「国内企業最前線」
子どもたちの“安心・安全”にこだわったスマートフォン「miraie」開発に込められたもの。
使いながら、楽しく学べる!わが子にスマートフォンを持たせるべきか。その場で決められる親は少ないに違いない。スマートフォンの長時間利用が子どもの生活に影響を与えたり、有害なサイトにアクセスしてしまったり、ちょっとしたボタンのかけ違いで友だちとトラブルになったりする例も指摘されるからだ。このほどKDDIのauブランドから「miraie」が発売された。保護者の“安心”と子どもたちの“安全”にこだわったau初のジュニア向けスマートフォンだ。開発・普及の担当者のみなさんに語ってもらった。

座談会に参加した大久保輝夫さん、引地みち子さん、小田智哉さん
●プロダクト企画1部
小田 智哉課長補佐(miraie開発担当)
●CSR・環境推進部
引地 みち子課長補佐(ジュニア向けケータイ教室企画担当)
大久保 輝夫(ジュニア向けケータイ教室専任講師)
子ども向けスマートフォン開発に込めた思い
――ジュニア向けスマートフォン「miraie」のターゲットは小学3年生から6年生ですね。どのような点にこだわって開発された機種でしょうか。
小田:保護者の“安心”と子どもたちの“安全”を第一に考えました。ネットの危険性に対して無防備な子どもたちが不適切なサイトにアクセスしたり、トラブルに巻き込まれることのないよう、フィルタリング機能を搭載しました。またカメラ機能付き防犯ブザーは、専用の防犯ブザーキーを押すと大音量のブザーとともに、保護者に子どもの位置情報と周辺の写真を自動送信します。

小田 智哉さん
引地:最近の傾向として、小学校の低学年のうちは、保護者との連絡用に機能を限定した「mamorino」などのキッズ向けケータイを持つケースも多いのですが、塾に通う高学年になると、友だちと連絡できたりインターネットに接続できる、一般向けのケータイを持つケースが増えてきます。現在はスマートフォンの低年齢化が進み、中学生の約4割、高校生の約9割がスマートフォンを使っています。所持率の増加にともない、社会トラブルの多様化も進んでいます。
小田:徐々に小学生でもスマートフォンを持ち始めている状況です。しかし、保護者自身が端末の仕様を理解し、様々な機能制限をかけるのはとても難しくなっています。そこでmiraieでは様々な機能制限を、端末の初期設定の中で簡単に設定できるような工夫をしています。また、安心の要であるmamorinoに入っていた電話帳制限の機能は、このmiraieでも踏襲しています。電話帳に登録した人としか通話やメールができない仕組みです。保護者が許可した家族や友だちにしか連絡できません。

親子で決めたルールを設定できる「保護者設定メニュー」
――miraieに「KDDIケータイ教室」の声は取り入れられていますか。
大久保:私は2006年からジュニア向けの「KDDIケータイ教室」を全国の学校などで実施してきました。ケータイ教室で子どもたちや保護者にケータイの安心・安全な使い方などを伝えているのですが、学校現場に出かけると、メッセンジャーアプリ(メッセージの交換機能を持つ文字通信や無料IP電話など)に関わるトラブルの話をたびたび耳にします。言葉の意味の取り違いから喧嘩になったり、誹謗中傷の書き込みからいじめに発展するケースも見られます。

全国の学校などで開催するジュニア向けの「KDDIケータイ教室」で
小田:そこで、miraieには「あんしん文字入力」という機能を搭載しました。「うざい」「ばか」「きもい」といった相手を傷つけるような言葉が入力されると、「よくない言葉かもしれませんが、それでも使いますか?」と子どもたちに問いかけます。この機能を通じて、“相手に伝える前に少し考える習慣”を身につけるきっかけになればと考えています。この機能は、入力自体を止める機能ではなく、成長に合わせて機能をON/OFFできるようにしています。
引地:子どもたちに注意するだけでなく、考えて学ばせる機能があるわけですね。

