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道路は縁の下の力持ち。
私たちは環境対応もしっかり進めています。
前田道路株式会社 技術本部技術部副部長 守安 弘周



ふだん何げなく使っている道路にも環境対応などの新しい波が押し寄せています。
昨年、前田道路が開発した「中低温度域で施工可能な超薄型オーバーレイ工法」は化石燃料の使用を減らしてCO2排出量を削減するとともに、アスファルトの薄い施工を可能としました。前田道路株式会社技術本部技術部副部長の守安弘周さんに最新道路舗装事情について聞きました。



Q:中低温でアスファルト混合物を生産・施工する工法が2009年度の日本道路建設業協会の舗装技術に関する論文で最優秀賞を受賞しました。どのような点が評価されたのでしょうか。
通常のアスファルト混合物は、160℃前後に加熱乾燥した石、砂に石粉と呼ばれる炭酸カルシウムを入れ、アスファルトで混合したもので、それを熱い間に敷きならして締め固めています。そこまで温度を上げないと石や砂に水分が残り、舗装後に石とアスファルトがはがれて強度が保てない恐れがあるのです。また、低温だと粘りが強くなり作業がしにくいという問題もあります。

今回、私どもが開発した新しい舗装材は、これまで業界の常識であった「水はアスファルト舗装の天敵」を逆手にとったものです。温度が低くても粘りが出ず施工しやすい特殊な潤滑油を見つけ、これだけだと強度が出ないので、反応補助材と水を加えて水との反応で強度が出る仕組みを考えました。110℃で混合物を製造し常温で施工ができるようにしました。


Q:常温で作業ができるとどのようなメリットがあるのでしょうか。
従来の160℃まで加熱乾燥して製造していたものを110℃でも製造できるとなると、燃料費を節約できるほか、二酸化炭素の排出量を約3割削減できます。さらに水をかけるだけで舗装面が硬くなる性質を活かせれば、アスファルト舗装面を薄く敷きならす補修作業などにも活用が広がります。

アスファルトは薄く敷くとすぐに冷えてしまい、これでは決められた強度が得られず、しばしば壊れるようなケースが見られました。私たちの研究では、常温でも薄く敷いて水を掛けるだけで、一定の強度のある舗装体が得られることが確認されています。

これまで施工が難しかった2cmの補修作業も簡易に行うことができ、補修の厚さを薄くした分、コストも削減できます。アスファルト混合物製造プラントが遠い地域や離島などでもアスファルト舗装作業ができるようになります。緊急性の高い災害時の応急措置もこれまで以上にスピーディなものとなるでしょう。

水をかけるだけで硬くなる性質を活かし、家庭用舗装材料「マイルドパッチ」の通信販売も始めました。全国一律送料込みで2,600円。家庭の土間とか段差の補修、ガーデニングなどで花壇の周りなどに利用範囲は広がります。日曜大工をもじって“日曜土木”という売り文句で広げようとしています。

「マイルドパッチ」でただいま日曜土木中 「マイルドパッチ」のパッケージ


Q:アスファルトが石油由来の副産物であることは知っていますが、いつ頃から道路の舗装に使われていったのでしょうか。
その前に道路の歴史をお話しましょう。文献によると紀元前2600年頃には、エジプトでピラミッド建設の石材を運ぶ道路がありました。紀元前600年には、アスファルトを初めて使用したバビロン王の道が出現しています。古代の道は軍隊などの移動が主な目的だったようです。ローマ時代にはアッピア街道を代表とするさまざまな街道がつくられました。

近代舗装は産業革命で発展した英国で始まりました。ただ、初期のものはアスファルトではなかったため、補修作業が大変でした。やがて自動車が普及するとアスファルトやセメントが使用されるようになります。1870年、米国のニューヨークとフィラデルフィアの道路にアスファルトが使用されてからは、アスファルト道路が主流となりました。

日本では700年頃に幹線道路が整備された記録が残っています。そして本格的な道路行政に注目したのは織田信長の楽市楽座だと聞いています。わが国で道路にアスファルトが使用されたのは1923年に起きた関東大震災の復旧工事からです。現在では日本の道路舗装の95%はアスファルト舗装となっています。


●前田道路の代表施工例1:
御影石風ベアコート(京都・島原) 工事中の羽田空港


Q:時代とともに道路に求められる機能や性能も変わってきていると思われます。最近の道路にはどのような性能が求められているのでしょうか。

道路の基本は、安全に快適に人とモノを運ぶことです。その基本は今も変わっていません。ただ、最近はそれにプラスして環境に配慮することが半ば常識となっています。

当然ながらアスファルト舗装にも環境対応が求められています。当社が手がける環境配慮にはヒートアイランド抑制、遮熱性、保水性、排水・低騒音型、振動軽減、CO2の排出量削減などさまざまなニーズに対応しています。


