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韓国現地レポート
〜小さなグローバル企業。韓国中小企業の強さの秘密とは〜
第1回 ミネラルバイオの“食べられる化粧品”
取材・原稿:申 美花(シン ミファ)氏



ミネラルバイオ社の全商品30種類。
商品の90%以上がアメリカのFDA(米国食品医薬品局)の承認を得ている。

プロローグ:中小企業の現場から、韓国独自の経営思考と競争原理を探る


最近「サムスン」、「ヒュンダイ」、「LG」、「POSCO」など、韓国企業の名前が日本のテレビや雑誌、あるいは新聞記事などに頻繁に登場するようになった。半導体、製鉄、自動車、携帯電話、家電製品などの分野を中心に、もはや韓国国内にとどまらず、ボーダーレスな世界を舞台に成長し続ける韓国企業は、欧米や日本企業とは異なる韓国独特の経営方式を構築し、いわゆる財閥グループ企業として発展と成長を遂げてきた。しかし、国家経済の破綻とも言われた1997年の金融・経済危機を境に、政府主導で放漫経営を続けてきた財閥企業の解体が行われた。これをきっかけに大きな転換期を迎え、ドラスティックな変革を成し遂げた財閥企業は、今日再びグローバル企業としてさらなる発展を続けている。

欧米・日本企業と一線を画す韓国企業経営者独特の経営思考と競争の原理とは何か?
サムスン電子が2004年の決算で公表した税引き後利益1兆円という水準――東アジア発のグローバル製造業では日本のトヨタ自動車に並ぶ――は、世界を驚かせた。今やサムスン電子は最先端技術製品で世界トップを走る存在になっている。
かつて韓国メーカーは日本から学び、そして日本企業以上にいち早く、しかも徹底的なリストラや事業再構築、事業の選択と集中でスリムな経営体制を築き上げた。いま数多くの日本のマスコミが、韓国企業が世界的競争力を築いたプロセスを、改めて知ろうとしている。

私は今回、多くの日本のマスコミとは視点を変えて、これまで大企業の下請企業として存在感が薄かった韓国の中小企業にスポットライトを当ててみたい。多くの韓国中小企業が困難の中でも粘り強く業績を上げ、世界を舞台に躍進する「小さくて強い企業」へと変身を遂げている。私は取材で韓国中小企業の現場を訪れるたびに、業績はともかく世の中に真になくてはならないものを作るために昼夜必至に頑張っている、その姿に心が打たれ、しばしば熱いものが込みあげてくる。毎回、一人の消費者として感動し、取材の帰途にはいつもと違う幸せを感じるのだ。
第1回目のレポートは、そうした企業の一つとして「食べられる化粧品を作る会社―ミネラルバイオ」を紹介したい。


第1回 ミネラルバイオ社 「食べられる化粧品はありますか?」

女性である私にとって“食べられる化粧品”は理想に近い。毎朝時間をかけて多くの化粧品を顔に付け、夜はまた化粧落としに相当時間がかかる。出張や飲み会、仕事で疲れた夜などそのまま寝たい日もあるが、“化学成分の固まり”を落とさずに寝ると、翌朝のお肌は最悪の状態だ。その悩みを韓国で友人に話すと「食べられる化粧品を作る会社があるのよ」。その瞬間、まさに目が丸くなった私は、すぐ取材を取り付けたのである。


李寿求社長に聞く:お坊さんの“ツヤ肌”でひらめいた100%天然ミネラル化粧品


真ん中が李寿求社長、
右は權海錫海外マーケティングチーム長、
左が筆者

韓国で天然ミネラル化粧品を製造する「ミネラルバイオ」社を訪れた私は、まずは社長の李寿求さんになぜ食べられる化粧品会社を作ったのか、その経緯を伺ってみた。

李社長はかつて不動産会社、大手の出版会社などさまざまなビジネスを経験したが、どれもうまく行かず毎日のストレスで心身衰弱の状態に。ある日、とうとう何もかも投げ捨てて水道や電気もない山奥の寺で一年間修行することになった。
そこで社長は、お寺のお坊様は肌に何にもつけていないのにいつも顔がツヤツヤしていることに気づく。不思議に思い、よく観察すると、彼らは結婚もしないし、肉、魚は一切口にせず、山奥で取れる山菜やきれいな空気と山水で栽培する野菜のみを食べている。

その究極の自然生活に心を打たれた社長は修行を続ける中で、ある日、自分の名前(李寿求)には「人々の命を救う(寿を求める)」使命があることに気づいた。しかし医者でもない自分がどうすれば人の命を救えるのか?さらに悩む日々が続いたが、その時ふと “お坊様のツヤ肌”に目が留まり、その瞬間「これだ!」と叫んだという。

