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国連地球生きもの会議を振り返って Part 1
がけっぷちの地球を救え
国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」  小林邦彦さん/細田幸佑さん


名古屋市で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10:国連地球生きもの会議)は、10月30日未明、医薬品や食品のもととなる動植物など遺伝資源の利用を定める「名古屋議定書」と、生態系保全の世界目標「愛知ターゲット」を採択して閉幕した。連日、ぎりぎりの交渉が続いただけに参加者たちは一様に安堵した様子だ。COP10に関わった若者たちの声を2回にわたって報告したい。1回目は、学生などを中心とした国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」のメンバーに話を聞いた。


Q. お二人が参加するA SEED JAPANのご紹介からお願いします。

小林:A SEED JAPANはAction for Solidarity, Equality, Environment and Developmentの略称で、「青年による環境と開発と協力と平等のための国際行動」と訳されます。

1991年10月に設立された日本の青年による国際環境NGO(非政府・非営利組織)で、1992年6月にブラジルで開催された「地球サミット(国連環境開発会議)」へ青年の声を届けるため、世界約50カ国70団体が参加して「A SEED国際キャンペーン」が行われました。

その日本の窓口として、全国の青年の声をまとめ、国連へ提言書を提出したのが始まりでした。現在の会員は、学生を中心に1,200名ですが、東京都内の事務所で中心的に活動しているメンバーは100名ほどです。


「A SEED JAPAN」
小林邦彦さん(右)と 細田幸佑さん

Q. 小林さんは生物多様性条約を前進させるために組織された「生物多様性条約市民ネットワーク」で「遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する作業部会長」をされていますね。
小林:「生物多様性条約市民ネットワーク」は締約国はじめ多様な主体に対して、地球規模課題の解決に向けた合理的な提言および情報発信を行うために、国内のNGO/NPO、個人さらには生物多様性保全に取り組む企業などが集まったものですが、「遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する作業部会長」はなり手がなく、ドイツのボンで開かれたCOP9で海外のNGOメンバーから日本でも遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に対応する人間が必要だという話を聞いていたこともあって、ホスト国の一人としてやらねばと思い、立ち上がりました。

1カ月前に行われたカナダの準備会に参加し、COP10でABSの問題が大きな論点になることを知り、あらためて名古屋会議の大切な意義を痛感しました。


Q. 細田さんはA SEED JAPANの一員として、COP10ではどのような役回りをされたのでしょうか。
細田:遺伝資源の問題以外に、名古屋会議では生態系保全の新たな世界目標いわゆる「愛知ターゲット」を決めるという課題がありました。私自身は「愛知ターゲット」にA SEED JAPANが掲げてきた主張を盛り込むための活動を行ってきました。

このような大規模な国際会議は私にとってはもちろん初めての経験ですが、海外の主張を同じくするNGOのメンバーと協力しながら、いわゆるロビー活動などに専念しました。


Q. COP10の会議は難産の末に遺伝資源の利用について定める「名古屋議定書」と、生態系保全の世界目標「愛知ターゲット」に合意して閉幕しました。お二人はCOP10をどのように評価しますか。
小林:遺伝資源へのアクセスと利益配分の討議は10月15日から始まりました。途上国と先進国は、この問題で真っ向から対立しており、当初、両者とも譲る気配は全く見られませんでした。ご存知のように大きな論点は3点ありました。

1点目は遺伝資源を過去にさかのぼって利益配分の対象にするかという課題。 2点目は遺伝資源の不正持ち出しに対する監視のあり方。 そして3点目は遺伝資源の利用から得られた成分を改良した「派生品」を利益配分の対象にするかという課題でした。途上国の多くは「過去にさかのぼって利益配分をすべき」との主張でしたが、先進国は国際法の常識に反するということで反対でした。

結論からいうと「名古屋議定書」では過去にさかのぼっては利益配分の対象にしないということでした。もう1つ目の不正の監視については、各国でチェック機関を1つ以上設け、不正の監視に当たるということになりました。3つ目の「派生品」の利益配分については、契約時に個別に判断するというやや玉虫色の結論となりました。


Q. 一時はだれもが決裂かとあきらめかけた場面もあったように聞いていますが。
小林:昨年、コペンハーゲンで行われた気候変動に関する国際会議が議定書にたどり着けなかっただけに、COP10で「名古屋議定書」にこぎつけた意味は大きいと思います。対立構造は先鋭化していましたが、27日から開かれた各国の閣僚級会議で潮目がやや変わり、まとめようという空気も生まれました。

ただ予断は許さず、最終日の29日の深夜に議長役を務めた松本龍環境大臣が途上国への資金援助を含めた議長案を提示し、ぎりぎりのところで議定書の採択が決まりました。中身については弱い部分もありますが、確実に一歩踏み込めたという意味で及第点の60点くらいかなあと思っています。


Q. 生態系保全の新戦略目標である「愛知ターゲット」についてはどのように評価されていますか。
細田:「愛知ターゲット」は、2050年に向けた中長期目標とされる「ビジョン」と2020年に向けた短期目標とされる「ミッション」のほか、「生物多様性の損失の根本原因に対処する」「生物多様性への直接的な圧力を減少させる」「生物多様性の状況を改善する」「生物多様性の恩恵を強化する」「能力構築などを通じて条約の実施を強化する」の5つの戦略目標とその下の20の個別目標から成り立っており、会議ではそれぞれの内容や含まれる語句が議論の対象となりました。

