欲望をもっとコンパクトに。自然と共生する。[後半]

坂本龍一(音楽家)+後藤正文(音楽家)+岩井俊二(映画監督)

政治家の責任とは

坂本 外から見ているとあの人はブレて、決断力もなくて、ということになっています。でも、周囲は原子力帝国の敵ばかりじゃないですか。よくがんばったとも言えます。擁護する気はないのですが…。菅さんじゃなかったらもっとひどいことになっていた可能性もありますから。

岩井 マニュアルがあるかないかが分かれ目だと思います。急になにかが起こるわけですよね。会議やっている時間もないわけです。みんながあらかじめ用意してあるマニュアルにそって右へ行って、左に行って、緑のケーブルを切るか、赤いケーブルを切るかというようなことがあるわけじゃないですか。そういうマニュアルがあってこその世界で、原発事故に関してはマニュアルが用意されていなかったわけですね。

結局会議したり、打合せをしたりするだけで終わっているわけです。ともすれば彼の言っていたことが正しかったのか、間違っていたのかという議論になりますが、緊急時に最後の最後の最後のマニュアルさえも用意されてなかったわけで、その時点でお手上げですよ。東電も逃げるしかなかったわけですね。

今そのマニュアルがつくられているのかといえば、それもありません。もう一度電源が喪失しても、大丈夫ということになっているのか心配です。

坂本 地震の時点で配管がだめになったという説もあります。すでに電源喪失が始まっていたという話です。

後藤 浜岡原発の隣に原子力資料館があるのですが、そこに福島と同じ形の実物大のモデルがあります。結構パイプは細いのです。すごい精密機械です。

岩井 印象だけでいうと津波で壊れたようですが、よく考えてみると、4つの建屋そのものは津波の後も建物自体は壊れているようには見えません。ところがそのあと、建屋が水素爆発を起こすわけです。全電源が喪失していたのに水素爆発する、この火種ってなんだろうと考えませんか。だれかがタパコでも吸ったのか、それって燃料が出ていたからじゃないかと思います。

坂本 8時間後にメルトダウンが始まっていたのでしょう。その時点で炉内が何千度かになっていたわけですよね。

岩井 なにかの火種がそこにあったということですよね。メルトダウンまでいくのだと言っていた先生がいましたが、そのとおりの結果になった訳です。

リスクの少ない社会をつくれ

坂本 大変な問題ですが、片一方でたかが電気じゃないかとも思います。電気の作り方なんて方法がいくつもあるわけです。たくさんあるものをうまく組み合わせてつくればよいものを、わざわざリスクのある方法でつくる必要があるのかと思います。しかも、辺鄙なところでつくって、福島第一だって東京に電気を送るためにあった訳ですから。福島の皆さんは今も大勢の方が避難しているけど、自分たちの電気じゃなかったわけです。辺鄙なところでつくって長い電線を引いて東京まで引っ張ってくるというのは、非常に不合理ですよね。

僕は2050年くらいになると電気は各家庭でつくるのが当たり前の時代になると思います。そしたら原発のようなリスキーなものに頼る必要はないし、遠くにケーブルを引っ張る必要もありません。年間に10兆円以上も海外にエネルギー代を払うのだったら、日本の森林とか農業とかに回して雇用も創出した方がよいと思います。そういう社会に早くなってほしいと思います。(会場から大きな拍手)

岩井 昔は自分たちの足元を掘って井戸をつくっていました。それがいつの間にか水は遠くから運ばれてくるものと洗脳されていました。電気も遠くから運ぶのではなく、自分の近くでつくって使うというのが当たり前の時代になってくれればと思っています。

後藤 原発は原子力でお湯を沸かしてタービンを回しているだけです。つくった電気でもう一度家でお湯を沸かすというのはどう考えても合理的ではありません。無駄なのです。それを知っていればもっと節約できるのではないかと思います。

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