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企業統治改革の実現にむけて示威行動を取り始めた日本の物言う株主たち
文・アンソニー・フェンソン(Anthony Fensom)



癒着した株式持合い制度のもとで日本人の個人株主は長く忘れられた存在であった。そんな個人株主たちが近年口に出して物を言い始めている。もっともだれより声高にうるさいのは外国人投資家であるかもしれない。ところが一方で、市民レベルでの社会運動の高まりと並行して、日本には独自のコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革の旗手が出現しつつあるのだ。

しかしながら、変革は定着した社内インサイダー制度を克服し、アジアの新興市場から台頭するライバルたちとの激化する競争の中で世界第2位の経済大国に対する投資者の信頼回復を後押しするに足りるほどのものとなるのだろうか?

政治資金スキャンダルに加えて、自動車メーカーの三菱自動車から証券会社の日興コーディアル証券まで日本の主要企業が起こしたスキャンダルは、透明性と情報開示の欠如がもたらすダメージが、どれほどの影響を及ぼすかを如実に示すこととなった。

ニューヨークに本社を置くコーポレート・ガバナンスと格付けの専門会社であるガバナンス・メトリクス・インターナショナル社(GovernanceMetrics International: GMI)が最近実施した調査では、この国が直面する難題が示唆される結果となった。2009年9月にGMIが実施した世論調査によれば、コーポレート・ガバナンス・プラクティスという尺度についてみれば日本はタイ、マレーシア、韓国、そしてインドといったアジアの隣国よりも下位にランクされており、日本よりもレーティングが低いのは中国のみという体たらくであった。

この調査の結果は、日本コーポレート・ガバナンス研究所 (JCGR)の理事でもある一橋大学のクリスティーナ・アメイジャン(Christina Ahmadjian)一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授にとっては当然のことであった。2002年以来、彼女が理事を務めるこの非営利グループは、コーポレート・ガバナンス基準の改善を目的として、東京証券取引所(TSE)の一部上場企業のコーポレート・ガバナンス・プラクティスの調査を続けている。

アメイジャン教授は、「2006年に施行された新会社法、そして2003年に導入された会社委員会制度などの主要なコーポレート・ガバナンス改革にもかかわらず、近年では日本のコーポレート・ガバナンスには大きな変化は見られません」と語っている。

さらにアメイジャン教授は続けて述べている。「コーポレート・ガバナンスが望ましいことであると確信している企業幹部は数えるほどしか存在しません。過去数年間にわたって多くの海外投資家が日本市場から引き揚げていくのを私たちは目にしてきましたが、コーポレート・ガバナンスについて語られることはまずありませんでした。そして日本の機関投資家のほとんどはコーポレート・ガバナンスについておよそ理解していないことが明らかです」。

それにもかかわらず、資金調達源としての『メインバンク』の役割の衰えと並んで、株式持合いの減少とこれに対応した外国資本の増加を背景として、日本企業は『株主価値』やコーポレート・ガバナンスといったかつては『外からもたらされた概念』であったものに以前よりもずっと注意を払うことを強いられるようになってきているのが現状だ。

大和総研によれば、東京、大阪、そして名古屋のそれぞれの証券取引所に上場する日本企業の間での株式持合い比率は2008年度には前年度比で0.8%下落し、わずか8.2%にまで落ち込んでいる。

一方で、日本株式会社では外国人株主の株式保有比率が高まっている。日本経済新聞社の調査によれば、2009年3月時点で日本の上場企業上位40社における平均外国資本比率は40.7%であった。

金融サービスグループのオリックスやメガネレンズ・メーカーのHOYAといった企業では外国資本比率のレベルと欧米スタイルのコーポレート・ガバナンスの間に相関関係があることをJCGRは指摘している。コーポレート・ガバナンスのレーティングでは化粧品会社の資生堂や製薬会社のエーザイなどの企業も秀でているが、日本インベスターリレーションズ協議会でも両社を『IR優良企業』に選出している。

