「科学技術は環境(エコ)の基本」シリーズ

【第1回】東日本大震災と科学技術

~科学の目で今を選択することが、未来を変える~

自分を守るために科学技術を知る時代

原子力発電所事故を契機に、個人でも放射能を勉強される方が増えました。

長尾:私の知っている若いお母さんグループはお金を出し合って500万円もするベクレル検定器を購入して放射線量を計測しています。小さな子を持つお母さんたちにしてみると行政の対応を待っていられないということでしょう。一般のお母さんたちが福島高専(福島工業高等専門学校)の先生方と一緒に野菜などをチェックすることも震災直後から行われています。ただ、地元レベルで除染が始まったのは震災から随分後です。

渡辺:除染に関しても、行政の作業を待つ、いわば他力本願ではなく、自分で出来ることもあります。例えば、庭を5-10cm掘り返すだけで線量が大きく下がると知らない方もたくさんいます。

長尾:ここに私の家の庭の放射線量の数値を計ったシートがあります。セシウム134と137の合計で地面から0~3cmでは1,300ベクレル、地面から3~5cmの土壌は100ベクレル、地面から5cm以上の土壌では一桁レベルになり、自然由来(自然と同じレベル)の放射線量となります。こうしたことは科学に多少の知識があれば分かることです。

渡辺:一方で除染という言葉には、除染作業をするとゼロになるような風潮もありますので定義づけが必要と思います。

長尾:除染で何がどこまで出来るのか、ここまでしか出来ないがこれだけコストがかかると、政府はきちんと国民に知らせ、理解を求めるべきだと思います。

今回の福島第1原子力発電所事故由来の放射性セシウムの場合、半減期(注)はセシウム137が約30年、セシウム134が約2年と言われています。一方で134の方が、寄与率が30%ほど高いと言われており、つまり非常に大雑把なことを言うと、2年経つと30%は減少する。それでも除染に多額の費用が掛かります。除染をしない方が良いと言っているのではありません、やらなければならないけれども、一方で今のコストのかけ方が効率的とはとても思えない、もっと良い方法が有ると思います。

(注)半減期:放射性核種/素粒子が崩壊して別の核種/素粒子に変わる、元の核種/素粒子の半分が崩壊する期間。

今井:除染における費用対効果の話ですが地形的に、福島県は約8程度が山(山地・丘陵地)です。これは海外のウクライナ共和国のチェルノブイリは平地が多いので、日本とは状況が異なります。しかし、8割を占める山に降った放射能(放射性物質)は雨等で平地に流れ込む可能性もある。つまり、今の除染は平地対応で、そこに数千億円~数兆円かかるということです。 したがって、課題としては山地の現状把握と対応です。「もっと他のやり方(技術)がないのか」という議論も必要です。しかし、どんな場合でも、難しいことではあるが生活を営む地域住民の感情にも十分配慮しなければなりません。

今井宏信氏:

本シリーズの発案者でもある今井氏は科学技術エコリーダーの養成の理由を「専門家にしか分からないと敬遠せず、科学技術との新しい出会いと発見によって、全国各地で1人でも多くの方が環境問題の解決に向けた実践的取り組みに参加してほしい」と語る。

被災地の将来を見据えた復興計画とは?

長尾さんは個人の立場から、現在議論されている除染した土や放射性物質に汚染された廃棄物を最終処分するまでの“中間貯蔵施設”のあり方にも具体的な提案をされているそうですね。

長尾:まず申し上げたいですが、政府が30年後に廃棄物等を別の(福島県外の)最終処分処理所に移すという事ですが、震災以降、福島県産の松や工芸品の橋桁でさえ他県から拒否される状況です。ましてや、放射能に汚染された土を半減期が過ぎたからといって、どこで受け入れるのか、国内のみならず世界中どの地域も拒否するに決まっています。誰もが分かっていながら“中間処理施設”などという言葉を使っています。

渡辺:“中間貯蔵施設”ではなくて、将来を見据えて、最初から“最終処理施設”をどこに設置するかという議論をしなければならないのに、目の前にとらわれて議論しているのでしょうとしか思えない。

今井:現状では感情的な問題もあり、最終処分場や平地の除染廃棄物の仮置場の確保など難しい問題がある。だとすれば放射能の「現地浄化技術」でその場で基準値を下げ、現状復旧することが望ましい。つまり、どこにも廃棄物を運ばない工法が必要です。先に紹介した宮城県内の中小企業、㈱アムスエンジニアリングでは、その様な取組を行っている。

長尾:福島県を中心とする震災対応は、現在、原発事故収束と除染対策が中心です。この2点が最重要であることは議論の余地がありませんが、しかし2つとも解決には長い時間が必要です。その長い期間、原発事故被災者がどうやって生きていくのか、就業、子供の養・教育を含む生活対策はなおざりとなっている気がします。冒頭で申し上げたとおり、福島県では本人の希望とは無縁に職を求めて、または子どもを守るために県外移住し、家族がバラバラになるケースも多い。

福島県の将来を予測した時、このままでは仮に除染や事故収束が完了したとしても、既に疲弊したこの地域が元に戻ることはない、“雇用がないので誰もいなくなりました”となりかねない。

渡辺:そもそも原子力発電所がなぜ福島に来たか、その理由も「貧しさ」だよね。と感じる人もいる。

 

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