識者に聞く

いま、被災地にイノベーティブな医療を。持続可能な災害医療のあり方を探る。

日本統合医療学会代議員 小野 直哉

Q5 被災地では衛生・環境の悪化で感染症などが心配されています。

小野 これからの季節は気温が高くなります。集団感染が心配です。避難所にしろ。自宅にしろ、被災者の体力も気力も低下しています。院内感染のように耐性菌の活動なども憂慮されます。

避難場所ではプライバシーがほとんどありません。高齢者で痴呆などの家族を抱えた方や知的障害の子供さんを抱えた方は皆さんと一緒に住めないといっていました。長期化でストレスによる身体的な症状も見られます。

一部の被災地で精神的な支援と称した新興宗教のような活動も見られると聞いています。場所によっては「心のケアお断り」という貼り紙もあるということです。

でも、「心のケア」が必要な人はいます。家族が亡くなって自分だけ生きているといった人に対するグリーフケア(死の悲しみに対するケア)です。なんで最愛の人が死んでしまったのか、なんで自分だけが生きているのか、罪悪感からの身体症状も出てきます。精神科医や心療内科医の支援も必要です。

「心のケア」が必要なのは、被災者だけではありません。被災地に支援に入った自衛官、警察官、消防官、政府や地方自治体職員、医療従事者などにも支援が必要です。影響が出てくる可能性があります。

お医者さんをはじめとする医療従事者が、病気をしないわけではありません。心を病まないわけでもありません。お医者さんだって、他の医療従事者だって、疲れたときに肩をもんでもらうだけで、疲れが吹き飛ぶような気がします。医療従事者の多くは、自分の仕事を持っています。ボランティアといってもスーパーマンではないのです。いま求められているのは、持続可能な災害支援です。それは医療も同じです。限られた人的資源を活かすためにも、人間相互の思いやりと扶助が必要です。
(2011年5月取材)

小野直哉(おの・なおや)氏の略歴
明治鍼灸大学卒業後、京都大学大学院人間・環境学研究科、京都大学大学院経済学研究科、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医療経済学分野を経て、現在、京都大学大学院医学研究科在籍。現在、未来工学研究所21世紀社会システム研究センター主任研究員兼Executive Fellow, International Institute of Health and Human Services, Berkeley, U. S. A., 明治国際医療大学非常勤講師。

主な業績:「諸外国における補完(相補)代替医療の利用状況」『維持透析患者の補完代替医療ガイド』医歯薬出版株式会社2010年、「世界の統合医療の現状―日本の鍼灸の在り方を考えるために―」『社会鍼灸学研究2009』社会鍼灸学研究会2010年ほか。
学会活動:全日本鍼灸学会、医療経済学会、日本統合医療学会、日本未来学会など。
研究テーマ:●持続可能な社会におけるサステナブルな医療・健康(Eco-Medicine/Health)を目的とした、伝統医学、相補・代替医療及び統合医療によるヘルス・プロモーション、医療経済学的評価、各国間制度及び政策比較。●統合医療及びエンハンスメント(インターネットワーク化及びユビキタス化する社会とサイボーグ化する人間)による未来社会における健康・身体観、コミュニケーション、地域社会及び科学技術・経済・産業政策に関する未来社会戦略。●伝統医学に関する生物多様性条約における生物遺伝資源と伝統的知識のアクセスと利益配分(ABS)と伝統的知識の各国際機関における現状把握、日本の伝統文化の保護及び標準化、知的財産化に伴う文化・知的資源戦略など。

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