識者に聞く
環境保全団体WWFジャパン中間報告──①脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!(前半)
株式会社システム技術研究所所長 槌屋治紀さんに聞く家庭で可能となる省エネルギー
2050年にどのような省エネルギーのシナリオが可能か、項目を書きだしました。まず家庭部門。住宅の断熱化で現在最も厳しいものに次世代省エネ基準があります。2050年にそれが100%普及すると、戸建と集合住宅の暖冷房需要は現在の36%で済みます。エアコンのCOP(成績係数:1kWの電力を投入してどれくらいの暖冷房になるか)は現在の3~4から6~7へと効率が2倍になると見込まれます。断熱化できた部屋で最新のエアコンを使えば、エネルギー消費は現状の18%で済むことになります。照明に関してはLED電球が広く普及して、現状の4倍の効率になりそうです。電気製品は、半導体の電力損失が小さくなり、現状の半分の電力消費になります。
照明ですが、白熱灯からコンパクト蛍光灯、LED、蛍光灯、Hf(高周波点灯方式)蛍光灯の順で明るいのですが、もっと明るいLEDが開発されたという話もあります。またLEDは光が拡散せずに目標のところを照らすことができます。
白熱灯とLEDと電球型蛍光灯を比較すると、電球型蛍光灯がいちばんコストパフォーマンスがよいのですが、寒いところでは明るくなるまでに時間が掛かるという欠点があります。LEDと白熱灯を比較した場合、LED購入のメリットは現状では2000時間を超えないとは出ませんが、寿命が4万時間と長いのがLEDの強みです。
業務部門の省エネの可能性
まず暖冷房ですが、オフィスにはあまり厳しい断熱化の基準がありません。せいぜい現状から75%程度に断熱効率を高めるというものです。オフィスの場合、オーナーと借り手の利害が一致しません。オーナーは、断熱しない方が建物を安くつくれますが、入居者は断熱があった方が光熱費を節約できます。暖冷房費は入居者が払うわけですから…。それでもエアコンの効率が2倍になれば暖冷房需要は37.5%に低減し、さらに都市の緑化で5%減、クールビズで8%減少すると見られます。都市の緑化は、気温を1~2℃下げる効果があります。
業務部門の照明に使われる電力は非常に大きいといわれています。暖冷房を除く電力の50%が照明だといわれています。LEDのタスクライティング&アンビエント(天井から部屋全体をゆるく照らす)照明の組み合わせの普及で、照明の効率を4倍にできます。
OA機器は半導体の回路の改良などで電力消費が50%に低減します。1個だけ電力需要が増えるものを入れました。TV会議です。ITが地球環境の改善にどれくらい役立つかという総務省のレポートがありますが、それによるとWEBを使ったTV会議の普及によって、航空機利用の出張が減り、CO2を98%減らせるという報告が3つの会社から出されています。飛行機に乗って出張に出るよりもTV会議で終われば、エネルギー効率は50倍になるといわれています。航空機のエネルギー消費の2%で済むわけです。
産業部門はエネルギー消費型の鉄鋼業をはじめ化学、窯業、紙パルプなどの産業を抱えています。鉄鋼業は2050年にはどれくらいになるかを調べてみると、現在鉄鋼生産は世界全体で10億トンから12億トン。2050年には24億トン、つまり現状の2倍くらいの鉄鋼生産になると予想されています。
世界全体では、そのうち50%がリサイクルの鉄だと予想されています。そうすると電炉(鉄スクラップを原料として電気炉で鉄を生産する)で鉄を溶かすということをやります。エネルギー消費は高炉(溶鉱炉で銑鉄をつくる製鉄と銑鉄を転炉で精錬して鋼をつくる製鋼の2つからなる)でやるよりも7分の1で済みます。2050年の日本で電炉の比率がどれくらいかという予想ですが、現状は30%程度がリサイクル鉄ですが、将来8,000万トンくらいを国内でつくるとなると、そのうちの70%程度をリサイクル鉄にしたら、エネルギー消費は約半分の45%に低減します。
論文の中には2050年には90%がリサイクル鉄になるというものもあります。問題もあります。回収された鉄の中に銅の含有量が数%あるのですが、この比率が高くなると強度をもった鉄として使えないというのです。銅を抜くという方法のほかに、きちんと分別収集するという方法もあります。
(後半に続く)
※ 本講演は、WWFジャパン主催の「省エネルギーシナリオ発表会」における株式会社システム技術研究所所長 槌屋治紀さんの報告を本誌編集部でまとめたものです。文責は当編集部にあります。
「脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!」後半はコチラ↓
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