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ご存知のように、近年、CSR(企業の社会的責任)報告書は企業にとって非常に重要な情報開示ツールである。制度開示である有価証券報告書や決算短信等---定量的な情報を中心に開示項目が法で定められている---に対して、かつてはアニュアルレポート(AR:投資家向けIRツール)が企業の自由裁量による自主的な情報開示ツールの代表であった。ARに遅れて、環境問題における企業の社会的責任への意識の高まりとともに生まれた環境報告書は、サステナビリテイレポート、CSR報告書へと発展し、海外企業等ではARの中にサステナビリテイレポートをはさみこむなどの事例も見られたが、国内では急速にCSR報告書が独立したツールとして定着しつつある。
一方で、CSR=企業の社会的責任とは“環境、経済、社会”に影響を与える企業の活動全てとの概念が浸透するにつれ、CSR報告書で扱うべきテーマは環境、品質管理、労働問題など“無限”とも言える広がりを見せ、ボリュームは拡大した。GRIやISOなど準拠すべきガイドラインも多々ある。その結果、GRIガイドラインでは「重要性(マテリアリティ)」、読み手を意識した情報の“選択と集中”がCSR報告書のこれからのテーマとされ、折しも昨年からの経済不況下、経費の圧縮も企業の重要テーマだ。“何をどこまで開示すれば良いのか?”企業のCSR報告書担当者が改めて頭を整理する必要に迫られている。
特に「第1部 CSRの基本とCSR経営」では、なぜCSRが議論されてきたのか、欧州・米国・日本におけるそれぞれのCSRの捉え方の違いなど、これまでCSRという言葉を知らなかった一般の読者にも分かり易く、また個人を取り巻く今の社会のありようを知る意味でも興味深いのではないかと考える。一方で企業の担当者には「第II部 CSR報告書の読み方」における他社事例を交えたCSR報告書のトレンド、CSR報告書の評価視点、「第III部 CSR報告書の作り方」でのCSR記載項目をどのように決定するかなど、実践に役立つ記述となっている。さらに「第IV部 CSR報告書の諸規格」ではGRIガイドライン、環境報告ガイドライン、ISO26000、AccountAbility1000、その他日本の監督官庁等の主要なガイドラインについての概要がまとめられ、これらのガイドラインは英語版が主体で必ずしも日本語版が簡易にまとめられていないものも多く、今現在のグローバルなガイドラインの全体像を短時間に把握するのにも便利だ。本書は300頁を超える、終始、平易な語り口調で、今のCSRをまるごと知りたい人にお勧めの1冊である。