旅のスケッチ画とペットボトルアートで個展80歳の挑戦。やりたいときに、やれることを。

人生100年時代といわれて久しいが、あなたはどんな人生を思い描いていますか。80歳を迎えた金原京子さんは、昨年ニュージーランドに一人旅をし、このほどその旅の思い出を描いたスケッチ画とライフワークのペットボトルアートで“心のオアシス”と題する個展を開催しました。[2025年5月25日]

個展会場前の金原京子さん。ハートマークはペットボトルで

80歳を迎えた記念に、いまできることを

79.5歳の金原京子さんが20日間のニュージーランドの一人旅に飛び立ったのは2024年2月21日のこと。ニュージーランド第2の都市ウェリントンに住む姪(弟の娘さん)からの誘いに応えたものでした。

航空会社のカウンターでe-チケットをかざしてもエラーになる、ようやく飛行機に乗ると携帯電話の電源がダウンして使えない、朝方5時に到着したオークランドでは予定していたウェリントン行の便が欠航になるーーなどトラブル続きのスタートとなりました。

それならと早い便に変更して目的地のウェリントンに到着すると、便の変更が伝わっていなかったためか姪御さんの出迎えはありません。途方に暮れる金原さんの様子を見て航空会社の女性職員が姪御さんに電話をしてくれ、数十分後にようやく迎えが来ました。姪御さんの最初の言葉は「よく一人で来たね」だったそうです。

海から見たウェリントンのゆったりした町並み(金原さんのスケッチ画から)

姪御さん夫婦は共働き。一人息子も昼は学校で留守とあって、毎日をどう過ごすかと苦心の末に、その家の一人息子の携帯電話を借り、SIMカードを入れ替え、翻訳アプリの助けを借りてどんどん行動範囲を広げていきます。

海と丘陵地に挟まれたウェリントンの家並はどの家の敷地も家屋もゆったりしています。姪御さんの家は古家を購入して2年を掛けて自らの手で自分好みにリフォームしたもので、トイレや風呂、キッチンはまだリフォームの途中。お風呂はシャーワーのみでした。

お世話になった姪御さんの家(金原さんのスケッチ画から)

昼は時間のゆるす限り市内のあちこちに出かけました。現地のネイティブであるマウリ文化の織物や船の細工に興味が湧きました。


知る人は誰もいない初めての地へ

1週間ほどした2月27日(火曜日)。朝6時にウェリントン空港に送ってもらい、今度はニュージーランド南島のクイーズタウンに出かけました。内陸のワカティプ湖畔に面した保養地です。これからの3日間はホテルでの一人暮らしです。

チェックインは14時でしたが、たまたま日本からの新婚さんがいて通訳をしてくれ、隣の部屋に早く入れてもらいます。部屋は広く、自炊ができるような設備も整っていました。でもその日は眺めのよいレストランで夕食を摂ることにしました。ニュージーランドの物価はどこも高く、日本と比べるとほとんどの物価は高いのですが、もう来れないと思い奮発することにしました。夕焼けで色づく山々の景色を見ながら、一人の食事を堪能します。

次の日はバスに乗って古い家並が続く街並みを眺めながらアロータウンを目指し、博物館にも行きました。アロータウンは19世紀半ばゴールドラッシュでにぎわった町。そこで新潟から来た母親を案内する日本人の親子に出会いました。親子のクルマに同乗させてもらいワカナ湖にも案内してもらいました。

ニュージーランドの田舎の村の風景(金原さんのスケッチ画から)

2月29日(木曜日)。この日はホテルの隣部屋にいる新婚夫婦が日本に帰る日。クイーズタウンで評判のハンバーガ―屋さんに一緒に行きました。買ったばかりのバーガーを持って3人で湖畔のビーチで食べました。

翌日の3月1日はウェリントンに戻る日。飛行機の出発までには時間があったので、もう一度アロータウンに行ってみることにしました。30分遅れでやってきたバスに飛び乗って分かったのは、バスカードの残金が少なくなっており、このままでは元の場所に帰れないということでした。

