« CSRマガジントップへ
« CSRマガジントップへ

NGO/NPOとの協働

Q:CSR活動の根底にある考え方、ステークホルダー・エンゲージメントとは?
福渡 当社のCSR・環境推進室 関正雄室長が組織の社会的責任規格ISO 26000を策定する専門委員として参画し、そこでの議論が当社内に反映する形でステークホルダー・エンゲージメントという概念を認識し、改めてCSRコミュニケーションレポートの中でも紹介させていただきました(注2)。

(注2) 損保ジャパングループが認識するステークホルダー・エンゲージメント
企業が社会的責任を果たしていく過程において、相互に受け入れ可能な成果を達成するために、対話などを通じてステークホルダーと積極的にかかわりあうプロセス


有光氏
有光 過去からこれまで続けてきたNPOとの協働を振り返ると、ステークホルダー・エンゲージメントという言葉自体は使わずとも「対話を通じて『信頼関係』と『協働関係』を構築するプロセス」を実際の活動の中で体言してきたように思います。

福渡 企業の論理や狭い世界での考え方が身について、外部の方から“少し違うんじゃないの”と言われることは、よくあるのではないでしょうか。さまざまな方 と意見をぶつけ合って新しい考え方や解決策が見えてくる、まず一番大切なのはコミュニケーションです。しかしエンゲージメントはさらに踏み込んで一緒に何 ができるか、問題解決のために同じ目標を共有し協働することです。その過程で民間企業にない発想や、信頼関係も生まれて、成功につながり、社会に貢献でき る。英語でエンゲージは婚約、パートナーと将来を通じて一緒にやっていく、ある種の覚悟を要する言葉という強いイメージとして捉えています。

有光 過去、海外では企業はNGO/NPOの“圧力”によって動いてきたという事例が多くあります。もちろんNGO/NPOの要請に応えることも大切ですが、ISO26000のステークホルダー・エンゲージメントに関する文脈をふまえ、企業の側から消費者やNGO/NPOに積極的に働きかけて共通の社会の課題を解決することも重要なエンゲージメントの目的だと認識しています。こうしたことも、まさにこれまで当社のNPOとの協働の取り組みを通じて実感してきたことで、損保ジャパンの歩みと似ていると感じます。

Q:具体的には、どのようにNGO/NPOとコミュニケーションを図っているのですか?
福渡 以前は有識者を集めて意見を伺うダイアログの機会を特別に設けていましたが、NGO/NPOの皆さまとの人脈が広がり、今はもう少し近しく個別に意見交換をできるようになりました。例えば「市民のための環境講座」の準備や懇親会を通じてNGO/NPOを含む有識者にお話を伺うなど機会はさまざまです。

有光 以前に協働 させていただいたNPOの方の“口こみ”などで当社を知っていただき、新しいNGO/NPOからお声がけいただくなど、徐々に自然と日常的なコミュニケーションを図ることができるようになってきています。

Q:SRI投資ファンドなどの商品開発にもNGO/NPOの意見が反映されていますが、外部からの本業に関する意見は、時に社内での議論となるのではないでしょうか?
福渡 会社の中には短期的目標と中長期的目標の両方の視点があります。「グローバル100」でも企業価値を向上させる仕組みを事業戦略の中に統合する部分でご評価をいただいたように、長期的には社会に評価いただけるサービスのスキームを作ることが成長につながります。

有光 もちろん、社内で議論になることはありますよ。特にCSRコミュニケーションレポートの第三者意見を頂戴して担当部署と改善を話し合う時など、いろんな議論が出てくるのは当然です。

福渡 当社では全国の社員と話し合う機会がありますが、まだまだCSR=社会貢献活動とイメージする社員が多く、本来業務にどのように組み込むか全国の社員に意識がまだ十分に浸透していません。この社員への浸透は当社にとっても課題だと思います。

Q:保険業界では2005年に保険金不払いが大きな社会的問題となりました。
福渡 当時、当社の問題の一つはコーポレート・ガバナンスであり、体制強化を図りました。もう一つの大きな反省がもっとお客さまの声に応える体制をもたなければならないということでした。また社内のSNSなどが立ちあがり社員間のコミュニケーションを活性化する体制も構築されました。社員同士が率直に問題や改善点を言い合える場ができました。

