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海外企業最前線
お金と時間、無駄なエネルギー消費を削減しながらお洒落を楽しむ
節約志向の米国で大ヒット、スーパークリースとは?


スーパークリース社
ダニエル・ホルブルック社長

リーマンショック以降の経済不況は、先進国の消費者意識を大きく変えた。しかし節約志向の今だからこそ新たなヒット商品も生まれている。スーツなどの折り目(クリース)を恒久的に保つスーパークリース社技術もその一つだ。米国でのヒット商品を携えて日本市場へ進出する英国企業スーパークリース社のダニエル・ホルブルック(Daniel Houlbrook)社長に話を聞いた。

ニューヨーク市の警官がカッコ良いのはスーパークリースのおかげ?

Q:1976年に創業、独自の技術が制服に採用されるなどして業績を伸ばしたとか?
ホルブルック:私の父が独自に“スーツや制服などの折り目(クリース)を恒久的に保つ技術”(クリース加工)を開発し、1976年に創業しました。スーツの折り目にシリコン樹脂の溶剤を塗布すると1分程度で乾き、非常に自然でキレイな折り目を保ちます。


NY市警制服にも採用
しかも折り目は100回以上洗濯しても全くとれないという画期的な特許技術です。

ドライクリーニング会社や洋服メーカーを中心に販売実績を順調に伸ばし、現在は英国を中心に欧米など世界47か国で事業を展開しています。特にきちんとした折り目が重要となる軍隊や学校などの制服に当社のクリース加工が数多く採用され、シーズンごとに学校の制服400万着以上に使われています。米国のニューヨーク市警察(NYPD: The New York City Police Department)制服にも1984年から当社のスーパークリースが採用されています。



新たな小売店ニーズを掘り起こし、全米での売上を2倍に


Q:その後、2003年から米国市場に本格進出しました。短期間での売上拡大は、英国と米国での小売店舗形態の違いに気づいたことがキッカケだそうですね?
ホルブルック:先ほどお話したとおり、当社はドライクリーニング店、小売店、洋服メーカーの工場など、さまざまなカテゴリーの中でも、当初は制服分野に強みを発揮し、世界各国で事業を展開していました。しかし、2003年にマネージング・ディレクターとして米国を訪れた私はあることに気づきました。米国の量販店では、スーツの裾上げなどのサービスを店舗ごとに行っているのです。

Q:日本でも同じようにスーツなどを購入した際には、袖の長さや裾上げなど簡単なリフォームをその場で頼みますが、英国では違うのですか?
ホルブルック:実は英国では約9割の小売店が完全なレデイメイドスーツを販売しています。顧客は1〜2インチ(約2.5〜5cm)単位で自分のウエストサイズやズボン丈にぴったり合う品を選んでそのまま持ち帰ります。店舗では裾上げなどのサービスは行いません。英国紳士=オーダーメイドスーツのイメージがあるかもしれませんが、それは全体から見れば約1割のでしかないサビル通り(ロンドンの高級紳士服店街)にある高級店での話です。

従って2002年当時の当社は英国では大手小売チェーンのネクスやモス・ブラザーズ、紳士服メーカーのオースティン・リードなど、既に有力企業と取引していましたが、基本的には工場ごとに機械を納入するため、1社あたりの売上は限られていました。

ところが米国では店舗ごとに1−3名程度の簡単なリフォームを行う専門スタッフを置いています。これは嬉しい驚きでした。そこで私は米国でのターゲットを制服やクリーニング店から、量販店や小売店舗に1台ずつスーパークリースを納入する販売戦略に切り替えました。

この戦略の成功により、現在、全米では、約600店舗を展開する有名なフォーマルウエアブランドのメンズ・ウエアハウスをはじめとしてMacy'sなどのチェーン店を含む2,500店舗に当社のスーパークリースを納入しています。

