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シネマ&ブックレビュー
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『クレイジーパワー』
社会企業家 新たな市場を切り拓く人々
著者/ジョン・エルキントン、パメラ・ハーディガン 訳/関根智美 英治出版

「常識のある人は、自分を世間に合わせようとする。非常識な人は、世間を自分に合わせようとする。ゆえに非常識な人がいなければ、この世に進歩はありえない。」

本書は著名な劇作家、ジョージ・バーナード・ショーの言葉を巻頭に置き、まさしく“非常識な”人々の“クレイジーパワー(原題はThe Power of Unreasonable People 理不尽な人々の力)”で古い常識を覆し、社会企業家として新しいビジネスモデルと市場を生み出すその手法を、数多くの実例をあげて紹介している。

社会企業家としては、マイクロクレジットと呼ばれる貧困層向け事業融資を行う「貧者の銀行」グラミン銀行を成功させたムハマド・ユヌス氏(2006年にはノーベル平和賞を受賞)が有名だ。本書ではこうした社会企業家の多くは、従来の慈善団体や非政府組織(NGO)と異なる特徴として、「レバレッジ」の効果的な活用を重視しているという。

「レ バレッジ(てこ)」は近年、企業買収の際に小さな自己資本で(多くは買収される企業の信用力を担保に)多額の資金を調達するレバレッジドファイナンスな ど、会計用語として知られている。しかし社会企業家が重視する「レバレッジ」とは、単に財源だけでなく「先住民の能力や社会関係資本、あるいは慈善団体や 政府からの支援、企業とのパートナーシップ、さらには未開拓市場から得られる収益など、あらゆるリソースを最大限に活用」することである。

本書の中で“外部資金活用(レバレッジ)型非営利ベンチャー”の典型として紹介されるインドの「ベアフット・カレッジ(Barefoot College 裸 足の大学)」の創設者バンカー・ロイは、「正式な教育を受けなくても、手に職をつけることはできる」を信条に、農村の人々が自分たち自身の力で飲用水、保 険、教育、雇用といった生活の質を改善できるように、医者、教師、技術者、建築家などさまざまな専門家を育成している。バンカー・ロイは「まず、先入観を 捨て、シンプルな事例を通して農村貧困者の驚くべき能力や実力」を知ることが政府や企業に必要だと答えている。農村の人々の能力を一つの「レバレッジ」に することで、従来の専門家やお金のばら撒き型ではなしえなかったビジネスモデルをつくりあげた。

この本は二人の著者、「持続可能な開発」および「トリプル・ボトムライン」手法の第一人者であり、サステナビリテイ(http://www.sustainability.com)の共同創設者であるジョン・エルキントンと、シュワブ財団(www.schwabfound.org)マネージング・ディレクター、パメラ・ハーディガンに よる共著である。彼らは、この本の意図がきわめてシンプルだとしている。つまり「新世代の社会・環境企業家を紹介すること、そして彼らの考える価値創出、 ビジネスモデル、リーダーシップを考察し、企業リーダーや政策立案者をはじめとする意思決定者への教訓を導き出すことだ」。

著者たちはいう、世界が歴史的な問題に直面し、日増しに深刻化していくなか、「長期的繁栄を楽観視しつづけるのは、それこそ非常識」なことであり、“非常識な人間”だからこそ、社会企業家たちには経済・社会・環境の崩壊をもたらすかもしれない「激震が見えている」のだと

社会企業家とは「社会に役立つ」ことを事業として成功させ、利益を生み出し社会貢献活動を継続可能とする人、そんな“社会貢献”をイメージして本書を手にとると、帯にある“10大 格差に潜むビジネスチャンス”という言葉に違和感を感じるかもしれない。しかし、あらゆる社会企業家たちへ数百時間ものインタビューを行って著された本書 を読むうちに、私たちを取り巻く日常が紛争、テロ攻撃、貧困、飢餓、伝染病、気候変動などまさしく “激震”に満ちていること、持続可能な発展をめざす全ての企業が好むと好まざると、社会の“激震”の中でマーケットを生み出し、ビジネスチャンスを作りだ していかなければならないことに気づく。本書が“企業、政府、市民セクターなどあらゆる領域のリーダーが未来で活躍するためのヒント”である所以である。