困っていると、「近くでお店を出している日本人の友人がいる」という人がそのお店に連れて行ってくれました。お店の日本人は「それはお困りでしょう」と円をニュージランドドルに換えてくれました。その店で昼食を食べ、川沿いを歩くとルピナスの花が咲き、ポプラの大木が風に揺れていました。お店に帰ると、その店の主人が、おにぎりと小ぶりの梨を持たせてくれました。

その日の夕刻、無事ウェリントンに戻ることができました。


ゆったりとした時間が流れる街で

3月3日(日曜日)は日本のひな祭り。姪御さんは午前中に息子さんを市内の女子高体育館で開かれるバスケット教室に送りました。教室が終わったあと、3色ムースと桜餅とどら焼きを買いに行きました。

そのお店は日本女性が経営していました。夕食前に洗濯物をたたみ、夕食のあと、みんなでお菓子を食べました。どの味も日本と遜色がありません。姪御さんの心遣いにあらためて感謝しました。

バナナは量り売り。持参の買い物袋にそのまま入れるだけ(金原さんのスケッチ画から)

3月4日(月曜日)。朝から雨風が吹き殴る荒天でした。朝食のあと、みんなは出勤や登校ですが、息子さんの体操着が見当たりません。私が洗濯物を干した場所を忘れたのが原因でした。あわてた姪はドアにカギを掛けて出かけてしまいました。外に出て見送りをした私は家に入れず、お隣のマウリ人の家族にすがるしかありません。隣人は私の背中を撫でてくれました。「大丈夫だ」と安心させるためでした。電話でスリムな男性が来てくれ、窓を少しずつ開けてようやく中に入れました。私はお隣さんに思わずハグしてしまいました。

数日後、カギの件でお世話になったお隣のアブローさんにお礼をと、日本女性が手づくりしたドラ焼きを持っていくと、「家に上がって」と言われました。そこでチョコチップパンとコーヒーをごちそうになり、その家の娘さんと翻訳アプリを使って話をしました。

ウェリントンの町にもようやく慣れ、気に行った場所にも行けるようになってきましたが、日本に帰る日が近づいてきます。

3月11日(月曜日)。いよいよ日本に帰る日が来ました。朝5時20分に起きて、ウェリントン空港まで送ってもらいます。空港でコーヒーを飲みながら、楽しい旅だったとあらためて姪御さんに感謝を述べました。オークランドには8時35分に着き、9時55分発の便に搭乗して、10時間後には無事成田に到着しました。

いまこの旅を振り返ると、ニュージーランドではゆったりした時間が流れ、さまざまな人との出会いが印象に残ります。どの人も高齢者の一人旅と知って、親切に接してくれました。好奇心だけが旺盛な私には、出会いに恵まれた素晴らしい旅になりました。

旅の模様を話してくれた金原さん

“もったいない”の思いから始まったペットボトルアート

10代で桑沢デザイン研究所に学んだ金原さんは、デザインの世界になじめずイラストを学び直し、雑誌などにフリーランスとしてイラストを提供してきました。

ペットボトルアートに出会ったのは18年ほど前。地元の信用金庫が運営するギャラリーに関わるようになり、窓口となった女性から「立体をやってみたら」とアドバイスを受けたのがきっかけでした。

主婦でもあった金原さんは、ゴミの捨て場に放置されたペットボトルの山を見て、ずっとなんとかならないかと考えてきました。ペットボトルにハサミや熱で加工を加えた金原さんの作品は、その後立川の昭和記念公園のギャラリーをはじめ、美術館、百貨店などさまざまな場所に展示されました。

「捨てればただのゴミだけど、少し手を加えるだけで喜んでもらえる」。80歳になった金原さんは今日も“心のオアシス”を求めて元気な日々を送っています。

金原京子さんのプラスチックのアート作品

★心のオアシス 金原京子展
 2025年5月15日(木)〜26日(月) (火・水定休日)
 調布市布田2-32-8 ギャラリーみるめ
http://mirume.com/gallery/


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