「外国人投資家の数が多い企業においてコーポレート・ガバナンスが改善していること、とりわけ情報開示と透明性についてそのプラクティスがよくなっているという事実には議論の余地はありません」とアメイジャン教授は語っている。

重要なことに、JCGRの2008年の調査でもコーポレート・ガバナンスについて上位につけている企業ほど純資産利益(ROA)や株主資本利益率(ROE)といった財務実績も高いことが明らかにされた。


声高になり始めた個人株主たち

日本の集団主義的で総意に支配された社会では個人主義あるいは対立が推奨されることはまずない。しかしながら、近年では物言う株主運動の高まりのおかげでむしろ個人主義や対立といったものが見られるようになってきた。

日本経済新聞のレポートによれば、2008年度には4,200万人以上の日本人が上場企業の株式を保有していたという。一般(個人)投資家は2009年6月時点で売買代金の34%を占めたが、ちなみにこの数値は、2005年12月――かつての市場の寵児であったホリエモンことライブドア社の堀江貴文にかけられた証券不正行為疑惑をきっかけとした市場暴落の前のことだ――には45%というレベルにまで達していた。

一般投資家たちはだんだんと年次株式総会でその存在感を示しだしている。ごく最近までは、こうした株主総会は総会屋による進行の妨害を防ぐ目的で慎重に演出されたものであった。

総会屋が急速に姿を消す一方で、総会にかかる平均的な時間は1990年の29分から2000年には39分に延びている。同じように、東京証券取引所上場企業が同日に開催する総会の数は1995年の96%をピークに2004年には64%にまで減っている。

2009年6月26日以前に株主総会を開催した50社の非金融企業のうち24社では株主の出席者数は最高レベルを記録した。トヨタ自動車、パナソニック、そしてみずほフィナンシャルグループでは株主総会への出席者数は過去最多であった。

日本人企業弁護士である岡谷茂樹氏は、「いわゆる『IRスタイル』の株主総会のトレンドはこれからも続きそうです」と述べている。

「株式売買委託手数料の自由化とインターネットでの株取引の拡大のおかげで、個人株主の数が急速に増加し、それにつれて個人株主たちは声を張り上げるようになってきました」と岡谷弁護士は語る。「企業の業績により敏感なこうした個人株主たちにどのように対処したらよいのか企業はいまや知恵を絞らねばなりません。企業の多くは総会では、個人株主向けにその事業についてよりシンプルでわかりやすい言葉を使って説明することにより多くの時間を費やし、個人株主による質問に回答する時間をより長くしています」。

前出の堀江貴文や攻撃的な投資ファンドとして名高かった村上ファンドの社長を務めた村上世彰といった物言う株主は、2006年に注目を集めつつ逮捕された。こうした逮捕劇とあわあせてそれよりごく最近には運用成績の悪化に頭を悩ますスチール・パートナーズなどの海外投資ファンドの存在が物言う株主の反乱を鎮圧したかにも思われた・・・しかし、他の株主たちはますます積極的にことにあたっている。

大阪を拠点とするNPOの株主オンブスマンは、コーポレート・ガバナンス・プラクティスの改善を強制するために株主代表訴訟という手段を利用している。その訴訟での勝利のうちでももっとも名高い事例の一つには、雪印乳業が食中毒事件発生後に食品衛生を担当する社外取締役の任命を受け入れたことがあげられよう。

株主オンブスマンは違法な政治献金や入札をめぐって建設会社を相手取った訴訟も起こしており、さらには取締役報酬についてあらゆる情報の開示を求めてソニーに対してキャンペーン運動を展開している。

関西大学の森岡孝二経済学部教授は、「このグループの活動は、取締役会役員と監査役の株主に対する自分たちの責任についてその意識を高めることとなっています」と指摘する。

「こうした取締役や監査役の多くは、かつては提案をただ追認するだけでしたが、いまでは彼らは訴訟を起こされる可能性があることを認識しているだけにより真剣で厳しい注文をするようになってきています」と森岡教授は読売新聞のインタビューで語っている。

