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採用選考活動に大きな一石
学生のみなさんの成長が見たい
新卒者の「夏採用」を打ち出したキヤノンマーケティングジャパン
キヤノンマーケティングジャパン株式会社 人事本部採用課課長 額田 泰介


厳しい経済環境が続く中、新卒者の採用選考活動は年々早まる傾向にあります。このままでは学生の本分である学業に専念する時間さえ確保するのが難しい状況です。このほど、そんな採用選考のあり方に一石を投じる企業が登場しました。キヤノンマーケティングジャパン株式会社です。同社の人事本部採用課課長 額田 泰介さんにその狙いについて聞きました。



人事本部採用課課長 額田泰介さん




キヤノンマーケティングジャパンが取り扱う PIXUS MG6130(上)とEOS 60D(下)

学生と企業双方にメリットがある「夏採用」


Q:新卒者の採用時期を遅らせるという発表が大きな波紋を広げています。どのような点が変わったのですか。

額田:先頃発表した「採用課からのお知らせ」は次の2点からなります。 1つは、2011年度の新卒採用活動は3月までの業績を見てから募集要項を決定し、学生のみなさんの夏休みに合わせて選考活動を行う「夏採用」の実施に変更したという点です。

2つめは、2012年度の新卒採用計画についても2010年12月まではエントリー受付など実質的な採用活動につながる取り組みは行わず、2011年1月以降、準備が整い次第行うというものです。

Q:経団連が「新卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」をうたっていますね。
額田:倫理憲章では、大学生の場合、大学3年生の10月から採用広報活動ができ、採用面接については4年生になった4月以降にとうたわれています。

しかし、長引く不況で企業側は採用人数をしぼる傾向にあり、少数精鋭のよい人材を採用したいと希望しています。そうした空気は学生のみなさんにも伝わっていますので、必要以上に浮き足立ってかなり前倒しで就職活動を始めています。

当社は、大学生が4年生になる直前の1月までは採用広報活動そのものも手控え、面接については学業に支障を少なくするよう「夏休み」に行おうと決めました。

Q:出遅れるとよい人材を採用できないという不安はありませんか。
額田:社内には、そんな時期に採用活動して、よい人材が集まるのかという不安の声は少なくありませんでした。ただ、適性検査など数値化できる指標で比較してみると、春選考のときと夏選考で大きな差は見られません。むしろ面接では、遅いなりに学生もさまざまな経験を積み、しっかり考えて受け答えしてくれました。

学生にとって4年生の前半というのは大切な時期だと思うのですね。ゼミでは卒業論文のテーマを決め、学業としての集大成に取り掛かりはじめます。また、クラブ活動などに力を入れている生徒にとっては、先輩が退部したあと最上級生としてリーダーシップを発揮できる時期でもありますし、アルバイトでも先輩が抜けたあと、責任の伴う経験が待っています。

つまり、この時期が学生の「成長が見て取れる」もっと重要な時期なのです。3年生になったとたんに就職活動では、なんのための大学4年間か分かりません。


Q:就職活動が年々早まり大学側も戸惑っていると聞きました。
額田:「大学の授業が成立しない」という問題のほかに、「内定取り消し」などが社会問題化しています。大学や短期大学が加盟する就職問題協議会〔座長白井克彦氏(早稲田大学総長)〕からは、「採用選考活動の早期化是正」を企業側に強く申し入れてきました。

まず、「内定取り消し」ですが、これは絶対あってはならないことです。企業の側で採用計画の精度を高める必要があります。先ほど3月末の業績で採用計画を決めると申しましたが、当社は12月決算なので、その年のスタートの四半期の実績に鑑み、採用計画を立案しています。

キヤノンマーケティングジャパンは、CSR(企業の社会的責任)の観点から、お客さまの声を社会の要請と捉えてさまざまな対応に務めています。それは採用でもいえることです。採用では大学当局や学生がお客さまです。お客さまの声に謙虚に耳を傾けるのは当然だと思っています。

内定する時期が早まったことで、内定後にゆれる“内定ブルー”も問題になっています。企業側も内定を早めることで、内定者のつなぎ止めにかかる費用とエネルギーが発生しています。ホワイトカラーの生産性という観点から見ると、ある意味不必要な仕事を作り出しているともいえるでしょう。「夏採用」になれば、内定する時期が後ろ倒しされるので、このような問題も緩和されると思います。


