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シネマ&ブックレビュー
話題の映画や本を紹介します


『すごいぞ日本』
著者/産経新聞「すごいぞ日本」取材班/扶桑社 1,500円


8月は総選挙の季節である。マニュフェストをめぐる熱い論戦が期待される中で、一部ではバラマキ合戦との声もあり、財源論をめぐる論戦にも熱い視線が注がれる。財源論の背景にはわが国の成長戦略がなければならないのだが、5年先・10年先を見据えたこの国の国家のあり方、産業のあり方をいかに描くかは大きな争点といえよう、などと考えていたらこの本が目に飛び込んだ。1年をかけた産経新聞の長期連載をまとめたものだが、「日本もまだまだ捨てたものじゃない」と思わせる話題が満載なのである。悲観論が渦巻くこの国だが、「いいじゃん」「すごいじゃん」とわが子をほめるときのようなちょっと甘酸っぱい気分になった。


日本を支える、ハードパワーとソフトパワー

本誌には、14の話題が載せられている。「技術力」「重厚長大企業の挑戦」「ロボットによる試み」「音や映像のプロによる近未来の職人像」「中国での緑化活動」「商社の活動」「和食の可能性を広げる」「長寿企業の秘密」「海外貢献」「世界で活動するNGOと女性たち」「ノーベル賞の頭脳」「アニメの創造力」「私パワー」「危機の中から」……。 連載に関わった23名の記者たちが、この国や世界で見た日本人たちの活動をとおして日本の可能性を探ったものといえよう。

かつて筆者は、某大手メーカーの企業広告に関わってきた経験から、日本の技術者たちの凄さはある程度理解しているつもりだが、まず埼玉の小さな町工場で75歳の技術者によって作られた砲丸が、1996年のアトランタオリンピックから2004年のアテネオリンピックまで3大会連続で金銀銅を独占した話に驚いた。手動のローテク旋盤で素材の鋳物のムラを見極め、調整しながら重心を真ん中にもっていくのだという。「教えてもほかの人にはできません。経験で覚えなければ」。こんな技術者をどう育てたらいいのだろう。 自動車レースの最高峰F1マシンを支えるホイールが富山の町工場で作られているなど、のっけからわが国の技術基盤の厚さを示す凄い話の連続である。


重厚長大企業も頑張っている

重工長大企業といえば、時代遅れと連想しがちだが、造船業大手が取り組む風力発電の回転翼や別の造船業大手が取り組む新型路面電車の話、そして鉄鋼業大手が育てるレタスの無農薬水耕栽培もおもしろい。たしか最近のニュースでこの企業が手がける風力発電の回転翼は世界シェアのトップに躍り出たと記憶する。回転翼も新型路面電車も環境関連、これからだというのがうれしい。


ハートを揺さぶるロボット

ロボット王国・日本が叫ばれて久しいが、介護などにロボットを活用しようという動きも進んでいる。装着するだけで、重い荷物も軽々と持てる装着型ロボットHAL。運動を補助したり、身体機能を増幅する機能をもつ。高齢化社会の日本でその秘めた力が実証できれば、やがては自動車などに代わる花形産業になるかもしれない。孤独なお年寄りを癒すペットロボットも有望だ。


マンパワー・ウーマンパワーを育てる

筆者の周辺には有能な女性たちが目立つ。いずれも草食系などと揶揄される最近の男にはない凛とした風情である。「世界に飛び込む」は、そんな優秀な女性たちがNGOなどに飛び込み、男でも後ずさりしそうな劣悪な紛争地域で、平和構築に関わる話である。「仕事では涙は流さない」はそんな一人が発した言葉。就職氷河期を経験した30代、それも女性たちがこの国を変える原動力になる日が来るのかもしれない。いま話題のキャリア官僚も新人の3割が今年は女性になったと聞く。男女の区別なく、知恵を競い、行動を競う時代がこなければ、この国は脱皮できないと思う。