フクシマがドイツの世論を変えた!

原子力発電所廃止に舵を切ったドイツからの緊急報告

グリーンピース・ドイツ気候変動・エネルギー部門リーダー
放射線アドバイザー、フィナンシャル・アナリスト トーマス・ブリュアー

流れを変えたフクシマ

次はフクシマの事故の後の各党の対応を見てみましよう。キリスト教民主同盟が「段階的廃止を迅速に進める」に変わりました。自由民主党も「段階的廃止を迅速に進める」に変わりました。社会民主党は、もともとの自分たちの計画であった2002年の法律に基づいて2023年までに段階的に廃止していくという立場ですが、さらに「早めても構わない」としています。緑の党は、「2017年までに段階的に廃止」といっています。グリーンピースは、これまでと変わらず、「2015年までに科学的検証に基づいて段階的廃止」を打ち出しています。

ドイツの政治勢力がどのように変わってきたのかを説明します。ドイツの議会ではキリスト教民主同盟が最大の政党でした。地震の後もそれなりに安定しています。その次の社会民主党もそれなりに安定しています。一番動きが大きかったのは緑の党で、一貫して反原発を掲げてきました。得票率がそれまでの10%から28%、24%(それぞれ違う選挙結果)と大躍進しました。自由民主党はそれまで14%だったのが3%、4%と低落しました。ドイツでは5%以上の得票率がないと議席を持てない仕組みがあります。自由民主党は連邦議会で議席を持てなくなりました。

ドイツにおける最近の得票率
  議会(現在) 4・6投票 4・10投票
キリスト教民主同盟 33.8% 30.0% 33.0%
社会民主党 23.0 23.0 25.0
緑の党 10.7 28.0 24.0
自由民主党 14.6 3.0 4.0

欧州全域でも変化が生まれているのでそれについてコメントしましょう。3月27日の日曜日にドイツの地方選挙が行われ、バーデンウォッテンベルクという都市(日本の県にあたる)で緑の党が初めて地方政権を発足させました。この地方は第二次世界大戦以降56年にわたってキリスト教民主同盟の金城湯池でしたが、フクシマの事故後緑の党が多くの議席を獲得しました。自由民主党が大きく敗北し、党首が辞任することになりました。この選挙によりキリスト教民主同盟と自由民主党が反原発に転換しました。
欧州全域には現在140基もの原子力発電所があります。このすべての施設で耐久度テストが要請されました。

欧州議会は、これまでは原子力推進派が優勢でしたが、フクシマ以後は推進派と廃止派が50対50に割れるという状況になっています。
さらに経済的な観点から見てみましょう。欧州のエネルギー市場は自由化されており、自由に電力会社と電力供給の契約ができるのですが、何千もの家庭が自然エネルギーによる電力供給に転換しています。

ドイツにおけるエネルギー政策の現状
ドイツの原子力発電の比率は2010年の段階で24%、実はこのとき原子力の半分がストップしている時期でしたから実際の数字はこれより多いと思います。
自然エネルギーの電力シェアは2010年で17%、それを政府は2020年までに35%にする計画でした。

2010年の段階で自然エネルギーの転換によってもたらされた二酸化炭素の排出削減量は1億2000万トンです。自然エネルギーの設備容量は、エネルギー市場が開放された1998年の段階で8,472メガワットだったのが、2010年には55,702メガワットになりました。

自然エネルギーへの投資という観点から見ると、2010年には266億ユーロが自然エネルギーに投資されています。もう1つ大きいのが雇用への影響です。2004年16万人でしたが、2010年には37万人に増えました。6年間で約21万人近い雇用が生まれたことを意味します。2050年には100万人の雇用が創出される予定です。これは石炭産業や原子力産業よりも多い雇用となっています。

増え続ける自然エネルギーの利用者数
次は自然エネルギーの供給サイドから見てみましょう。自然エネルギーの利用者数は、2010年で200万世帯になっています。4月の推計値で250万世帯まで増えています。通常の増加分に加え、フクシマの悲しい事故による自然エネルギーへの切り替え増があったことを示しています。
グリーンピースエネルギーは、グリーンピース・ドイツが1998年に設立した電力供給者ですが、現在10万世帯の顧客を擁するまでになっています。

