識者に聞く

東日本大震災における救援と復興への取り組みPart2[前半]:「企業とNGOの協働」と「進化する日本企業の対応」

拓殖大学国際学部 長坂寿久教授に聞く―物資提供から特定NGOへの資金提供と社員ボランテイア・システムの構築、そして復興(雇用)支援へ

2.ジャパン・プラットフォームへの寄付

今回の大震災を通じて、いくつかの新しい「企業とNGOの協働」も生まれつつある。例えばジャパン・プラットフォーム(以下JPF)への企業からの寄付がかなり目立つことである。

日本企業が寄付対象団体を選定する場合、これまでは日本赤十字社ならば特段の説得もなく役員会で了承を得やすく、結果的に多くの企業の寄付先が日本赤十字に集中していた。企業自身の寄付先としてJPFが登場してきたこと—JPFへの寄付金は、現地で支援・復興に取り組んでいるNGOへ配付されることが日本赤十字社経由の寄付との大きな違いであり—、日本企業のCSR活動が経験を通じて変化しつつあると感じられる。

JPFは、日本の国際緊急支援体制を強化するために、政府(外務省)の肝入りで設立された団体である。JPFは、資金面からみると、外務省による国際緊急支援予算の提供を中心に、日本経団連も若干資金協力をしている。そして緊急支援活動を行うNGO(34団体)が実行(活動)部隊として参加しており、政府・企業・NGOの3セクターが協働する形で設立されている。

日本政府は、JPFへの参加NGOを通じて、日本赤十字社のみに頼ってきた国際緊急支援にとどまらず、より多様な支援ができるようになった。他方、JPGに参加するNGO側は政府予算を得て、より幅広く深い支援に取り組むことができるようになったといえる。

JPFは今回の東日本大震災への取り組み体制としては、仙台と遠野に拠点(事務所)を設置している。JFPを寄付先として選定する企業が増えている、つまりはJPFへの寄付が企業の役員会でも説得性を持ち易くなってきた理由の一つはJPFに政府・経済界・多数のNGOが参加していること、もう一つは、企業からの寄付金等をJPFが(現地で実際に活動する)特定のNGOに直接供給してくれる(=供給すべき特定のNGOをJPFが決めてくれる)からである。

日本では、企業自らが特定のNGOに多額の寄付を行う状況には必ずしも至っていない。しかし企業の役員会においてJPFへの寄付が通り易くなったのは、企業トップが国際緊急支援におけるNGO活動の成果と専門性を評価するようになった結果であり、日本企業の大きな変化であるといえよう。

JPFへの寄付額は、3万7000件を超える企業・個人・団体から65億円(7月末時点)—-うち45億円をJPFへの参加NGO(34団体)に拠出し、約10億円(計画)を非加盟のNGOに対して拠出—-で、赤十字社への寄付額とは未だ大きな差があるが、今後はJPFも日本企業の寄付先として定着していくだろうと思われる。

3.NGOへの物資寄付の増大

今回の東日本大震災を契機に、企業が特定のNGO・NPOに直接的な寄付—自社製品やサービスを寄付・提供するケースが極めて多くなってきたことも特筆すべき点である。前述したJPFにおいても寄付金にとどまらず、物資・サービスの調達・寄付で企業と数多く協働している。

企業が被災地に自社の物品やサービスを提供する際には、まずは、その物品・サービスが必要とされているか被災地ニーズを知る必要があり、さらに物品を配給するシステム・手段が必要となる。その双方の役割で専門性を発揮するのがNGOである。被災者に寄り添いニーズを聞き出し、ニーズの変化に対応して物品やサービスを届けるノウハウをもつNGOは、企業や自治体(社会福祉協議会等)に比べてさえ、遥かに順調に現地で物資などを配付することができる。

一方、現地で活動するNGOは被災地ニーズの変化に対応しながら、必要物資を生産する企業に協力を求める。今回の大震災では、こうした物品・サービスの提供をきっかけに、数多くのNGOと企業の協働が生まれた。そして(前述のとおり、従来の日本企業では特定NGOへの直接的な資金支援が必ずしも一般的ではなかったが)物品提供を契機に、パートナーシップを組むNGOに企業が直接寄付をする、資金を提供する活動へとつながってきた。

 いくつかの具体的事例として、ソフトバンクとピースボート(通信インフラ回復のためソフトバンクはアイパッドなどを提供)、イオン(株)とピースウィインズとの協働(ピースウィンズは被災地ニーズに応じた商品の選定、仮設住宅への搬入を行う)や、ユニクロブランドの(株)ファーストタテイリングはJENなど10団体と協働し、大量の衣料品を被災地に届けている。

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