A SEED JAPANでは、そのうちターゲット5の「自然生息地」、ターゲット6の「漁業」、ターゲット10の「気候変動への耐性」、ターゲット11の「保護地域」の4つの個別目標と短期目標である「ミッション」にしぼってロビング活動を展開しました。
結論から申し上げると、私たちの主張が入れられた部分と入れられなかった部分はありますが、2002年に決まった2010年目標に比べれば、個々の目標もかなり具体的に決まり、70点くらいは付けられると考えています。


Q. 成果できる点といま一つだった点についてお話ください。
細田:まず、「ミッション」からいうと、2つの大きな対立がありました。1つは「生物多様性の損失を止めるため」なのか「止めることを目指して」なのかという言葉の強弱を巡る対立。こちらは「生物多様性の損失を止めるため」という明確な文言が選ばれ、私たちも評価しています。

もう1つは2020年までに何を達成するのかというところで、複数の意見が対立しました。EUやパラオは「2020年までに生物多様性の損失を止める」というような明確かつ野心的な提案をしたのに対し、その他多くの国は「2020年までに緊急かつ効果的な行動を行う」という現実性重視の提案を支持し、メキシコやマレーシアなどからは「2020年までに」という時間的な拘束の文言は入れなくてよいという意見も出ました。

結果的には1つ目のパラグラフの2文目に「2020年までに」という文言が入り、野心的なEU案こそ採択されなかったものの、時間的拘束が含まれたということで最低限の評価はできると考えています。


Q. 個別目標はいかがでしたか。
細田:ターゲット5の「自然生息地」には2つの論点がありました。
1つは自然生息地のところに「森林」を特記するのかどうかという論点。これは結果としては「森林を含む自然生息地」という書き方になりました。陸上面積の3割ほどを占める森林には陸上生物種の実に半数以上が生息するといわれるだけに、「森林」が強調されたことは評価できます。2つ目は自然生息地の損失速度を「半減」なのか、「ゼロに近づける」なのかの論点。こちらは「半減を目指し、可能ならゼロに近づける」という形で妥協となりましたが、この書き方であると「半減」すれば問題ないというイメージを与えるおそれもあり、私たちとしてはやや不満が残りました。

ターゲット6の「漁業」には、大きく3つの論点がありました。 1つ目は、「過剰漁獲や破壊的漁業方式を廃止する」という行動指向型の目標と、「絶滅危惧種や脆弱な生態系に対する漁業の影響が、生態系にとって安全な範囲に抑えられる」というような状態指向型の目標のうち、どちらをとるのかという点です。
私たちは行動指向型の方が明確で目標としてふさわしいと考えていましたが、実際には達成基準等があいまいとも思える状態指向型の目標に決まりました。

論点の2つ目は「過剰漁獲と破壊的漁業」の文言を入れるかどうかでしたが、結局「過剰漁獲」のみが残りました。過剰漁獲や破壊的漁業方式は現代の海洋生態系における主要な圧力といわれており、過剰漁獲のみですが、その文言が入ったことは大きく評価できます。
3つ目は、この目標の対象範囲をどこまでにするかという論点でしたが、最終的に哺乳類は除かれることになりました。


Q. ターゲット10となる「気候変動への耐性」、ターゲット11となる「保護地域」はいかがでしたか。
細田:ターゲット10の「気候変動への耐性」は、温暖化によって進行する海水温の上昇や酸性化から生態系を守るため、土砂の流入や化学物質の汚染など温暖化以外の複合的要因を最小化して、生態系の耐性を高めようという目標です。目標年を「2020年まで」にするか「2015年まで」かが議論されましたが、最終的に「2015年まで」となりました。早めの対策が必要ですから、この点については評価できます。

ターゲット11の「保護地域」では、2020年までに陸域の何%と海域の何%を保護地域とするのかが大きな議論の焦点になりました。この部分は、保護に必要な資金や実現可能性で折り合いがつかず、COP最終日の夜までかかってやっと間を取る形で陸域の17%と海域の10%で決まりました。積極性よりやや実現可能性を重視した数値とはなりましたが、だからこそ各国にはしっかりとこの目標達成に貢献してもらいたいと思います。


Q. 若い皆さんには「名古屋議定書」と「愛知ターゲット」を社会に浸透させていく大きな使命がありますね。
小林:A SEED JAPANは、地球環境問題の中に内在する社会的不公正の解決を目指しています。青年の立場から環境問題を分かりやすく伝えることはもちろん、長期的視野を持って社会を変えていきます。

細田:国益の前に地球益という大きな視点があることに気づきました。COP10の期間中に知り合った国内外のNGOや若者の仲間とも連携をとりながら、自分たちにできる活動をこれからも続けていきます。

◎国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」 http://www.aseed.org/
A SEED JAPAN(Action for Solidarity, Equality, Environment and Development/青年による環境と開発と協力と平等のための国際行動)は、1991年10月に設立された日本の青年による国際環境NGO(非政府・非営利組織)です。