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シネマ&ブックレビュー
話題の映画や本を紹介します

『ビューティフル・アイランズ』
2010年公開予定/日本/監督・プロデューサー・編集 海南友子(かな・ともこ)


22回目を迎えた東京国際女性映画祭。10月半ばに東京都写真美術館ホールを主会場に10本の映画が上映された。10月18日(日)18時から上映された『ビューティフル・アイランズ』は、当日券を求めて並んだ50名ほどが入場できなかったほどの盛況ぶり。正式公開より一足早く、当日の模様をお伝えしたい。


気候変動に翻弄される3つの島

この映画の舞台は、南太平洋のツバル、イタリアのベニス、アラスカのシシマレフという3つの島。ベニスを除く2つの島は、われわれ日本人にはなじみの薄い島といえよう。だが、気候も文化も異なる3つの島に、気候変動の“波”は情け容赦なく押し寄せる。映画は、それぞれの島に住む人々の姿を美しい映像で切り取りつつ、人々の暮らしを浸食する自然の猛威を伝える。ナレーションもテーマ音楽もない新鮮な2時間となった。

ツバル

映画は、海中に沈む1本の椰子の木をクローズアップするところから始まる。この島は気候変動による高潮の被害により、世界で最初に海中に沈む島として知られる。椰子の木は島の未来を暗示しているのだ。高潮と満潮時が同時に押し寄せる季節には、珊瑚礁の死骸が堆積した島のあちこちから海水が噴出する。だが、この国の人たちは、自分たちの住む島が水没するということをいまも信じていない。キリスト教に改宗した彼らの多くは、いつか神様が「ノアの箱舟で助けに来てくれる」と信じるのである。島で一番広い場所である飛行場。飛行機の飛ばない日は、老若男女そろっての遊び場となる。集うことなしに、ツバルの社会は成り立たない。いまも強固なコミュニティーが存在する島なのである。

ベニス

観光立国・イタリアの中でもベニスは、超一級の観光名所である。波間にただようゴンドラの舳先。ゴンドラ漕ぎを誇りにする父と子。だが、ゴンドラが進む水路は、高潮の誘導路でもあるのだ。1000年以上の歴史を誇るこの町で、1822年から営業する老舗ホテルのダニエリ。ワグナーやバルザックが泊まり、オナシスとマリア・カラスの恋もここで始まったと語る支配人。観光客などを集めて開かれる仮面舞踏会。押し寄せる満潮時の高潮。みる間にサン・マルコ広場が海水であふれる。重厚さを誇るダニエリのロビーにも水が押し寄せ、特設の通路が設けられる。高潮など気にも止めていないといわんばかりの人々だが、このバランスはいつまで保ちうるのだろうか。

シシマレフ

ベーリング海峡に近いアラスカ最西端のシシマレフ島。秋の10月・11月には結氷してきたこの海域も気候変動によりいまではシャーベット状の海が広がる。押し寄せる高波。浸食される海岸線。島の1m下の凍土層もいつか融けて陥没するのが憂慮される。エスキモーの末裔だろうか。われわれ日本人によく似た顔の住民である。結氷された海に住むアザラシなどの狩猟で生計を立ててきた島の住民たちは、2002年の住民投票で本土への移住を決めた。だが、いまだに移住先は決まっていない。大統領選の夜、オバマの演説に耳を傾ける島民たち。政治の決断が、この島の住民を救えるのだろうか。

3年がかりで撮影された映像は、人々の絆をはぐくむ祭りや先祖から受け継がれてきた生活の知恵などをあますことなく伝える。当日の会場で、この映画の監督である海南友子さんは、「気候風土も文化も異なる3つの島を描くことで、気候変動を世界の人々の共通の課題として認識してもらいたかった」と語る。初の上映となった韓国・釜山国際映画祭ではアジア映画基金AND賞の受賞が決まった。


フルボウ・ミツヨシ 本誌チーフ・エディター