国内企業最前線
社会の成熟に公共広告で寄与したい
ACジャパンの活動とその役割元タレント中居正広さんの女性トラブルの余波でフジテレビへの広告自粛が続いています。フジテレビではCM枠の多くをACジャパンの広告に差し替えるなど、対策に追われています。視聴者からは「ACジャパンって何?」との声も多く聞かれます。今号では、ACジャパンのこれまでの活動を振り返り、その役割を追ってみました。[2025年2月14日公開]

いま、なぜACジャパンの広告か
2月に入りました。フジテレビを見ると多くの番組でこれまでの広告主がCMを自粛し、ACジャパンが制作した公共広告が数多く登場しています。
ACジャパンをよく知らない一部視聴者からは「こんなときにどうしてフジテレビに広告を出すのだ」とACジャパンに苦情も多く寄せられているようですが、そうした誤解を解くために本誌ではACジャパンの活動と役割をおさらいしてみました。
民放と呼ばれる民間のテレビ局は、番組制作を広告収入で賄っているため、CMスポンサーの確保が大前提となります。CM枠は事前に秒単位で販売され、数カ月先まで広告主と契約を行っています。
しかし、今回のような突発の不祥事が発生すると、企業ではフジテレビの番組スポンサーになることで企業イメージが棄損するデメリットを恐れ、すでにテレビ局側に広告費を支払っていても、CMの自粛を優先します。新たなCM契約についても事態の推移を見極めてからということになるのです。
「あえてACジャパンの広告を流さなくても…」と思われるかもしれませんが、放送局にはフジテレビのようなキー局と傘下のローカル局があり、それぞれに番組やCM枠が異なるケースもあります。番組をスムーズに流すためにACジャパンの広告は貴重な中継ぎの役割も果たしているのです。それは後ほど述べるACジャパンがめざす本来のあり様ではないのかもしれませんが、テレビ局側にはありがたい存在といえそうです。
ACジャパンは非営利の公益社団法人であるため、テレビ局などメディアへの金銭の支払いは生じません。ただし、このあとも数カ月にわたってスポンサーからの広告自粛が続き、新たな広告契約が大幅に減少するとテレビ局の経営は大きな痛手を被る可能性があります。以下にACジャパン本来の活動と役割を探ってみましょう。
ACジャパンってどんな団体
ACジャパンがうぶ声をあげたのは1971年。「企業が少しずつお金を出し合い、世の中のためになるメッセージを、広告という形で発信しよう」という呼びかけがきっかけでした。2009年には社団法人公共広告機構から社団法人ACジャパンへと名称を変更し、2011年には活動の公益性も認められ、公益社団法人ACジャパンとなりました。
ACジャパンのキャンペーンでは、これまでに「公共マナー」「いのちの大切さ」「環境問題」「親子のコミュニケーション」といった時代を超えた普遍的なテーマをはじめ、「多様性」「ネットモラル」「災害」など世相を反映したテーマ、公共福祉活動に取り組んでいる団体を支援するキャンペーン、阪神淡路大震災や東日本大震災など大災害時の防災キャンペーンなどを取り扱ってきました。
今回、フジテレビを見ると、往年のアイドル近藤真彦さんが「難聴啓発キャンペーン」CMに登場したり、なかやまきんに君がなかやまけんみゃくんと名乗って「検脈の大切さ」を訴えたり、個性俳優である嶋田久作さんが登場する『決めつけ刑事』篇ではSNSなどの噂話で善悪を判断することに警鐘を鳴らしています。また、ギャルの代表であるゆうちゃみさんが登場するCMでは、いつどこで起きるか分からない災害に備えて、「約3日ぶん」の備えをと呼び掛けています。
つまり、ACジャパンの活動は、民間の企業・団体が持てる資源を少しずつ出し合い、社会にとって有益なメッセージを広告という形で発信するCSR活動の一環でもあるのです。

嶋田久作さんの『決めつけ刑事』の広告(下)。いずれも新聞広告から

ACジャパン活動のしくみ
ACジャパンは、民間企業の企業・団体会員と一般生活者の個人会員の協力によって運営されています。その活動資金はすべて会員の会費によるもので、公的な資金は一切受けていません。
現在、ACジャパンの活動に参加する企業・団体会員は約1,000社に及びます。北海道から沖縄まで8つの事務局があり、各地域キャンペーンなどを行う地域の運営委員会には企業・団体会員から延べ300人近い方々が、企業の社会貢献活動の一環としてボランティアで参加しています。
全国8つの運営委員会には、制作部会も設けられ、キャンペーン作品の制作実施、広告品質の管理を行うほか、東京と大阪にはメディア部会も設けられ、キャンペーン作品の考査のほか、送稿・掲載・放送に関する情報交換を行っています。

ACジャパンの広告が果たす役割
設立から50年を経たACジャパンの歩みを振り返ると、その時々で話題となった事案とともに社会背景も浮かんできます。
たとえば、公共広告機構時代の1985年8月12日には『日本航空123便墜落事故』がありました。また、1989年1月7日の『昭和天皇崩御』 、1995年1月17日の『阪神·淡路大震災』、 2004年10月23日の『新潟県中越地震』にも多くの広告が出ています。さらにはACジャパン変更後の2011年3月11日に起きた『東日本大震災』 、2020年2月〜2023年4月の『新型コロナウイルス感染症拡大』でもACジャパンの広告が数多く出番を迎えています。
近年では、2022年7月8日の『安倍晋三首相銃撃殺人事件』、 2022年8月の『ビッグモーター不祥事』 、2023年9月の『ジャニーズ問題』 、2024年1月の『石川県能登半島地震』と 『日本航空516便炎上事故』 でACジャパンの公共広告へのCM差し替えが多く見られました。
公共広告には、「政府広報」なども見られますが、民間が運営する ACジャパンの広告にはより自由で多彩な表現が見られ、出色の出来の広告が多いとされています。
元タレント中居さんの不祥事の影響でフジテレビ系列を含むスポンサーの降板は、社会的にも大きな影響を与えていますが、健全な社会の発展に広告が果たす役割を再考する上で、ひとつのきっかけになるかもしれません。

「約3日ぶん」の備えをと呼び掛ける。画像は新聞広告から
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