「うまく伝わって7割」から始まるコミュニケーション


Q:それにしても就職率の低下は深刻です。学生のみなさんの心構えもずいぶん変化しているのでしょうか。

額田:就職関連のニュースが連日マスコミで報じられています。学生のみなさんが浮き足立っているのは十分理解できます。ただ、学生の気持ちを静めるためだと思うのですが、あまり必要性の感じないマニュアル偏重主義的な情報も横行しています。

先日もある新聞の就活生特集でOB訪問のあとのお礼状の書き出しの季語の解説がありました。もちろん、お礼状を書くことは大切なことだと思います。しかし、お礼状を受け取ったOBも季語をそんなに気にしているでしょうか?枕詞よりも感謝の気持ちを伝える素直な気持ちの方が大切だと思います。どこか本質論から離れてしまっている気がしてなりません。

面接などのマニュアル本も同様な感を受けています。一番大切なのは素の自分というか、本当の自分をいかに表現するかだと思うのです。

大切なのは自分の主張を自分の言葉で語ること。最近の若者たちの風潮か、恥をかいたり、かっこ悪いことを気にかける傾向があります。

社会人となって仕事をすれば分かりますが、実際の仕事はかっこだけでできません。失敗なしの仕事もありません。自分をよく見せたいのは分かりますが、本物の自分をさらけ出す勇気がなければ相手に届かないと思います。


Q:キヤノンマーケティングジャパンではどのような学生を採用したいと考えていますか。
額田:自分で考えて行動し、その行動に責任が持てる学生です。実際のビジネスでは、変化する場面場面で考えて決断し、行動しなければなりません。また、その結果についても当然ながら責任が伴います。

最近は「コミュニケーション能力」や「ストレス耐性」がいわれています。コミュニケーション能力というと、情報の発信力ばかりに目が向かいがちですが、人の話を聞く「傾聴力」も大切です。

当社の社長である川崎正己は、「人間は自分の思っている7割を相手に伝えることができれば上出来。努力をしても3割ほどは伝わっていないと思った方がよい。一方、聞き手も7割程度相手の話を聞ければ上出来。そう考えると、コミュニケーションというのはうまくいって7割と7割、ようは半々ほどでやり取りしている」と語っています。そう考えると、話すのが苦手だと思うのであれば、しっかりと人の話しを聞き、理解する力を強化するとコミュニケーション能力は向上しますよね。

「ストレス耐性」についていえば、あえてストレスに耐える必要はないと思います。ストレスに耐えようとするからメンタルの不調につながっていくんじゃないでしょうか。ストレスをかわすというか、ストレスにどう立ち向かうかの方が大切です。ある意味、先程話したように考えて行動する力が大切なんじゃないでしょうかね。


ITの進化にともない変わりつつある採用活動


Q:最近の採用活動ではITの活用も注目されています。
額田:当社もネットを活用した会社説明会にトライしてみました。方法は2つ。1つはライブで説明会を中継するタイプ。もう1つは録画した画像をオンデマンドで閲覧できるようにするというもの。どちらにも一長一短があります。

ライブは参加しているという臨場感はあるのですが、時間的な制約があります。サーバーの容量によっても左右されます。一方、オンデマンドはいつでも見れる便利さに加え、ある期間であれば何度でもトライが可能という利便性が強みです。ただし、ライブ感が弱いという難点があります。当社の実績ではライブで約400名、オンデマンドで約4,000名の参加がありました。


Q:最近は外国籍の採用も広がっています。大学生にとってはさらに厳しい競争が待っていますね。
額田:当社はキヤノン製品の日本国内のマーケティングを担当している企業です。海外からの留学生の場合、母国に帰って働きたいという希望があると聞きます。残念ながら当社はその希望にはお応えできません。逆に、海外の大学などで経験を積んだ日本人の海外留学生には門戸を開いています。
日本を外から見たという体験は、これからのビジネスシーンに十分生かせるはずです。留学生が日本に戻る時期は5〜6月なので、当社の採用に十分間に合います。

個人的な意見ですが、採用活動の時期や期間について何らかのルールを設ける時期が来たと思います。本来なら企業も学生も、常識の範囲で活動するのが理想ですが、今の日本の就活は世界的に見ても常識を逸脱しているんじゃないでしょうか。あえて、ルールに罰則が盛り込まれなくてもいいと思います。
いまはネット社会です。ルールを無視するような企業は、ネットの情報であっという間に評判を落とすことになり、採用活動に影響が出ると思います。
(2010年12月取材)

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