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海外コラム:Dom Rolfe レポート
オーストラリア在住、Diplomat誌のドミニク・ロルフが世界のさまざまな出来事から、CSR(企業の社会的責任)を考えます。

第4回:「会議は踊る」


デンマークとスウェーデンを結ぶエーレスンド橋を渡ると、海峡を吹き下ろす風の強さによって変化するさまざまな速度標識に遭遇することになるだろう。この海峡を吹き下ろす突風はあまりにすさまじく、定期的に車の流れを止めてしまうこともあるほどだ。また、この橋からはデンマークの海岸沿いに堂々と列をなしてそびえ立つ風力タービンを見ることもできる。一方スウェーデン側には、農地のあちこちに広く風力タービンが点在している様が見える。

エーレスンド地域の風力タービンの回転翼のブンブンという音は、再生可能エネルギーの実現可能性を常に思い出させてくれる。そして、未来の気候変動政策に関する合意について徹底的に議論するために世界の国々が一堂に会することになっているのは実にこの地なのである。

来る12月に予定されているコペンハーゲン会議は、国際的な温暖化防止活動にとって重要な分岐点の一つとして着々と準備を進められている。この会議は、気候変動政策に関する首尾一貫した実行可能な文書を作成するという世界中の政府による決断の指標となるだけでなく、何よりも重要なことに、ここで今後10年間に向けた政策が準備されることになることだろう。

会議を一見しても、これに多くを期待することはどうやら無理そうである。1997年の京都議定書はまったく稼動していない。どの国が批准済みで、どの国がまだ批准していないかについては議論の余地はないが、温室効果ガスの濃度が高まる一方であることは厳然たる現実だ。私たちはすでに暴走する気候変動の転換点に至っていると指摘する人々もある。スタートレックのドクター・マッコイの言葉を借りて言い換えればこうなるだろう――「コペンハーゲンで大幅削減について合意に至ることができなければ、これ以降私たちがどのような手を打とうとも、確かに未来に生命は存在するだろうが、ジム、それは私たちが知る生命とは異なるものになるだろうね。」

京都議定書、そして危険な気候変動の防止に向けて世界の全政府が約束を交わした1992年の国連条約の双方にかかわったある専門家は、コペンハーゲン会議は土壇場の歩み寄りをもたらすに過ぎないと確信している。「温室効果ガスの排出は2020年までをピークとし、その後2050年までに(1990年のレベルに対して)最低でも50%削減するために何をするべきかという観点から言えば、もっとも意欲的な合意ですらこの目標を達成することができないでしょう。そしてこの現実こそがコペンハーゲン会議の隠しておくべききまりの悪い事実なのです」とこの専門家は語っている。

2001年から継続している WTOのドーハ開発ラウンドなどの多国間交渉はこう着状況がつづき、政府がこうした交渉を終結することができないという事実が、意義ある世界的合意への期待をいっそう台無しにしている。こうした交渉の破たんはコペンハーゲンにも反映される可能性が高く、中国やインドといった温室効果ガスを大量に排出する発展途上国が米国などの温室効果ガスを排出する先進国とする対立する構図が生まれることになろう。

期待感がすでに希薄である兆候として、国連気候変動枠組み条約のイヴォ・デ・プア(Yvo de Boer)事務局長は「コペンハーゲンでは、新たな条約の細部が承認されるよりも、むしろ4つの主要なポイントについて期待に沿うことができればそれで私は満足です」と語っている。その主要ポイントとは下記である。

  1. 先進工業国がそれぞれの温室効果ガス排出の削減にどの程度
  2. 前向きであるのか?
  3. 中国やインドといった主要発展途上国はそれぞれの排出増加の抑制にどの程度前向きであるのか?
  4. 発展途上国がその排出を削減し、気候変動の影響に適応するにあたって必要とされる支援にはどのように資金が提供されるのか?
  5. その資金はどのように管理されるのか?


イヴォ・デ・プア事務局長は次のようにも認識している――米国で上院を通過させるに足る十分な政治的支援をもった合意を発表することもまた重要である。と言うのも、米国において京都議定書が批准される可能性をつぶしたのはほかならぬ上院だからだ。

しかしながら、明るい面を見てみれば、2010年末までにドーハ・ラウンドの終結を望むインドと中国を含む最近のG5発展途上国グループは、今後高まる世界的な取り組み努力の前触れとなりうるかもしれない。なるほど、世界的な金融危機から私たちが学んだ大いなる教訓の一つは、一国によって引き起こされた問題はあらゆる国々に影響をもたらしうるという世界が必要とする強力な注意喚起であったかもしれない。そしてこの共通の認識こそがこうした危機を脱するための最善の解決策なのである。

もう一つの希望を挙げれば、より意識が高く多くの情報を手にした世界の有権者が、今後の気候変動の危険性について多くのアクションをますます要求するようになっているという現実がある。太平洋の環礁における水位の上昇から中国北西部における干ばつまで、人々は気候変動がもたらす真の継続的な影響を目の当たりにしている。世界のリーダーたちに対する期待は日ごとに高まっているのだ。

それでは、涼しい/クールなスカンジナビアの環境は地球温暖化防止活動の次なる世代にパワーを供給することができるのだろうか?あるいは、息を殺した歩み寄り、偏狭な国益、そして政治的情報操作が重大な変革に待ったをかけるのだろうか。さて私たちは、エーレスンドの再生可能なエネルギーを象徴する背景が、政治的活気の欠如を原因とする失速した活動のアイロニー(皮肉)よりも、世界がのどから手が出るほど必要としているインスピレーションをもたらしてくれることを大いに期待しようではないか。




ドミニク・ロルフ
オーストラリアの大手シンクタンクでの編集業務およびスウェーデンで道路建設技術者としての経験を経て、現在はオーストラリアのCSR(企業の社会的責任)専門誌「コーポレート・シチズン(Corporate Citizen)」編集者としてCSRやサステナビリティをテーマとした記事を執筆している。2005年からは同誌の姉妹誌「ディプロマット(The Diplomat)」の執筆・編集にも参加。コーポレートシチズンシップ(社会の一員としての企業の責任・義務)やコミュニティ・コンサルテーション(地域支援)を専門に国際関係論の修士を取得するほか、法律研究を専攻し、土木工学や美術の学士号も有している。