有光 2006年から2007年のCSRコミュニケーションレポートでは徹底してこれらの反省と全社的な改善のプロセスを取り扱いました。



外部との意見交換ツールとしてのCSRコミュニケーションレポート


Q:レポートの冒頭に「CSR経営の改善や向上に向けた次の行動につなげるためのステークホルダー・エンゲージメントを行う『対話』ツール」と位置づけています。
福渡 結果報告ではなく、考え方と方向感、さらに来年はどのように改善するかを伝えたいと思っています。もう一つの特徴は、第三者意見をIIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表の川北秀人氏にお願いしていることです。既に8年以上になりますが、当社はNPOから第三者意見をいただいた最初の会社ではないでしょうか?
 具体的に当社の良い点と悪い点をご指摘いただいて、一層の改善が必要と指摘を受けた点は、翌年、川北代表が担当部署に改善の進捗状況を直接ヒアリングする場を設けて意見交換を行い、必ずCSRレポートの中でその取り組み内容を記載しています。厳しいご意見も多々ありました。

有光 以前は本当にたくさん「一層の改善を要する」事項がありました。今回の「グローバル100」も、これまで金融機関は1社も選出されていませんでしたので、実はびっくりしているところです。

Q:CSR活動を社内に浸透させる一環として、CSRコミュニケーションレポートには110名以上の社員が執筆に携わっているそうですね。
有光 戦略的なCSRをさらに発展させる「本社部門の強化」と、一方で全国の社員への「裾野の拡大」は社内浸透における2つの大きなテーマです。社員にCSRレポートの実際の書き手として参加してもらうことも「本社部門の強化」の取り組みの一つです。CSRディベロップメント研修では消費者の代表者やNGO/NPOの方々に来ていただいて社員が直接有識者からCSRを学ぶ機会を設けています。

福渡 そのほか、執行役員会議や部長クラスの会議などでCSRの活動状況を報告する、そのほか新入社員にも川北代表に進行役をお願いするCSRダイアログを設け、フレッシュな視点で当社に対する意見を指摘してもらっています。

Q:2009年のCSRレポートからは、GRIガイドライン参考などの表記ができなくなり、重要性(Materiality)に特化したレポートとの二極化が進むといわれています。
有光 有識者や社外のさまざまな方との意見交換を通じて感じるのは、、必ずしもガイドラインに即して書けばよいというわけではなく、読み手に企業の本気度が伝わるような社長の具体的なコミットメントなど、各企業の個性が強く求められているということです。

福渡 確かにガイドラインに沿うことは他社との比較の際には分かりやすく、意味があると思います。しかし、コミュニケーションツールとして、より良い企業活 動に活かすという視点から考えると、誌面に当社らしさを出して皆さまから意見を聞きたいという部分の方が効率的と考えています。

有光 当社はISO26000の策定プロセス以外にも、WBCSD (World Business Council for Sustainable Development:持続可能な発展のための世界経済人会議)」 に国内金融機関唯一のメンバーとして参加するほか、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトのメンバーとなるなど、さまざまな国際的イニシアチブにも 参画し、意見形成に携わっています。そうした経験やグローバルで議論されている課題の認識をもとに、日本企業として、保険会社らしい活動、そしてCSRレポートを創っていきたいと思っています。
(2009年3月インタビュー)

損保ジャパンCSRレポートはこちら
http://www.sompo-japan.co.jp/about/csr/report/index.html

「グローバル100」とは?
米国調査会社イノベスト・ストラテジック・バリュー・アドバイザーズ社とカナダの出版社コーポレート・ナイツ社が共同で実施する事業。世界のあらゆる事業分野における1800社以上の企業を対象に、非財務要因と言われる環境・社会・ガバナンスに関する取り組みを評価し「世界で最も持続可能な100社(Global 100 Most Sustainable Corporations in the World)」を選出。世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で発表される上位100社のうち、2009年は損害保険ジャパンを含む日本企業15社が選出されている

http://www.global100.org/index.asp