識者に聞く

東日本大震災における救援と復興への取り組みPart2[後半]:「企業とNGOの協働」と「気仙沼・大島モデル」

拓殖大学国際学部 長坂寿久教授に聞く―NGOと自治体および企業との協働

<<フェアトレード方式アプローチ>>

 復興・雇用への取り組みでは、フェアトレード的なアプローチも既に始まっている。フェアトレーとは開発途上国の農家・零細生産者の自立を支援する、いわゆる「国際産直運動」であるが、東日本でも、フェアトレード的なビジネスアプローチによる取り組みがいくつか発進している。

ネパールを対象として活動しているフェアトレードの専門団体のネパリ・バザーロは、災害発生と共に現地(東日本)へ入り、当初より釜石、石巻、東松島、陸前高田を中心に活発に支援活動を進めてきた。物資支援(食品、生活基本セット、文具、電気毛布等々)、炊き出し支援、温泉招待企画、学校支援、日本人と結婚した方の一時帰国支援、老人介護NPO法人の再開支援、健康推進プロジェクト支援等々、ニーズの変化に対応して多角的な支援をしている。

その中でも、雇用対策となっているのは、陸前高田の障害者施設「すずらんとかたつむり」との協働事業である。気仙沼の名産品である食用の「気仙椿油」の復興と製品化である。ネパリは機械設備(約200万円)の提供と共に、製品化にともなう必要経費を提供すると共に、その販売をネパリのフェアトレード商品の販売経路を通じての販売協力を行う。

「すずらんとかたつむり」は、陸前高田にある岩手県高齢者福祉生活協同組合「すずらん」と障がい者家族の会「かたつむり」が合体して設立された障がい者福祉サービス団体である。今後はこの新団体とネパリの共同プロジェクトとして、昔から北限の椿として気仙沼特産として根付いていた「気仙椿油」を復興生産する。今回の津波で海岸近くの椿油工場が壊滅したためで、発売は来年秋になる見込みである。

フェアトレード活動を展開している第3世界ショップが取り組んでいる、「市民復興トラスト」と「リサイクルニットプロジェクト」も、共に雇用促進型である。『市民復興トラスト』は、すべてを失った被災者の方に加工場をつくるための資金を提供するトラストを女性の起業を支援するWWB/ジャパンと立ち上げた。1口5万円で40口、計200万円を集めて提供した。被災したところを改装して加工場を作り、そこで商品ができたら、お金を出してくれた人々に順次5万円分の商品を現物でゆっくり返していく仕組みである。第1号は岩手県洋野町種市のレストラン「種市ふるさと物産館 はまなす」を流された女性経営者に提供した。

「リサイクルニットプロジェクト」(ニットで仕事づくりプロジェクト)は、被災者の方々への仕事づくりとして、原料となる糸は全国の家庭で使われていない毛糸を提供してもらい、編み棒も提供してもらう。それを被災者に送り、デザイナーの協力を得て、上級者から初心者までのアイテムを用意し、各編み手のペースに従って編んでもらう。それを第3世界ショップが買い手の募集を行う。これも『市民復興トラスト』方式で、1口3万円を拠出してもらい、3万円相当の製品(小物類やショール類等とりまぜて)を完成次第届ける。また、スリランカなど第3世界ショップの活動地域の生産者からは、カレースパイス4万5000食分の提供があった。 

その他に、フェアトレードの促進活動の一環として展示スペースの借り上げやデザインに特化している福市手編みのブローチの生産を行い販売する「イーストループ」プロジェクトを立ち上げている。商品価格(840円)の50%が生産者グループに届く仕組みである。かぎ針編みの小さくて可愛らしいハートのブローチで被災者たちに手作りで作ってもらう。NGO法人の「遠野山・里・暮らしネットワーク」(岩手県)の協力のもとに、大槌町、陸前高田市などで生産する。今後は宮城県、福島県にも広げて行きたいとしている。

被災地の女性たちに仕事の場を提供する「東北グランマのクリスマスオーナメント」というプロジェクトも宮城県石巻市北上町十三浜大指を中心として始まっている。オーガニックコットン製品の製造過程で出る残布(ざんぷ:裁断後に余った布)を活用して大指と共に、岩手県久慈市および陸前高田市で被災した女性たちに内職仕事を提供する。被災後に補足した支援グループ「チームともだち」が、オーガニックコットンメーカーの(株)アバンティと協働するプロジェクトで、東日本大震災被災地との“仕事づくり ”と“こころの交流 ”を目的とした取り組みである。 

<<マイクロクレジット的手法による事業再開資金の提供>>

フェアトレード的手法による雇用創出と共に、マイクロクレジット的手法による事業再開資金の提供プロジェクトも、企業とNGOとの協働によってすでに起こっている。

旅館愛好家たちの旅館サイトである「タビエル」が運営する「旅館復興プロジェクト」は、支援したい旅館に1口5000円を振込むサポーター制度である。一種の前払い制度で、旅館からは前払い証書が届き、2014年3月11日まで有効である。将来お客さまが来てくれる、自分たちを支援してくれるお客さまがいるという意思表示となり、旅館運営の励みにしてもらおうというものである。

ファンド運営のミュージックセキュリティーズも被災者支援ファンドを設立した。水産加工会社を中心に企業を掲示し、支援者はその中から企業を選び1口1万円を振り込むと、生産再開後に相当分の商品を受け取ることができる。但し、再建が思わしくいかない場合にはリスクとなる。

復興へ向けて、こうした一つ一つの小さい取り組みから、今後はさらにダイナミックで本格的な起業や生産再開、再生へ向けての企業とNGOの協働プロジェクトが誕生していくであろう。(2010年9月寄稿) 

長坂寿久(ながさか としひさ)

拓殖大学国際学部教授(国際関係論)。現日本貿易振興機構(ジェトロ)にてシドニー、ニューヨーク、アムステルダム駐在を経て1999年より現職。『蘭日賞』(2009年)受賞。主要著書として『NGO発、「市民社会力」-新しい世界モデルへ』(明石書店、2007)、『NGO・NPOと「企業協働力」――CSR経営論の本質』(明石書店,2011)、等多数。

Part 2[前半] 「企業とNGOの協働」と「進化する日本企業の対応」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/10/31/analysts-part2-kesennuma1/ 

Part 1 「企業と自治体の協働」と「石巻モデル」とはコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/05/16/analysts-ishinomakimodel-part1

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