原子力に変わるエネルギーの見通し
2015年までの段階的原子力発電所廃止計画が行われた場合、別の方法でエネルギーをカバーするという解決策が欠かせません。議会に提出されている計画を見ますと、2011年中に1万メガワットの原子力発電所を廃止しますが、それは十分可能だと見られています。

ドイツのエネルギー供給量を見た場合、大きな余剰電力がある上に、自然エネルギーや天然ガスの発電所で対応可能です。それ以降も毎年4,000~6,000メガワットの原子力発電に替わる新しい発電システムを投入する計画です。
当面の橋渡し役として期待されているのが天然ガスの発電所です。建設中のもの、計画中のものを入れるとかなりの数に上っています。

エネルギーシステムを自然エネルギーに変えていくということで、新しい業種・業界が作られるという期待も高まっています。この2年ほどの世界的な不況でドイツはそれほど大きな痛手をこうむりませんでした。自然エネルギーの立ち上げがあったからともいわれています。

2つめはドイツや日本のようにエネルギー資源を海外から輸入している国は、外国への依存を軽減できるというメリットがあります。自然エネルギーへの転換が進めば、2020年には外国へのエネルギー依存度を40%削減でき、2030年には60%削減できると推定されています。

もう1つ、消費者にとってのコストはどうかという問題があります。当初、1kW/時0.5ユーロセントという価格になっていますが、2020年から2030年に掛けてエネルギー資源の輸入が減るにつれ、エネルギー資源の輸入に対する資金が減っていくわけですから、自然エネルギーの価格もより安くなっていくと思われます。

さらに自然エネルギーに対しては、2030年までに2,240億ユーロの投資が必要だといわれています。それに対してエネルギー資源を輸入しなくて済むことや、二酸化炭素の排出権を買わなくて済むことなどによる削減効果は5,250億ユーロとなります。投資分を差し引くと3,010億ユーロのメリットが出るということで、これを納税者に還元するか、消費に回すことで、有効なお金の使い方ができます。

なぜドイツでこのような動きになっているかを振り返ってみたいと思います。ドイツではもともと原子力発電所に反対する一定の層がありました。段階廃止法が成立した後、原子力発電所反対運動は一時期落ち着いていましたが、2009年9月に選挙があり、自由民主党が議席を伸ばして原子力発電所の寿命を延ばすという動きが強まりました。そこで抗議行動の数が増えました。

今回のフクシマの事故により、抗議行動に参加する人の数はものすごく増えています。事故後の3月14日にはドイツの450の都市で11万人が原子力発電所に反対する、あるいは日本の被災者に連帯の意思を表明するためキャンドルに火を灯して自発的なデモに参加しました。3月25日には主な都市で25万人がデモを行いました。

これは最新の世論調査の結果です。2023年までの段階的廃止に賛成するのが1/3、それよりも長い時間を掛けて廃止が1/3、残りの1/3がもっと長い時間を掛けて廃止するでした。ところが、最新の調査では、「すぐに廃止」が11%、「5年以内に廃止」が52%、「2023年までに廃止」が20%、「段階的廃止なし」が17%となっています。

フクシマが劇的に変えた

ドイツの議論は原子力なしでやっていけるのかという議論にはなっていません。それはすでに議論の対象にさえなっていないのです。日本を考えて見ますと、日本は技術レベルが高く、輸出志向の高い国です。立てるべき問いとしては、自然エネルギーに関わらないでやっていけるのかどうかだと思います。

自然エネルギーは将来性もあり革新的な産業です。それと関わらずにやっていけるのかという問いかけをすべきだと思います。自然エネルギーは経済成長にもつながります。原子力はエネルギーを生み出す方法としては危険なものです。ほかの製品のように輸出することができません。

ドイツは経済危機を自然エネルギーへの転換で和らげ、経済成長を持続してきました。自然エネルギーの将来性は極めて有望だと思います。

※この講演は4月13日に東京都千代田区の衆議院第二議員会館で開催されました。当日の通訳をベースに原稿化しましたが、分析は当編集部にあります。

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◎福島第一原発とチェルノブイリの違いとは?[姉妹誌The Diplomat(英語版)から]
http://csr-magazine.com/2011/04/13/international-fukushima-chernobyl/

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