Q:いくつか代表的なものをご紹介いただけませんか。
最近は雨の日に高速道路を走っていて、前を走るクルマからあまり水しぶきが上がらないことにお気づきですか。あれは排水性舗装を採用しているからなのです。通常の舗装では降った雨は舗装の表面を路肩に向けて流れるだけですが、排水性舗装は石と石の組み合わせをちょうど雷おこしのように多くの空隙をつくり、降った雨を舗装の中に通し、路肩に排水するため舗装表面に水が溜まらない仕組みになっています。雨の日のドライバーの視認性が高められ、安全な走行ができます。

この排水性舗装は沿道環境も改善します。アスファルト混合物の中の隙間には水だけでなく音も通るので、道路をクルマが走る際に生じるポンピング音という空気が破裂するような音も吸収します。これによって沿道の騒音もずいぶん少なくなりますし、車内も静かに保たれます。

昨今はヒートアイランド現象対策も注目されるようになりました。ヒートアイランド現象とは、アスファルト舗装の道路が昼間の太陽の熱射で高温となり、昼間に蓄積された熱が夜間に放出されるなどの原因で都市部の気温が周辺部より高くなる現象をいいます。

その対策としては2つの方法があります。1つ目は遮熱。路面に注ぐ赤外線を効率よく跳ね返すことができれば、10度前後路面温度を下げることができます。既存の舗装道路に塗ることで遮熱性舗装が可能となります。

2つ目は保水性。道路の隙間の中に、水を保持する保水材を入れます。水を撒くとそこに水が保水され、気化熱を奪うので、いわゆる打ち水と同じ効果が得られます。14〜15℃下げる効果があります。こちらは水がないと困るので、散水車などの作業が加わります。寒冷地では保水材に凍結抑制剤を混ぜて凍結抑制道などへの応用もできます。


Q:地球環境の改善に役立つ舗装技術についてもう少しお聞かせください。
地球環境の悪化を食い止めるためCO2排出量の削減に努めています。大きな流れとしてはアスファルト混合物の中温域での製造・施工に向けて、開発に力を注いでいます。混合物の温度を160℃から下げても従来どおりの施工・供用性を維持できれば、温度を上げなくてよい分、化石燃料の使用を削減でき、CO2も削減します。

また、当社の特長の1つは燃料そのものも変えていこうとしているところです。アスファルト混合物製造に使ってきた重油やガスをバイオマスなどの再生可能エネルギーに変えていくという試みです。当社では業界で初めて3年前から東京総合合材工場(東京都江東区)で、都心から出た木屑をバイオマスとして活用し、電気と熱をつくる木質バイオマスコージェネレーションプラントを併設してアスファルト混合物を製造しています。

木から出る木質タールやBDF(バイオディーゼル燃料)を製造する過程で副産物として生成される廃グリセリンなどを重油代替のバイオマス燃料として使用することで、品質・価格とも従来の合材と変わらず、製造時にCO2排出量を削減した“低炭素アスファルト混合物(当社命名)”の製造を開始しています。当社は同業他社に比べるとCO2削減には一番力を入れてきたと自負しています。

低炭素アスファルト製造の概念図




Q:二酸化炭素の排出量削減などと並んで道路の耐久性、安全性、経済性などの要求もあると思われます。このあたりをどのように調和させて作業が行われているのでしょうか。
現在、アスファルト舗装の多くが再生アスファルト混合物を使用しています。古くなった既設の舗装材は、剥がして破砕し再生砕石として再生アスファルト混合物に再利用しています。アスファルト舗装は紫外線や雨風で劣化します。それでも新規材料と同じ性能を出せることが本来求められるリサイクルの性能です。

今後も他産業の廃棄物を含め循環型社会の形成に役立つのであれば、積極的に取り入れていく計画です。その分、天然の石を採掘する量が減らせるわけですよね。ごみの溶融スラグなども活用できると思っています。それらを含めて道路のライフサイクルコストを低減していくことが社会から求められている使命だと思います。


Q:ホームページを拝見すると神宮野球場、金毘羅参道、新北九州空港など社会的に話題性のある仕事も手がけていますね。
道路をつくる会社というのは縁の下の力持ちです。いろいろな人に「当社にくるのに何で来ましたか」という質問をすると大抵の方は電車とかクルマでといいます。電車を降りたあとは道路(歩道も含めて)を歩いていますし、クルマのときも当然道路を通行してきたはずなのに、道路を通ってきたという方はほとんどいません(笑)。

社会の中にしっかり根を下ろし、いつまでも誇れる仕事をすることが私たち前田道路全員の願いです。

●前田道路の代表施工例2:

↑ 新北九州空港
東九州道(八木塚・浅井地区) →


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