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ラオスのコミュニティの結束力から価値を『採掘する』鉱業会社



ラオスとメコン川流域地帯は最近過剰な政治的関心を集めている――11月7日に日本政府が発表した5,000億円の総合的援助計画(ODA)は地域共同体を創り出すにあたっての重要な意志表示であるとみなされているが、それと同時に中国のこの地域におけるプレゼンスの高まりを警戒した日本の影響力を主張する動きでもある。

しかし、企業の社会的責任(CSR)の側面から言えば、この地域で先駆けたのは21世紀初頭に東南アジア諸国において事業展開を開始した大手豪州鉱業会社であろう。ビジネス上の援助と並んで、インフラ、教育、ヘルスケアといったコミュニティ開発活動に対する数百万ドル規模の投資はラオスにおけるこうした鉱業会社に対する支持を高めることとなっている。そして、ラオスと言えば、天然資源に富んだ国であるだけでなく、その一人当たり国民所得がわずか630ドルと世界最貧国の一つである。

欧米諸国による取り組みおよび努力は顕著であり――そしてそれに参画する企業によって高く評価されているものの、その長期的な影響は不確かなままである。ミネラルズ・アンド・メタルズ・グループ(Minerals and Metals Group: MMG)とオーストラリアのパンオースト(PanAust)の二大鉱業会社の取り組みは、700万人の人口を抱え、世界最後の共産党単独政権国家の一つであるこの農業国に永続する変化すなわち『チェンジ』を引き起こすことができるのだろうか?

この問いかけに対する答えはだれに質問するかによって変わってくる。しかし、ワーウィック・ブラウン(Warwick Browne)博士とディアナ・ケンプ(Deanna Kemp)博士という開発専門家の意見を信用するとすれば、リソース・カース(資源保有途上国が豊富な天然資源とそれに起因する輸出ブームにもかかわらず、むしろ経済発展を阻まれる傾向があること。別称paradox of plenty: 豊かさの矛盾)を避け、その天然資源の可能性を現実のものとするには、内陸国であるラオスは他の国々よりも有利な位置づけにあるようだ。

ラオスを含むアジア太平洋地域全域における人権・開発プロジェクトに取り組んでいるこの2人のオーストラリア人学者は、クイーンズランド州ブリスベンにあるクイーンズランド大学の持続可能な鉱物協会(Sustainable Minerals Institute)の鉱業の社会的責任センター(Centre for Social Responsibility in Mining: CSRM)に所属している。鉱業に対する急速な投資に起因する問題への対処という面では、2人はラオスが多くの資源保有途上国に先駆けていると考えている。

MMGのセポン金・銅鉱山での操業、そしてパンオーストのプーカム金・銅プロジェクトの成功を押し寄せる外国投資のきっかけとして指摘しながら、ブラウン博士はこう語っている。「ラオスでは過去5年間にわたって鉱業に対する関心が爆発的に高まっています。」

たしかに大規模な鉱業は比較的新しい産業であるものの、「この国はこの産業がもたらす恩恵をいかに最大化するかをあっという間に覚えてしまいました」とブラウン博士は述べている。

博士はさらにこのように続けている。「鉱業セクターの管理の強化ということでは過去5年から8年間にわたってラオスは飛躍的な進歩を成し遂げました――この点ではおそらくその他の中央計画経済国家の多くを凌いでいます。」

ブラウン博士は次のように語る。「オーストラリアだけでなくカナダ、中国、タイ、ベトナム、韓国、そしてロシアといった国々からの対外投資が押し寄せたことで、大規模鉱業に関しては、ラオス政府は短期間で多くを学ぶことを開始するよりほかに選択肢がなかったのです。」

2003年から2007年の期間について言えば、水力発電と鉱業の両セクターに対する海外投資のおかげでラオスの国内総生産(GDP)は年平均で7.1%の成長を見せた。ちなみに、この2つのセクターはラオスにおける外国直接投資の実に80%以上を占めている。

