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シネマ&ブックレビュー
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『おしゃれなエコが世界を救う〜女社長のフェアトレード奮闘記』
著者/サフィア・ミニー(日経BP社 1,500円)


日本発“グローバルヴィレッジ(世界村)”

「顔が見える相手からは搾取できない」という言葉を聞いたことがある。
「だから、フェアトレードが有効なのだ」と。

フェアトレードとは、その名のとおり途上国の生産者との“対等で公正な(フェアな)貿易”だ。途上国の人々の自立と生活環境の改善をめざした“対話と透明性、互いの敬意に基づいた貿易のパートナーシップ”、それがフェアトレードと呼ばれる。

著者のサフィア・ミニーは、ロンドン生まれのイギリス人、出版社でのキャリアはあったものの、“政治家でもなければ、科学者でもない”、イギリス人の男性との結婚を期に夫の仕事の関係で初めて1990年に25歳で日本にやってきた。全く日本語も話せなかった彼女が、バブル全盛期の日本で「フェアトレード」ビジネスを立ち上げ、おしゃれなファッションブランド「ピープル・ツリー(People’s Tree)」として世界で注目を集める現在までが綴られている。

きっかけは夫を含む3人で開催したナミビア雑貨展示会。ナミビアの支援活動を行う夫の兄の結婚式に出席した彼女は失業者があふれる現状を前に「何か自分ができることをやってみよう」と現地の人が作ったクッションカバーなど雑貨を注文し、日本で小さな催しを開催する。その時につけたグループ名がグローバルヴィレッジ(世界村)、たった3人からのスタートだった。


おしゃれじゃなくちゃ、買ってもらえない

グローバルヴィレッジとして、さまざまな途上国からフェアトレード商品を輸入して販売するようになり、彼女は“日本人にあった商品を自分でデザインして販売”したいと考える。10代の頃からイギリスでフェアトレード商品になじんでいた彼女だが、当時の服はエスニック色が強くてダブダブのサイズ、何か身につける気にならなかった。“おしゃれじゃなくちゃ、買ってもらえない。誰もが着たくなるようなかっこいい服を、自分で作ってみたい”と早速に行動を開始する。

無農薬のオーガニック・コットン、発がん性の疑いがあるアゾ系染料を使わない“アゾ・フリー染料”など原料を入手するだけでも四苦八苦。バングラデッシュの生産者と出会い、サンプルを作り始めてからも、デザインを実現するための糸や織り方の工夫、いかにムダをなくした生産工程とするかなど作業現場の女性たちと直接に話し合い、6週間をかけて1枚のシャツができあがる。1998年からは店舗とブランド名を「ピープル・ツリー」、生産者と消費者を表すピープル(人)、自然環境を意味するトリー(木)に、2001年にはフェアトレード先進国のイギリスに「ピープル・ツリー」を逆輸入して設立、ファッションにフェアトレードを持ち込んだ新しい試みとして一気に世界にその存在を知られるようになる。

実は個人的に最初に「ピープル・ツリー」を知ったのは、オーガニック・コットンのシャツを探してネットサーフィンを行っている時だった。エスニック風にしてはおしゃれなブランドだなと見てみると、毎シーズンごとに国内外で有名なデザイナーとジョイントしながらオリジナルデザインの洋服や雑貨を販売している。実際に購入してみると、モノも良い。どうやら店舗も自由が丘や表参道にある日本のブランドのようだが、代表者は海外の人のようだ。フェアトレードという言葉も後から知った。

市民活動のコツは“敷居の低さ”、誰もが楽しみながら参加できれば、関心が集まりやすく、問題も解決しやすいと彼女は言う。今や「ダボス会議」で同席したアンジェリーナ・ジョリーからフェアトレードについて質問される彼女だが、自分が「世界で最も傑出した社会起業家」にノミネートされるまで“社会起業家”という呼び方さえ知らなかった。彼女はかつて10代でイギリスの出版会社に就職し、全く期待されずにまかされた雑誌プロジェクトでアフリカ系、インド系、ジャマイカ系などさまざまな文化と人種が入り混じるチームを創りあげて雑誌の大ヒットにこぎつける。そんな風に身近なできごとで人とのつながりを大切に出来ることをやっていきさえすれば、誰でも“社会起業家”になれると、この本は伝える。
“社会起業家”たちによる成果は「人の考え方ややり方に“変化”が生まれること」だと彼女はいう。大好きなガンジーの言葉“Be the change you want to see” ――世界に変化を求めるならば自分がその変化になりなさい――そのことを、軽やかに実践している彼女の様子から、自分にも何かできるかもしれないと思わせる、読みやすくて元気になる本だ。