「あんしん文字入力」
――ゲームなどのアプリへの対応はどうなっていますか。
小田:スマートフォンの楽しみは、自分の好きなアプリを使えることですが、子どもが使うには不適切なアプリや危険なアプリも沢山存在します。保護者と子どもが相談をして決めるのがベストだと思います。ただ、保護者自身が判断できないケースも多いようです。そこでmiraieでは、最初から安心・安全なアプリだけを厳選した「auスマートパス」を用意しました。
引地:auスマートパスの検索機能には、不適切な検索結果を表示しないようにする「セーフサーチ機能」も入っていますよね。安心して、子どもたちが分からないことを積極的に調べるツールとしても活用できます。
大久保:アプリといえば代表的なものにゲームがありますが、夜遅くまで夢中になってしまう子どももいるようです。一部の小学校や自治体からは、夜9時以降はスマートフォンやケータイの利用を控えるようにとアナウンスされています。全国の小学校区・中学校区・PTA連合会でも、利用時間のルールを決めようという動きがあります。
引地:塾などに通っている場合、帰りが夜の10時過ぎになるという例もありますが。
大久保:9時か10時かという議論はありますね。
小田:miraieは、初期設定では夜9時以降インターネットやアプリの使用に制限は掛かりますが、例えば電話やメール、安全機能といったものは使用できます。miraieはスマートフォンでありながら「夜間はmamorinoの機能だけになる」と考えていただけければと思います。
引地:わが家の小学6年生の娘も、そろそろmamorinoからスマートフォンに変えたいといっています。一般向けのスマートフォンを持たせるのは、まだ早い気がしていましたが、安全に配慮したmiraieなら、使いながら正しいマナーも身に付けられそうですね。

引地みち子さん
子どもたちが巻き込まれるトラブルとは
――デジタル情報通信機器の普及で親たちが予想もしないトラブルに子どもたちが巻き込まれているという話を聞くのですが……。
大久保:子どもたちが無防備に画像などを送ってトラブルに巻き込まれるという事例は私も耳にします。スマートフォンを使ったケースがよくニュースになりますが、実際はゲーム機を使ったケースも多いようです。最新のゲーム機は、インターネットにつながります。ゲームを通じて知り合った人から画像などをせがまれて送り、トラブルに発展するケースが見られます。つまり、スマートフォンやケータイの問題というよりも、インターネットの問題だと思いますね。
小田:子どもたちは最新の情報通信機器に全く抵抗感がありません。子どもたちはどんどん操作を覚えていきます。私たちは保護者が安心して子どもたちに使ってもらえるスマートフォンを一日でも早く開発したいと考えてきました。
大久保:デジタルネイティブという言葉があります。最近の子どもたちは、生まれたときから水や空気と同じようにインターネットが当たりまえの環境で育っています。デジタルネイティブはもちろん良い面もありますが、問題はネットの危険性にあまりにも無防備だということです。インターネットは玉石混交で良い情報もありますが、危ない情報もあります。その中で賢く生きていかねばならないのです。
「使わせない」から「使いながら学ばせるへ」
――使わせない、あるいは制限ばかりでは、子どもたちも楽しくないでしょう。どうしたらデジタル時代にきちんと対応できる子どもたちに育ってもらえるかが大切な課題です。
大久保:「使わせない」ということは、情報リテラシー教育をしないということになりかねません。こんな例があります。お父さんが教育者だというある家庭で、娘さんが大学生になるまでケータイを持たせなかったのですが、大学生になって初めてケータイを持った娘さんは、もの珍しさもあっていろいろなゲームに夢中になり、アイテムを盗られるトラブルに巻き込まれました。お父さんは「失敗でした。せめて高校生くらいで持たせ、友だちと楽しみながら危険性を学ばせるべきでした」と私に語ってくれました。
引地:何歳で持たせれば安心という基準はありません。いまのような時代ですから、ある程度使い慣れていなければ周りに取り残されてしまいます。高校生くらいになると、保護者の意見のほか、友人等の意見も重視する時期です。ケータイの使い方について、親子で意識合わせをするのがなかなか難しいケースもあるかもしれません。miraieのターゲットは小学校中高学年ですので、まだまだ親子の対話が多い時期です。ルールや制限について親子で設定を見直しつつ、「使いながら学ばせる」ことができると思います。
大久保:ところで、フィルタリングの設定率が下がっているというデータがありますね。
小田:フィルタリングを外している保護者に理由を聞いてみると「わが子を信じているから」という回答が多くあります。保護者が使っていた端末を、そのままわが子に渡して、自宅のWiFi環境下で特に制限もなく利用させているというのを聞いて驚いた経験があります。「うちの子に限ってそんなことはしない」という意見が多いのですが、危険なサイトや映像はインターネット上にはたくさんあります。自分の意思にかかわらず、様々なサイトのリンクにある「おすすめ」機能や不適切な広告などが次々と表示されたりします。
大久保:「自分の子どもは信じたい」という親御さんには「子どもの人格はもちろん信頼しても良いですが、情報に対する判断力まで信頼できますか? 人格形成途上の子どもがアダルトや残虐な映像などマイナスとなる情報を見たらどうなりますか」と問い返すようにしています。人格形成途上の子どもたちはマイナスの情報から影響を受けやすいということです。

