国内企業最前線

廃食油を東京の資源に

TOKYO油田(株式会社ユーズ) 染谷ゆみさんに聞く

使用済み食用油から軽油代替燃料を生産へ

染谷:そのころ、バイオ燃料に関するある記事がきっかけで、父は使用済み食用油から軽油代替燃料をつくる実験を繰り返していました。私の入社で弾みがついたのかもしれません。1993年、廃食油の実に95%が活用できるVDF燃料の精製に成功します。

1リットルの廃食油を再生すれば、約900〜950ミリリットルのVDF燃料ができます。それを大きな2トントラックに給油すると約6.3キロメートルも走るのです。VDF燃料というネーミングはVegetable Diesel Fuelという和製英語ですが、父の会社である染谷商店の登録商標です。同じくBDF( Bio Diesel Fuel)という登録商標も行っています。世界がバイオ燃料に注目するかなり前の話です。

Q3 事業化となるとハードルはかなり高かったのではありませんか。どのようなきっかけでTOKYO油田(株式会社ユーズ)につながっていったのでしょうか。

染谷:環境の仕事がしたくて父の会社に入ったわけですから、企画営業部門を立ち上げ、「自社での油回収」「廃食油を使った自社商品の開発」を旗印に、引退する先輩からお客様を引き継ぎ、油の回収を始めました。当時、海外から新油がどんどん入ってきて廃食油業界に見切りをつける人も少なくありませんでした。バブル景気の終盤に差し掛かっていましたが、油の回収は典型的な3K(キツイ・汚い・危険)の職場といわれました。それを20代の若い女性が始めるというのですから、周囲からはずいぶん怪訝な目で見られましたね。

使用済み食用油の価値を社会と共有する仕組みづくりを

染谷:93年に父と一緒にVDF燃料を完成させ、97年には回収部門を中心とする株式会社ユーズを設立しました。「使用済み食用油」の価値を再認識し、あらゆるところから丁寧に集め、しっかりと再資源化する仕組みづくりを急ぎました。また、そうした一環したシステムの確立とその価値を社会的に共有することが不可欠であり、そのための会社でもあります。

開発したVDFプラントやVDF燃料を使用する意味をお客様にお伝えしながら、使用済み食用油が資源であること、それを集めるにはみなさまの協力が必要なことをご理解いただけるよう努めました。私たちの会社、株式会社ユーズの仕事が、回収やリサイクル・システムの確立に留まらない理由のひとつはそこにあります。

廃食油の回収と再資源化のサイクルを説明

株式会社ユーズを設立して間もないころ、都心のお店に油の回収に行こうしたときの話です。交差点でクルマを停めると、突然、「トウキヨウ……ユデン」という言葉が浮かんだのです。「東京は大きな油田だ‼」という思いが確信となった瞬間なのです。
2007年に「TOKYO油田2017」をキックオフし、すべての廃食油を資源化しようという、強化プロジェクトをスタートさせました。

Q4 事業化のいちばんのポイントはどのようなところにあるのでしょうか。

染谷:既存の廃食油回収業と異なる点は、家庭からの使用済み食用油の回収に重点を置いていることです。飲食店などからの油を集めるシステムはこれまでもありました。しかし、廃食油全体の40%近くを占める家庭からの廃食油のほとんどがこれまで捨てられてきました。数度にわたる私たちのアンケート調査では、多くの家庭で廃食油の処理に困っていることが分かっています。

現在、凝固剤を使って焼却処分というのが一番多い処理方法ですが、排水口に捨ててしまっているという家庭もたくさんあります。家庭で捨てられた大さじ一杯の(15ミリリットル)の油を魚の住める水質に戻すには、なんと風呂桶10杯(約3000リットル)の水が必要になるといわれています。

いま、私たちは一般家庭から廃食油を集めるシステムづくりに知恵を絞っています。一般家庭が凝固剤購入に充てる費用では、トラックを使って廃食油を回収するところまでいきません。廃食油の回収を行政が進め、私たちもそのお手伝いをしていますが、なるべく税金を使いたくありませんから……。

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