その結果ラオス政府の財源は膨れ上がっている――鉱業セクターは2010年までにはトップ産業セクターとなり、政府の財布の主な拠りどころの一つとなるものと予想されている。世界銀行によれば、MMGのセポン・プロジェクト単体でも2008年のラオスのGDPの8%を占めており、2,000件以上の新たな雇用を生み出し、地域経済に月当たり100億米ドル以上を投入しているという。

セポンなどの大規模な産業プロジェクトの要請に応えて、世界銀行やアジア開発銀行といった国際的機関による支援を受けつつラオス政府は現代的かつ国際的な鉱業を対象とした制度的枠組みを構築した。

鉱業の発展はラオスにおける水力発電業界の台頭を反映している――水力発電業界は鉱業と並び、『2020年までに後発発展途上国の一団から離脱する』という政府が掲げた目標の実現に向けたもう一つの主要貢献業界と目されている。

2008年時点で、116の企業が鉱物埋蔵量調査、探査、そして採掘についてラオス鉱業省の認可を受けており、そのうち69社が外資企業である。セポンとプーカムの両プロジェクトの拡大のおかげで銅はあっという間にラオスの主要輸出品となり、さらに金、スズ、鉛、亜鉛、そして石炭などのその他の鉱物の輸出量も増加している。


『社会意識の高い』政府

パンオーストの人材・サステナビリティ−担当のエイドリアン・ベル(Adrian Bell)ジェネラルマネージャーはこのように語る。「ラオス政府は非常に高い社会意識を持っています。」

「ラオス政府と弊社との間で交わした鉱物探査・生産合意書(Mineral Exploration and Production Agreement)では、環境、トレーニング、コミュニティ、そして現地雇用に関する要件が規定されています。ラオス政府は、ラオス企業ではまずもっていつでも利用可能なものではないCSRに関わるある種のスキルや高度な知識が欧米企業によってもたらされることを期待しているのです。」

パンオーストは同社初のサステナビリティ・レポートを2007年に発表した。ベル・ジェネラルマネージャーはこうした取り組みを「環境保護主義者などの外部団体によるロビー活動よりもむしろ弊社の価値観を反映したものです」と説明している。

ベル・ジェネラルマネージャーはこう続けて語っている。「企業はサステナビリティ・レポートを作成することを法によって義務づけられているわけではありません――社内的にそして他社に対してベンチマークすることによって毎年弊社の基準を改善していくという意味で、私たちは単純にこうしたレポートの作成を優れたビジネス行為であると考えているに過ぎません。」

ベル・ジェネラルマネージャーは次のように述べる。「弊社の株主そして従業員に加えて投資界からは、『パンオーストのような上場企業はCSRの課題に対応すべし』いうプレッシャーが高まっています。」

「サステナビリティに関する報告について一層の詳細情報の開示を要求する倫理的投資ファンド(社会的責任ファンドとも呼ばれる)と並んで、CSRに関する課題を専門に扱うアナリストも現在では存在します。こうしたアナリストやファンドの存在が、今後人々が『どこに』そして『だれに』投資するかを決定することになるのです。」

村落開発委員会(Village Development Committee)から現地の声を集めることで、パンオーストは同社がビジネスを展開する地域に隣接する地域のコミュニティ開発基金に対して年当たり30万ドルを寄付している。最近の活動には、鉱山集落向けの収穫量の高い穀類の開発にあたっての地元農民に対する支援と並んで、学校、道路、そしてその他インフラの建設などがあげられる。

同社の2008年のサステナビリティ・レポートによれば、プーカムからもっとも近い2つの村落について独自に実施した調査では、同社による採掘事業のおかげで2005年から2008年の期間には死亡率、飲料水と道路へのアクセス、そして雇用機会に大幅な改善がみられている。2005年の生産開始以来、当該村落の収入は500%も増加しているという。

ベル・ジェネラルマネージャーによれば、「私たちの最終的な目標はラオス人スタッフにラオスでの採掘事業を運営してもらうようにすること」なのだという。2008年末の時点では、ラオスにおける同社の1,535人の正規従業員のうち1,300人がラオス人であり、そのうち3分の1はプーカム近隣の地元の村落、そして多様な民族から雇用されている。