肌トラブルで悩んでいる人のために何かできないか。安心して食べられる“究極の化粧品”を作ることができれば、肌トラブルで困っている人の命を救えると思ったのである。

お寺に持参したたくさんの本を改めて読むと、目に留まったのが、天然ミネラルに関する記述である。カルシウム、マグネシウム、亜鉛、硫黄など天然ミネラルは食べるより肌に塗ったほうがより吸収されやすく、健康的な肌を作る。
そのことに着眼した李社長はその後2年間の準備期間を経て2007年にたった一人で大学発ベンチャー企業として事業をスタートした。
半年間事務所の賃料も支払えない、段ボール箱を敷いて何日も事務所で寝泊まりをしながら製品作りに没頭する時もあったが、何とか化粧品を完成させ、まだ認知度の低い商品を抱え、薬局を中心に営業しても門前払いばかり。それでも負けずにかゆみなどアレルギーで苦しんでいる人を対象にインターネットで販売したところ、消費者たちから自然発生的な商品への賞賛がほぼ毎日のように書き込まれ、さらに読んだ人たちが商品を購入する口コミ効果で段々売り上げが伸びるようになった。

こうして李社長の粘り強さが創り出した“100%食べられる化粧品”は、いま韓国でアトピーや皮膚トラブルに悩む人たちから最も愛される化粧品になっている。


肌トラブルの増加で注目される天然ミネラル化粧品

一般にアトピー性、かゆみ、乾燥、ひび割れに外用薬としてステロイド剤が良く使われるが副作用の問題で、自然にトラブルを押える天然製品に対する関心が高まっている。 現在、温泉水などに含まれるミネラルの種類は約70種類で、カルシウム、鉄分、硫黄などが代表的なミネラル成分である。これらの成分はビタミンをはじめ人体のさまざまな栄養素が機能を発揮するための触媒機能の働きをする。ミネラルが不足すると栄養素が働かなくなり、肌にトラブルを起こす原因となる。ミネラルは天然物質そのもので正常人の肌をより健康にし、トラブル肌を改善する効果があるため、アメリカやヨーロッパではミネラル化粧品が広く普及されている。

天然ミネラル化粧品の主成分は高濃度の天然ミネラルイオン温泉水なので、天然保湿因子を活性化させ、老化を防止すると同時に、かゆみや肌の疾患などのトラブルを解決する。兔疫性が高まると癌にかかりにくくなるのと同じ原理で、肌が元気で健康になれば肌の免疫性が高まり、肌疾患が徐々に減少する。
特に天然ミネラルはアメリカの医学論文を通じてアトピーやアレルギーなどの肌トラブルに改善効果があると証明されており、今後基礎化粧品としてその市場が急速に拡大されることが予想される。


●ミネラルバイオ社の天然ミネラル トータルクレンジング
お客様レビュー680件以上を集めたヒット商品。 多くの女性は化粧を落とす場合クレンジングクリーム、クレンジングオイル、フォームクレンジングなど複数を使うが、この製品は一本でアイシャドウまで落とせる。角質除去にも優れ、ボディークレンジングとしても使える“優れもの”。泡たちも良く、実は面倒くさがり屋の私にも必須アイテムだ。

会社経営で守るべき信念とは?

上の質問に対して李社長は「業績が高い企業を目指すのではなく『やさしい企業』を目指す」と力強く語った。

一つは、顧客に対してやさしい企業であること。
具体的には、化粧品に高い広告費用をかけないこともその一つ。さらにインターネット販売で流通費も節約し、顧客に天然ミネラル商品を安い値段で提供している。

もう一つは社員に対してやさしい企業であること。
李社長は、化粧品業界では自社の新入社員の初任給が最も高いと打ち明けた。
さらに一般社員の給料も大手化粧品会社の年俸と比較して20%増を目指して尽力していると李社長は自信に満ちた表情で言い切った。なぜならば、社員が満足しながら自らの仕事に専念する雰囲気を作ることによって、良い製品が生まれ、それが顧客の幸せにつながれば、生活の質が向上するからだと社長は力説した。


●ミネラルバイオ社 設立から現在までの売上高と営業利益

社員の一存でディスカウントOK ― 顧客第一主義を徹底した意思決定システム

一般的に韓国企業はトップダウン式の意思決定が行われるが、ミネラルバイオ社では社内のコミュニケーションを非常に重視している。大企業以上に十分な社内討議を経て意思決定が行われていることが大きな特徴である。

社員がある案件について社内掲示板に質問を掲載すると、全社員がそれについて答弁し、それによってオープンに社内情報の収集や伝達、共有が可能となる。実は今回の取材でも、私は事前の質問項目を社長当てにE-mailで送ったのだが、それに対して社内掲示板を通じて社員が自由に意見を述べた回答も私に渡されたほどだ。

特筆すべきことは、顧客と接する社員に大幅な権限が委譲されている点だ。

たとえばクリームをネット購入した顧客に化粧水が誤配達された場合、苦情を聞いた社員の判断で化粧水はそのまま顧客に提供され、新たにクリームも配送される。また、ある顧客が33,000円の商品に対して3000円の値引きを要求した場合、電話で応対した社員がその場で値引きに応じることまでできる。

