識者に聞く

東日本大震災における救援と復興への取り組みPart2[前半]:「企業とNGOの協働」と「進化する日本企業の対応」

拓殖大学国際学部 長坂寿久教授に聞く―物資提供から特定NGOへの資金提供と社員ボランテイア・システムの構築、そして復興(雇用)支援へ

 5.社員ボランティアの派遣

 企業による震災支援として特に目立ったのが、社員ボランティアの派遣であった。ゴールデンウィーク後や、夏休み後になると、学生のボランティアは大きく減少する。それを補ったのが社員ボランティアであった。社員の派遣で平日の参加者が増え、支援作業は進展したのである。

社員自らが被災地にボランティアに行きたいという声、自ら休暇をとる社員も多く出てきたことで、企業は次第にボランティア派遣制度や資金的支援の導入によって、社員の派遣を促すようになった。そして、現地での受け入れ体制を整備する過程でも、企業はNGOと協働するようになっていった。

社員がボランティアとして被災地に行く場合、出張(社命)扱いとする企業と、あくまでも自主参加として取り組む企業とに分かれる。アサヒビール(株)や日本IBMなどは出張(社命)扱いとしたが、多くの企業では、社命による派遣のリスク(事故の場合の保障など)を懸念し、ボランティア休暇制度の導入や、別途資金的支援策(バスの借り上げ費等)を導入する形をとっている。

日本におけるボランティア休暇制度は法定ではないので、その導入実態は実は極めて低調である。厚生労働省が2007年にまとめた「就労条件総合調査」によると、回答した4,187社のうち、ボランティア休暇制度を導入しているのはわずか2.8%である。従業員1,000人以上の企業では17.7%、従業員30~99人の企業は1.8%にとどまるなど、多くの中小企業ではボランティア休暇制度の導入は進んでいないが、しかし、社長の一声で今回被災地に社員を派遣した企業もある。

 前述の監査法人トーマツの調査では、上場企業上位100社の内、ボランティアの派遣を行っているのは29% (29社)。上位100社の大企業の数字としては極めて少ないが、一方でこれまでの日本企業の取り組みから鑑みると、かなり増えてきているともいえる。

  なお、社員ボランティアの派遣は、日本企業にとっては有給休暇を消化できる機会ともなっている。日本企業の有給休暇取得率は、2010年で47.1%と低い。欧米先進国ではほぼ100%である。ボランティア参加率も日本企業の社員(企業人)は欧米に比べきわめて少ない。

<<社員ボランティアのメリット>>

社員ボランティアを派遣することは、企業にとっても大きな意義がある。具体的には、
①社員がたくましくなる。②社員同士の連帯感が生まれる。③グループワーク(チームワーク)の訓練となる。④皆で一緒に達成感をもてる。⑤愛社精神が向上する。⑥会社としての一体感を確認できる。⑦社会的課題を本業の中に取り込まねばならい時代(CSR経営)において、社員の社会的感受性の向上となる。⑧現場ニーズをつかみ、効率的な作業を考え実行する訓練となる。⑨本業での新事業の発想の幅が広がる。⑩新規事業化ヘのアイディアの源泉となる。そして最も重要な点は、⑪人の役に立てることの喜びを知る、である。

 実は、日本の最大の問題点の1つは、失礼な言い方になるが、企業人の多くが若い時代にボランティア経験をしていないことにあるのではないかと考えられている。ボランティア経験とは、人に無償の親切な行為を行って喜ばれる、無償の社会的行為によって自分の存在感を感じることができる体験をするということである。被災地でのボランティア活動を通じても、同様にそうした感情を体験する。日本の多くの企業人は、厳しい受験勉強のまま企業に入り、企業の中でのみ自分の存在意義を感じる体験しか持っていないと言われる。それが日本における企業人の社会問題への関心の薄さや、NGO・NPOへの偏見、さらにはCSRへの取り組みが本格化しない要因ともなっているとみられている。これが実は今後の国際競争力に齟齬をきたしかねない状況をもたらしている。

 社員ボランティアの派遣を通して、NGOと付き合い、NGOと協働する、それらによってNGOの専門性と手法を認識するようになる。NGOとの協働を通して、NGOへの暗黙の偏見が取り去られていく。日本企業と日本人(社員)が、今回の大震災を契機に大きく変革するかもしれないと期待したくなる。

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