一流服飾メーカースーツなど、世界で5,200万着(2010年実績)にクリース加工が採用

Q:多くのブランドメーカーが採用した理由をもう少し教えてください。
ホルブルック:メーカー・量販店の多くはスーパークリースを広告プロモーションの一環として活用しました。“スーツを購入される方には10ドルでクリース加工がつきます”というわけです。さらに私たちは各企業に従業員への新しいインセンティブ・システムも提案しました。というのは、当社の機械は非常にシンプルな仕組み---空気圧のペダルを踏むとカートリッジから溶剤が出てくる---で、ズボン1本当たりにかかる時間は1分程度です。そのため、多くの企業は当社のクリース加工を導入する際に店舗スタッフの増員は考えなかった、または必要としていませんでした。

しかし、これを従業員から見ると、例えば1日に80本のクリース加工の注文があるとすれば80分の残業が増えることを意味します。そこで、当社は店舗スタッフのモチベーションを高めるため、(例えば10ドルから)当社の原価と企業の利益を除いた残りを販売員とリフォームを行うスタッフへのインセンテフィブとすることを提案しました。

メンズ・ウエアハウス社長はこの仕組みを「ウイン-ウイン-ウイン(トリプルウイン)の関係」と言っています。つまり、スーパークリースという付加価値サービスによってメンズ・ウエアハウスの売上高が増え、顧客はスーパークリースによってアイロンが不要となるという恒久的なメリットを得る、そしてスタッフもインセンティブな報酬を得るということです。おかげさまで、私が店舗に行くと従業員から「やあ、今週もスーパークリースのおかげでガソリン代を稼いだよ」などと声をかけられます(笑)。

各店舗ではクリース加工を行う専任スタッフを決めてもらい、必ずマンツーマンでの研修を行う。メンズ・ウエアハウス社の場合は、ホルブルック社長と4人の技術者が8週間をかけて全ての店舗スタッフへの研修を行った。ちなみに今回の取材時には海外出張2週間目だったホルブルック社長のスーツの折り目は完全にきれいなままだった!


Q:消費者の節約志向、そして環境意識にマッチしたこともヒットにつながったとか。
ホルブルック:リーマンショック以降、米国では人々がお金を使うことに慎重となり、家の中のクリーニングにしても「人に頼まず自分でやろう」といった節約志向の風潮が強まりました。以前は、多くの人々がスーツなどを汚れているからというより「単に型崩れが気になるから」という理由でしょっちゅう便利にドライクリーニングに出していたと思います。しかし、今や人々はそれが無駄なコストであると気が付き、“きちんとした見た目を保つ”と同時に”ドル紙幣も財布に保つ“ための別な解決方法を探し始めています。

クリース加工は恒久的にドライクリーニング代を節約することにつながります。さらに、忙しいビジネスマンにとって、いつでもきちんとしたスーツを身に着けることができるということは、時間の節約にもつながります。こうした点が今の消費者ニーズにマッチしたのは事実です。

しかし、それだけではなくスーパークリースは、エネルギーを節約するという消費者の環境志向にもマッチしたのだと思います。

ご存じのようにドライクリーニングは洗剤を溶かした水の代わりに工業ガソリンなどの有機溶剤を使って洗濯します。ドライクリーニングの回数を減らすことで石油エネルギーの消費を少なくします。さらにアイロンが必要ないので電気も節約し、結果的に服も痛みにくくなり、布資源も節約できるというわけです。


もちろん、スーパークリース自体でも環境対応を意識しています。溶剤であるシリコン樹脂には生物分解性製品を使用し、危険な化学物質を一切使用していません。また、消耗品であるカートリッジ(容器)は使用後に回収させていただき、リサイクルして使用しています。

2011年以降、日本でも小売店舗などで本格展開していきたいと考えており、現在、日本でも大手量販店、有名メーカーなどと具体的な打ち合わせを進めているところです。 時間とお金、そこに環境という要素が加わり、スーパークリースを活用する可能性が広がりつつあります。日本の皆さんにもぜひ、当社技術の良さを知っていただければと思います。一度でもご自分のズボンなどでお試していただければ、どうしてこれまでスーパークリースが当たり前のサービスとして日本になかったのかとお感じになるに違いないと確信しています。

(2010年11月取材)


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