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CSRフラッシュ
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)支援実行委員会主催
名古屋市でCOP10オープニング記念行事を開催
国際生物多様性年オープニング記念行事の模様をレポート


2010年10月に愛知県名古屋でCOP10「生物多様性条約第10回締約会議」が開催されるに先立ち、2010年1月16日(土)、名古屋市で行われた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)支援実行委員会主催(朝日新聞社 共催)による国際生物多様性年オープニング記念行事の模様をレポートします。
注:国際生物多様性年とは? 2006年の生物多様性条約第8回締約国会議の勧告に従い、2006年12月の国連総会において「2010年を国際生物多様性年とする」ことを宣言しています。



環境・生物をテーマとする「絵画・写真コンテスト」(応募作品:絵画282点、写真598点)入賞作品も表彰・展示。
実行委員会会長である愛知県神田知事からのあいさつ、アーメッド・ジョグラフ生物多様性条約事務局長によるメッセージ紹介によるオープニングセレモニーに続き、C.Wニコル氏による基調講演、名城大学谷口教授やタレントの水野裕子さんを加えたパネルディスカッションが行われた。

基調講演ダイジェスト

生物の“多様性”とは、人間の“可能性”

CWニコル氏(作家、C.W.ニコル・ア ファンの森財団理事長)

私は22歳で初めてこの島国、日本に来てから現在70歳、長野県の黒姫に住んで30年になります。 日本の面積の60%以上は森です。木は生物の中で一番長く生きている。光合成によって成長し、木が地面から、そしてキノコなどが木から養分をもらう、素晴らしい自然のシステムです。
昔の人々は、人間自身が原生林の生態系の一部となることで縄文時代からの生態系を変えず、里山を残し、昭和の時代までやってきました。
僕は初めて日本に来た時に本当に感動した。野生の熊がいたから。カナダやアラスカなら当たり前だけれど、これだけ人口密度が多い国に?英国では野生の熊は970年前に、狼は400年前に絶滅してしまったというのに。でも過去何十年の間に大好きな日本の自然が変わってきました。そして森の再生をやり始めました。(黒姫の森の自然が数年で蘇る様子をスライドで紹介)わずか数年でこれだけ蘇るんです。ここでもう一つのスライドを見てください。映像に出てくる子どもたちは、5歳から親の性的虐待を受けた女の子、無理心中で生き残った男の子、赤ん坊のときに母親から虐待されて大きなケロイド状のやけどを負った女の子、そうした子どもたちです。私は、森は癒しの場所だと信じている。8年前からプロジェクトとして、こうした子どもたちを生きた森に呼んでいます。森で子どもたちがどんな表情をしているか見てください。(無言で4分間上映) “多様性”は“可能性”です。森の、人間の、社会の可能性です。僕から見ると、森は日本人の心のふるさとだと思います。僕は日本に来てよかった。そして私は日本の未来を信じています。今年のCOP10では皆が協力して日本の良いところと可能性を世界に自慢しましょう!

パネルディスカッション ダイジェスト

COP10〜生物多様性のテーマとは?「暮らしと生物多様性」

CWニコル氏(作家、C.W.ニコル・ア ファンの森財団理事長)
谷口義則氏(名城大学理工学部環境創造学科准教授)
水野裕子氏(タレント)



一般市民に馴染みにくい「生物多様性」の意味を、出席者は身近なテーマを例に説明。

生物多様性とは何か?

谷口:生物の多様性には「遺伝子の多様性」「種の多様性」「生態系の多様性」の3つがあるといわれています。僕は学生と一緒に名古屋市内の魚の調査を行っていますが、昔からの魚の種類がどんどん減っている、絶滅しているものも少なくありません。今日の絵画イベントで子どもたちの描いた魚も全て横からのものばかり、川で本当の魚を見る機会はほとんどないのではないでしょうか。

食から見る生物多様性

水野:“お魚マイスター”という資格を取得しているのですが、そもそも海にかこまれた日本は世界有数の魚の種類、そして美味しい食べ方、魚の調理法のある国です。けれど最近、昔から日本にいるはずの魚でも、スーパーでは日本以外の産地の魚---加工したものは産地を表示しなくて良いなどのケースもありますから---が相当増えています。
生物多様性で重要なのは、私たちがまず現状を知ること。毎日、口にしている魚がどこのものなのか、または釣りをするなど楽しみながら、実際に体験し、そこから里海/里川/里山へ意識を広げていくのではないでしょうか。

森、川、海のつながりを守る

谷口:世界遺産に登録された北海道の知床は日本の自然遺産ですが、いま知床半島全体には約450もの((土砂崩れを防ぐための)砂防ダム等があります。川を広げて浅くなる、森を伐採する、結果的に川の水の温度があがりやすくなる、(ダムの乱立は)昔から棲む魚にとって危機的状況を招いています。森の落ち葉が川に落ち、海に流れて肥やしとなる、さらに海から鮭を川に呼び込む、そうした森と川と海のつながり---生態系---を守る、それが生物多様性で非常に重要なことの一つです。

ニコル:山から川へと流れる水は、地上で目に見える水だけでなく、地下水としても川に流れる。地上では気温が高くとも、冷たい地下水が川に流れることで(鮭など)魚の稚魚を川に呼び込むことが出来ました。(しかし、今は自然の仕組みが壊れ、川の温度が変わり、稚魚を呼び込むことが難しくなっている)森と川と海のつながり、川の重要性を皆さんに本当に良く知っていただきたい。 カナダでは30数年前から(土砂崩れを防ぐための)川を作りなおす際にも全くコンクリートを使わない取り組みがあり、鮭や鱒などの魚が守られている事例を実際にたくさん見ています。

生物多様性の3つの目的

谷口:生物多様性条約には3つの目的があり、「生物多様性の保全」「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」、そして3つ目が「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分」です。これはどういうことかというと、例えば、現在、世界でエイズ患者の70%近くがアフリカ地域に存在する、一方で抗エイズ新薬を開発するのに使われている主要な資源がアフリカ周辺地域の熱帯雨林に豊富に存在する植物や微生物です。先進国は研究開発の成果を(抗エイズ新薬の主要な資源が存在する)アフリカ地域に還元しなければならないはずなのに、(エイズ患者がアフリカに多く存在するということは)必ずしもそうなっていない。こうした問題を解決しなければならないということで、「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分」が生物多様性条約の重要テーマに組み込まれていますが、(その解決に)大きなハードルがあるのも現状です。

※このレポートは2010年1月16日に愛知県名古屋市で開かれた記念行事を要約して報告しています。文責はCSRマガジン編集部にあります。