国内企業最前線

一人でも多くの命を救うために。医療の現場と連携した薬剤師たちの奮闘。

株式会社ファーマライズホールディングスの 東日本大震災対応から

患者が押し寄せてきた

Q4. 病院との連携はどのようにして始まったのでしょうか。
田仲 実は石巻赤十字病院には薬剤部があります。普段、薬の貸し借りはほとんど行われていませんでした。でも、このときは病院内の薬剤部だけではとても対応できない、病院外の調剤薬局の力を借りようと病院側も考えたようです。

病院側の要請を受け、瀬戸も近くの4店舗の店長と協議を行い、病院に話を持っていきました。結論は「協力できることがあれば協力する」というものでした。

病院側の対応も素早かったようです。「すぐに処方箋を出すので患者に薬を出して欲しい」というものでした。

ここからが大変でした。病院に押し寄せた患者は、石巻赤十字病院の患者だけではありません。津波で家が流された高齢者たちが、普段飲んでいる薬を求めて押し寄せてきたのです。もちろんお薬手帳などの手がかりもありません。自分が飲んでいる薬の名前を知るものもほとんどいませんでした。

Q5. 薬剤師の皆さんの奮闘が始まったわけですね。
田仲 病院の医師たちも普段のようにきめ細かい診察から始める余裕はありません。混乱は収まるどころかさらに広まっていきました。そこで医師たちが決断します。「薬のことは薬剤師に任せよう」

薬の処方には緊急時にだけ許される処方権の委託があります。処方箋そのものは医師が切り、処方箋にある内容を吟味した上で、その薬がない場合などは薬剤師が書き換えてもよいというものです。

実は病院によって使う医薬品は微妙に異なります。同じ病名でも石巻赤十字病院が処方する薬と市立病院が処方する薬が異なるケースは少なくありません。それに加えて今回は医薬品の在庫の確保という課題もありました。穴を埋める役割が薬剤師に求められたのです。

たとえば、市立病院や個人のクリニックの患者の中には、血圧の降下剤を飲んでいる患者が大勢いました。しかし、血圧の薬だけでも数十種類あります。病状を聞きながら、医師が処方箋を書くと、今度は薬剤師が薬の包装や形状を手がかりにさらに患者に確認を行い、その薬が見つからない場合などは他の医薬品の中から、薬効が近い同じような成分のものを渡すわけです。

薬剤師の責任は重大です。それでも薬剤師のだれ一人文句は言いませんでした。こうして最初の1週間は瞬く間に終わりました。

薬剤師が足りない

Q6. 皆さん疲労困憊だったのではありませんか。
田仲 震災の翌日には、水戸(茨城県)、福島(福島県)をはじめ東北の各店舗には、本社から機動力を活用して何回か物資を運びました。そのうち石巻店については、いろいろ手伝ってもらっているということで、石巻赤十字病院から食事の配給などの配慮がありました。

「一緒の仕事をやっているのだから、一緒のものを食べられるようにしよう」という石巻赤十字病院薬剤部のご好意でした。4店舗分の食事が代表の薬局店に届けられました。その日によって、おにぎりとミニカップ麺ということもありましたが、カレーライスなど温かいものを食べられる日もありました。

衣類などは本社で想定できるものを集めて持っていきました。震災から数日後には本社から応援の薬剤師も入りました。それと同時に、なんとか宿泊施設を確保したいという交渉を始めました。

ずっと店舗で寝泊りしていたので、風呂にも入れない状態でした。精神的なストレスも含めて疲労が蓄積していました。その頃、応援部隊が現地入りしていたので電気や暖房は機能していませんが仙台でなんとか宿泊施設を確保することができました。仙台まで通常は1時間半ですが、そのときには高速道路も使えず、片道2~3時間掛かったこともあります。仙台から石巻へ毎日通いました。

勤務のあいまに被災地を見る田仲さん

Q7. その後、応援が全国から入ったのでしたね。
田仲 社長の大野利美知が現地に入ったのは3月15日。「何か足りないものはないか」と聞いたところ、「薬剤師が足りない」ということでした。隣の福島や茨城でも避難民の対応で追われていました。そこで全国に散らばるグループ会社に声を掛けると、一人二人と手を上げる薬剤師がいました。どこの店舗もぎりぎりの体制で運営していますから、だれかを送り出すということは、その分を残りの者でカバーするという苦しい台所事情でしたが、送り出すほうも支援をしているという気持ちを持って協力してもらいました。でも、最終的には東北に常時3名、茨城に2名を交代で入れました。

石巻のように平均35枚の調剤薬局であれば、薬剤師は1名で十分なのですが、あのときは連日200枚前後の処方箋に対応しなければなりませんでした。4月に入ってからは石巻市内のロッジを確保し、応援の者も含めてそこで寝泊りしました。

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