つまり通常の中小企業の場合は社長に権限が集中しがちだが、この会社はまさに「お客さま第一」、顧客の要望に常に応えるべく顧客と接する社員に最も大きな権限が与えられている。權海錫海外マーケティングチーム長によればミネラルバイオ社独自のこの仕組みは「社員自身が決めた対応をお客様が喜ぶ、結果的に社員と顧客双方での満足度が高い」とのことだ。

韓国式トップダウンでも、日本式ボトムアップの意思決定でもない、すべてがお客様第一主義で顧客と直接にやり取りする現場の社員に権限が委譲され、フレキシブルに意思決定が出来る点は、日本のみならず韓国でも他社でなかなか見られない特徴である。


お客様が創る(?!)ミネラルバイオ社の顧客管理システム

オンライン販売会社であるミネラルバイオ社は、同時に人間味あふれる顧客コミュニケーションシステムも確保している。

同社は初めて商品を購入する顧客に必ず電話でのヒアリング・相談ステージを設けている。
内容としては顧客の生活環境チェック、食生活チェック、肌状態チェック、肌管理のためのライフスタイルチェックである。
さらに3回以上のリピート客に対しては、天然ミネラル製品を正しく使用しているか、また肌がどのように変化したかを必ずヒアリングしている。ほとんどの顧客が肌の写真をネットで送ることに協力してくれるため、CS(お客様相談)担当者は実際の写真を見ながら次回のお勧め商品について顧客とやり取りを行う。

肌トラブルを抱える顧客が多いため、丁寧に悩みを聞きながら肌の問題点を把握し、トラブルを改善する情報を提供する。製品に効果がない場合には100%払い戻せるシステムになっていることもネット上での口コミ等での評価につながり、さらに初めての顧客が安心して商品を購入するきっかけになる。既に商品を購入したことがある顧客は、ネットの掲示板に実際にミネラルバイオ社の化粧品を使用後の肌変化の写真を掲載し、商品の効能について詳しく説明してくれる。

このようにネット販売や掲示板の進化は、会社が商品について嘘を付けないシステムを創り出し、そのシステムをミネラルバイオ社は最大限に活用している。言い換えれば「ミネラルバイオ」ファンが、次のファンを創りだすシステム、いわばミネラルバイオ社では顧客が顧客を管理していくといっても過言ではない。


●食べられる化粧品「ミネラルスプレイ」
自社サイト[www.mineralbio.co.kr]のインターネット販売で第1位を誇るスプレイ式化粧水。カルシウム、マグネシウム、硫黄、亜鉛、カリウムなど30種類のミネラル―人間の体を正常に維持していくために不可欠な成分―が含まれた、いわば、そのまま“食べても良い化粧品”。


★李社長からすべての女性へ★
〜顧客が賢くなればなるほど、化粧品会社は変わります〜

現代は化粧品も90%以上天然製品を使わなければならない時代です。
化学成分の化粧品は一日二日だけでお肌に害を与えることはありません。10年 20年にわたって肌に傷付けることを認識しなければならなりません。
手の甲に1回塗って見て良い化粧品なのか、悪い化粧品なのか区別することはできませんので、化粧品を購入する際には、化学性防腐剤や化学性合成界面活性制が含まれているかどうか必ず確認して購入してください。
化粧品の広告だけを見て化粧品を選択しない賢さが必要です。

<インタビューを終えて>
まずびっくりしたのは、取材時にコーヒーやお茶とともに玄米で作ったおやつ(韓国伝統のおもち)が出されたことである。日本と韓国での数多くの取材でも初めての経験であり、一瞬戸惑ったがおいしくてペロリと食べてしまった。社長いわく、社員の健康のために社員食堂でも有機農で作った玄米や雑穀で作った米飯を使っているそうだ。顔や体にぬる化粧品だけでなく、飲み物もミネラルウォーター、食べ物も健康食をお勧めするこだわりである
最後に感動したエピソードをもう一つ。肌トラブルで長年苦しんだある女性客がミネラルバイオの化粧品で見る見るうちに肌の調子が良くなった。その効果に驚いたご主人は社長に「ぜひ投資したい」と電話、今後の詳細な計画を詰めているとの話だ!

企業の目的は「人を幸せにすること」という李社長の単純、明快な答えが如何に価値あるものかを実感する1日であった。帰りがけに、社長からの夕食のお誘いを久しぶりに韓国で一人暮らしの母との約束があった私が丁寧にお断りすると、母の分まで社長はプレゼントを用意してくださった。李社長の暖かい心遣いで込み合う電車の中でも心が温まり、ミネラルバイオ社は今日既に二人のファンを増やしたことに気付いたのだった。

(2010年4月取材)

申 美花(シン ミファ)氏
1986年文科省奨学生として来日。慶應義塾大学商学博士。立正大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科非常勤講師などを兼任。著書は共著として『Live from Seoul』、『日本企業の経営革新―事業再構築のマネジメント』など。日本と韓国企業における経営全般でのコンサルティング事業にも長年の経験を有する。現在、SBI大学院大学准教授。
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