日本の機関投資家である厚生年金基金連合会(PFA)もまた改革支援派であり、コーポレート・ガバナンスを基準に同連合会が投資する企業に関して議決権行使ガイドラインを規定している。

2009年6月――6月は日本における株主総会開催最多月である――には、提案議決できまりの悪い『否決』を避けるために多くの企業が同連合会の後押しを求めていたにもかかわらず、同連合会は取締役任命提案の32%に反対投票した。

120兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人といったより大規模な投資家がこれにならい、自らが投資する外資系企業および日本企業における経営問題に関してよりはっきり意見を述べるようになってきている。


改革推進の勢い

変革のペースがごくゆっくりであることに対して批判はあるものの、経済産業省、金融庁、そして東京証券取引所といった主要規制当局が最近実施しているスタディグループやこれが発表するレポートでは、いっそうの改革への方向性が示唆されている。

新たに与党となった民主党は日本株式会社の不安をかき立てている――というのも法定監査役員会への従業員代表者の参加、取締役の3分の1を『独立性の高い』社外取締役(訳注:社外取締役は従来『external director』の訳語であったが、ここではindependent directorという用語が用いられておりこれは従来よりも独立性の高い社外取締役を意味する)とすること、『独立性の高い 』社外取締役のより厳密な定義付け、そして法廷監査役の権利の強化といった規定を含むと報道されている新たな『公開会社法』の制定を民主党がそのマニフェストに掲げているからである。

『独立性の高い』社外取締役の増員には賛成する一方で、日本取締役協会の松本茂事務総長は次のように述べている。「私たちは監査役員会への従業員代表者の参加には賛成していません。それは、収益性を維持し、だれが代表者になるかを決定するには問題があるからです」。

『独立性の高い』社外取締役の増員について積極的な支持者の一人は、東京に本社を置く合併・買収(M&A)に関するアドバイザリーを専門とする投資銀行のJTPコーポレーション(JTPコーポレーション)のニコラス・ベネシュ(Nicholas Benes)社長である。

ベネシュ社長は、「『独立性の高い』社外取締役を明確に定義することでコーポレート・ガバナンスには180度の転換がもたらされ、経営陣に異議を申し立て、明確な戦略的ビジョンを提示することができる正真正銘の社外取締役に対して取締役会が開かれた機関となることでしょう」と述べている。

ベネシュ社長は語っている。「日本企業にはすでに監査役会というかたちで社外取締役が存在するから、これ以上多くの社外取締役は必要ないと長年にわたって主張されてきました」。

「ところが、こんな制度はおかしくないですか?自分の双子の弟を監査役に指名して、これをもって合法であるとみなされるのです。この『独立性の高い』社外取締役という用語が法的な定義を持つようになれば、『独立性の高い』社外取締役増員への変革に拍車がかかり始め、これによってコーポレ―ド・ガバナンスには大転換がもたらされることになるでしょう」。

「2011年には国内総生産(GDP)比200%を超すものと予測されている日本の雪だるま式に増加している財政赤字こそが改革の重要な理由の一つです」とベネシュ社長は指摘する。

そしてベネシュ社長はこう警告する。「日本は株式市場を活性化しなければなりません。さもなければ、財政赤字そして国民年金と企業年金は大変な事態に直面することになるでしょう」。

「外国人が理性的に投票しているだけでなく、より多くの日本の個人投資家がどのように投票すべきか考えているのですよ――これが不吉な前兆でなく何であると言うのでしょう」。

ベネシュ社長はこう続けている。「ある企業への株式保有率が1%以上、あるいは300以上の議決権数(単元数)を保有する人であればだれでも、議決権代理行使のための委任状に記載されている取締役候補者に投票する権利をもっています。こうした個人投資家たちが共同提案を出すために協力するのであれば、中立で、独立性の高い社外者で構成される取締役会が一夜にして実現することになるでしょう!」