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海外コラム:Dom Rolfe レポート
オーストラリア在住、Diplomat誌のドミニク・ロルフが世界のさまざまな出来事から、CSR(企業の社会的責任)を考えます。

第2回:「経済不況とCSR活動」


The Atlantic Monthly誌5月号で、ジェフリー・ゴールドバーグ(訳注:Atlantic誌 ジャーナリスト) は、賢明であろう米国金融業界/ウオールストリートの知恵と助言を求めつつ、瓦礫と化した自分自身の投資と慈善寄付を振り返っている。同時にゴールドバーグは、経済破たんのこの時期に5番街で開催された慈善事業についての会議についてもふれている。この会合はパーシング・スクェア・キャピタル・ヘッジファンドの創始者であるビル・アッカーマン氏が議長を務めたものだ。

「慈善活動と投資について語るには今しかないと私は考えました。」とアッカーマンは告げる。「というのも、現時点では双方とも課税控除の対象であり、(慈善活動と投資は)融合しつつあるからです。」ゴールドバーグによれば、アッカーマン氏は「主に慈善事業への寄付がもたらす精神的な恩恵について」語り続け、「大部分の善良な」ヘッジファンドのマネージャーたちがメディアによってどれほど不当に痛めつけられたかについて述べたという。

ゴールドバーグの記事ではアッカーマン氏の発言の底流をなす心情にまではふれていない――直面する経済不況によって明らかとなった類似性がどのような意味をもつかだ。アッカーマン氏のコメントはある種の人々が投資と慈善活動が根本的に異なるという見解を持っていることを浮き彫りにしている。端的に言えば、一方は「肯定的」であるのに対して、もう一方に対しては「否定的」だ。アッカーマン氏と彼の信奉者にとって、投資の採算がとれないときにだけ、慈善活動と投資という2つの経済活動のカテゴリーが何らかの共通点をもつことになるのだ。

企業の社会的責任を実行する人々または支持する人々にとって、これは現実に把握しておくべきことだ。もし仮に、著名かつ広く尊敬を集め――アッカーマン氏自らが公言する巨額の慈善行為を信用したとしての話だが――善意にあふれるビジネスリーダーが、慈善行為を税制上と「精神的」な意味でのみ有益と考えているとしたら、企業責任の原則がこれから広く浸透していくと確信できるだろうか?それとも、慈善行為、拡大解釈すれば企業の社会的責任とは、ビジネスの中核で意思決定されるものではなく、しょせんは二次的なもの、自由裁量による活動なのだろうか?

CSRを短期的な企業ブームに終わらせないために、企業の社会的責任の原則をしっかりと、そして確実に経営構造に組み入れることが最も大きな課題であることは間違いない。大企業におけるサステナビリティ(持続可能性)とCSR関連の担当ポストの急増は、企業が社会面、経済面、そして環境面すべてにおけるステークホルダー(利害関係者)に対して自らの責任を認識していることを示唆する心強い兆候である。

企業が作成するCSRレポートが増え、より洗練されていることも同じことを示している。しかし、まことしやかでうまく作り込まれたレポートは、ある意味では、企業がどのように自らの責任を認識しているかを示す表面的な尺度に過ぎない。本当に見るべきは、CSR担当部長だけでなく取締役など経営陣、主要株主、従業員、何よりも企業が取り扱う事業そのものに、いかにCSRの原則が採用されているかどうかだ。

ある企業責任マネージャーはこう述べている。「CSR原則がどれだけ経営に組み込まれているかは、その企業のアニュアルレポートとサステナビリティレポートを見比べれば明らかです。」彼の経験によれば、二つのレポートは、見て聞いて「手で触っても」、あらゆる五感でチェックして同じでなければならない――相互に情報交換しているかのごとく、二つのレポートは同じトーンで問題を取り扱っていなければならないという。たとえば、サステナビリティレポートがきらびやかで、明るく軽い感じなのに、アニュアルレポートが陰気で、くすんだ色で、単調なレポートならば「五感」テストには不合格ということだ。

もちろん現在は、CSR原則がどの程度組織に浸透し、実際にどのくらい決算に影響するかを定量化し分析するいくつかの指標がある。しかしながら、現在の危機的状況から事態が収拾するにつれて、公正で社会的責任に積極的に関与するビジネスからは精神的な恩恵しか得ることができないと考える人々は、どれだけ透明性とガバナンスが欠けていたがゆえに、サブプライム・ローンや過剰で複雑な債権技術を創りだすことができたのか、改めてじっくり検討したいのかもしれない。こうした考え方が経済危機を生み出したことに何ら不思議はないのだ。




ドミニク・ロルフ
オーストラリアの大手シンクタンクでの編集業務およびスウェーデンで道路建設技術者としての経験を経て、現在はオーストラリアのCSR(企業の社会的責任)専門誌「コーポレート・シチズン(Corporate Citizen)」編集者としてCSRやサステナビリティをテーマとした記事を執筆している。2005年からは同誌の姉妹誌「ディプロマット(The Diplomat)」の執筆・編集にも参加。コーポレートシチズンシップ(社会の一員としての企業の責任・義務)やコミュニティ・コンサルテーション(地域支援)を専門に国際関係論の修士を取得するほか、法律研究を専攻し、土木工学や美術の学士号も有している。