MMGにおいても取り組みは同様である。MMGのリチャード・タイラー(Richard Taylor)・ラオス・カントリーマネージャーは次のように述べている。「弊社のセポン銅山プロジェクトの6,000万ドル規模の拡張にともない、弊社ではそのCSR活動の拡大を公約しています。」

タイラー・カントリーマネージャーいわく、「社会およびコミュニティ活動に対する約350万ドルの支出を含めて、現時点では弊社の社会および環境対策費用は年当たり550万ドルを超えています。」

「これまで私たちは鉱区にもっとも近い町に焦点を当ててきましたが、その操業拡大とともに弊社の事業はいっそう郊外の農村社会へと移動しています。そこで私たちは、生活向上に対する弊社の長期的コミットメントの一部として、こうした村落に対して汚染されていないきれいな水と公衆衛生を提供しようとしているのです。」

MMGとパンオーストの両社は、探査結果にはよるもののそれぞれのプロジェクトの展開期間は10〜20年程度と見込んでいる。そして、採掘終了後は『包括的な』鉱山閉鎖と環境再生を公約している。

鉱山採掘の後に現地に残される永続する遺産は、非常に高いスキルをもち柔軟な鉱山労働者であり、改善され高いレベルの農業、教育とトレーニング、そして強化されたインフラとなることだろう。


勝者と敗者

しかしながら、企業の取り組みにもかかわらず、両社の鉱区周辺では環境にかかわる事故の発生が後を絶たない。もっとも最近の2009年9月期の四半期レポートでは、MMGは同社が保有する環境管理に関するISO14001認証にもかかわらずセポンで発生した2件の事故を報告している――1件は魚の大量死にかかわる事故であり、もう1件はコンテイメント・ポンド(無排出池)への高いpH値の水の排出である。

CSRMのケンプ博士は次のように指摘している。「業界の慣習が『おしなべて』改善しているとしても、環境に対して採鉱が残す重い足跡ゆえに、今後も事故が無くなることはないでしょう。」

「この点で他社よりもより上手に管理できる企業もありますし、同一企業内でも環境管理の上手な部門とそうではない部門があることも事実です」とケンプ博士は続けて述べている。

社会における女性の伝統的な役割ゆえに発生する労働者の移住、HIV/エイズの蔓延、資源配分、そして女性にもたらされる影響にまつわる課題を指摘しつつ、ケンプ博士は「企業はそれぞれのCSR活動の『最終結果』を評価しているのでしょうか」と疑問符を投げかけている。

「鉱業においては勝者は主に男性であり、他方で敗者は主に女性となるのが通常です。そしてラオスの企業およびこれと提携する企業はこうした問題点に対して敏感であり、それを管理するのが賢明であるでしょう」とケンプ博士は語る。

欧米企業がラオスにおいて今後もCSR活動を実行し続けことについては楽観視しているものの、CSRMのブラウン博士は業界のそれ以外の企業についてはさほど確信していない。

ブラウン博士はこのように述べている。「ラオスで事業展開するオーストラリア企業が合理的水準を満たしつつ操業することに関して楽観的であるのは難しくありません。ラオスにとって難題なのは、この国でビジネスを展開する残りの100余りの企業をいかに管理するかということなのです。」

「ラオスは自国よりもずっと強力な隣国の要求に応じるために、速やかな発展の実現というとんでもないボリュームのプレッシャーをかけられています。アクセスを提供し、それぞれの企業の組織的体力に見合わないペースで成長するために、こうした企業に対してすさまじいプレッシャーをかけるという政治的かつ経済的な思惑が存在します。」

政府が掲げる社会的責任モデルと主要企業それぞれの個別ポリシーの間の『ずれ』をブラウン博士は指摘している。これはCSRの『パラレル(並列)』システムの原因となる状況にほかならない。

ブラウン博士は次のように言及している。「このパラレルな政治的環境で、いくつかの企業の優れた事例にもとづくCSRをいったいどのように優れた『基準』に具体化していくことできるでしょうか?ラオスの国中に優れた基準を広めるには、優れた事例が組織開発とかみ合う必要があります。」