個人病院と二つの歯科大学病院でヒューマンブリッジによる施術が行われている。延世(ヨンセ)大学の歯科学部が臨床論文をまとめている最中であり、それ以外の大学でも論文が発表される計画である。また近いうちに、ある大学病院内にヒューマンブリッジの研究所が設立される予定だ。しかし權氏はというと、現在は国内市場より海外市場への進出に力を入れている。特にターゲットは中国市場である。

中国の北京大学歯科大学では10年間、歯を削らずに人工歯を固定する方法を研究しており、多くの研究論文も蓄積されているが実用面では失敗を重ねてきた。そんな中、韓国のヒューマンブリッジを聞いてすぐ権氏にラブコールがかかってきたのである。

「中国の場合、特許を保有していると医療市場に進出しやすい。ヒューマンブリッジの中国市場規模は約2兆ウォン(およそ1500億円)と予想しており、北京だけで歯科技工士3,000名を募集する計画です」と権氏は胸を張った。

権氏は現在68カ国にヒューマンブリッジの特許を登録している。また中国、オーストラリア、アメリカには支社を設立、日本、インド、マレーシア、シンガポール、メキシコ、ブラシルにおいても支社設立が進行中である。

さらに韓国の保健福祉家族部(日本の厚生労働省に当たる)が「海外患者の誘致活性化」を2009年の重要事業として選定したことを皮切りに、ヒューマンブリッジの施術時間の短さ、病院の訪問回数が少ないという点を生かし、海外患者を誘致するための医療観光の商品としても計画中である。

北京大学歯科大学で開かれたセミナーに出席した権氏(2008年5月)

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