大久保 輝夫さん
引地:子どもたちが知らない危険もたくさんあることを、保護者としてはしっかり認識する必要がありますね。
親の思いと子どもたちの思いのはざまで
――miraieが発売されてからすでに数カ月が経ちます。利用者からはどのような反響がありましたか。
小田:これまでの調査では8割を超える親子のみなさんから「満足している」という回答を得ています。購入要因では、“安心・安全”のところを高く評価をいただいています。
また、子どもたちがスマートフォンを落としたりして壊すという心配がありましたので耐衝撃に強い構造にし、ディスプレイが割れにくい素材を採用したことも、購入要因として高い評価を得ています。購入者からのアンケートを見ると、子どもの手にフィットするデザインやピンクソーダ、メテオブルー、シトラスホワイトの3種類のカラーも評価されていました。
―― LINEなどのメッセンジャーアプリが人気ですが、子ども同士のトラブルが心配という声もあります。このあたりはアンケートで何か出ていますか。
小田:購入者のアンケート結果を見て思ったのは、保護者のメッセンジャーアプリに対する満足度は意外と高いということです。保護者自身も使っていて、子どもたちとも連絡を取りたいというニーズがあるからでしょう。miraieには、スタンプが買えないなどの一部制限のあるLINEを搭載していることも評価されていると思います。
大久保:いまの時代、子どもたちにだけメッセンジャーアプリを使うなというのは無理があります。それぞれの家族でルールを決めて使ってほしいと思います。
引地:miraieなら「あんしん文字入力」もトラブル回避に有効ですね。ところで、スタンプは人気機能ですが有料のスタンプを使いたい場合はどうしたらいいのですか。
小田:保護者のアプリからスタンプを購入し、子どもにプレゼントできます。
大久保:それはよい方法ですね。きちんと親子で話をして保護者が購入するということですね。
――スマートフォンの使い方について各家庭でもっと話し合うべきだという声もありますが……。
大久保:いろいろなやり方が考えられます。子どもたちがスマートフォンを欲しいと言ったとき、ただちに否定するのではなくスマートフォンで何がしたいのか書きだしてみるのもよいかもしれません。そこから話し合いをするのです。こういう使い方をしたらどういう危険があるのか、どういう使い方をしたら安全なのか、それが家庭での情報リテラシー教育なのです。その上で子どもに考えさせ、親も納得できる家庭のルールを決めるのです。
引地:子どもにスマートフォンを持たせた後も、きちんとルールを守って使っているか、どのような使い方をしているかについて、常に親が興味を持つことが大切ですね。また、フィルタリングを解除して欲しいと言ってきたときは話し合いのチャンスです。どうしてそのサイトがフィルタリングの規制対象になっているのかを一緒に考え、危険に遭わないためのルールを決めたうえで、そのサイトのフィルタリング規制を解除しましょう。それを繰り返すうちに、フィルタリングをすべて外しても、“安心・安全”に使えるようになるのではないでしょうか。
小田:文部科学省は2020年に向けて子どもたち1人1台の情報端末を整備すると言っています。教育のIT化はますます加速していくでしょう。
引地:海外に比べると、わが国のタブレット端末の普及率はまだ低く、これから伸びていくと予想されています。これからの子どもたちには、パソコン、スマートフォン、タブレットなど複数のデバイスを上手に使い分け、未来へ向けて大量情報時代を賢く生きる力をはぐくんで欲しいと思っています。(2015年6月)
ジュニア向けスマートフォン「miraie」
http://www.au.kddi.com/mobile/product/smartphone/kyl23/
au初のジュニア向けスマートフォン。お子さまが安心安全にお使いいただける機能を満載し、耐衝撃設計も備えた。専用キーを押すと防犯ブザーが鳴り、保護者にお子さまの居場所と周囲の状況写真を自動送信する。お子さまの年齢にあわせたフィルタリングレベルの設定が可能。メールで不適切な言葉が入力された場合に注意する「あんしん文字入力」も搭載した。
KDDIグループのCSRについて
http://www.kddi.com/corporate/csr/
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http://time-space.kddi.com/index.html
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