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シネマ&ブックレビュー
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『2°C POINT OF NO RETURN 残された時間』
著者/山本 良一 ダイヤモンド社 1,800円


コペンハーゲンにおけるCOP15(国連気候変動枠組条約締約国会議)を受けて主要排出国のCO2削減目標が提示され、交渉が再始動する。だが、1月末までに国連に提示された各国の目標値を合算しても進行中の気候変動に待ったをかける力強さはない。
著者の山本良一氏は東京大学生産技術研究所教授で、「地球表面の気温上昇が現状よりも2℃上昇するか、しないかで人類の未来が決まる」と警鐘を鳴らす。タイトルにもあるように、われわれはPOINT OF NO RETURN――引き返すことのできない、ぎりぎりのところ――にいるという認識なのだ。この危機意識を世界の65億人がどこまで共有できるのか、残された時間はそれほど多くない。 山本教授には、本誌の企画「COP15をいかに見るべきか」で熱いコメントを寄せてもらった。環境問題に関心がある方はもちろん、企業のトップや行政のトップたちにもぜひ読んでいただきたい1冊である。


危機は共有できるか

本書は、3つの章からなる。第1章は「2℃突破とポイント・オブ・ノーリターン」、第2章は「暴走する温暖化と“気候戦争”の危機」、そして第3章は「グリーン・ニューディールと低炭素革命」である。

著者は第1章で、2℃突破がもつ意味と、ポイント・オブ・ノーリターンが多くの研究から約20年前後と推定されると述べる。2℃ターゲットについては、2009年7月にイタリアのラクイラで開催された主要国首脳会議(G8)で「産業化以前の水準から世界全体の平均気温が2℃を超えないようにするべきだとする広範な科学的知見を認識する」と確認されている。その際、「2008年洞爺湖サミットで合意した、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減する目標を、すべての国と共有する」とも合意された。

だが、目標の共有は進むどころか国益という壁を前に立ち往生しているのが実態である。著者は、「排出されたCO2は簡単に消えない」と語る。それどころかいまも「CO2は毎月20億トン、1秒間に800トン増加中」で、この大気中に蓄積されるCO2の濃度こそが気温上昇と密接な関わりがあると述べる。

大気中のCO2濃度については、どれくらいまでなら許容できるのか、研究機関の間でも合意は得られていない。450ppmで安定化すればなんとかなるという意見もあれば、350ppm以内でないと危ないという見解もある。こうしたCO2濃度におけるせめぎあいは、先のCOP15でも大きな争点となった。
海面上昇で最初に被害を受けるとされるツバルやグレナダなどの島嶼国連合(AOSIS)では、2℃ターゲットよりもさらに厳しい1.5℃ターゲットを主張している。現在のCO2濃度はすでに390ppmであることを考えれば、一刻の猶予もないことがわかろう。


環境破壊が紛争の引き金に

第2章では、気候変動によってもたらされるであろう、地球の危機を予測している。温暖化による気候の変化は、干ばつ、降雨量の減少による水不足、降雨量の増大による洪水、暴風雨の発生などにより食糧不足、飢餓をもたらし、国境を越える移民の大量発生と武力紛争の火種をもたらす。国連食糧農業機関(FAO)は2009年中の世界の飢餓人口を10億2000万人と予測しているが、気候変動によってこの人口は増えこそすれ、減ることはないとされる。 ちなみに第2章は、「人々は飢える前に襲撃してきた」というショッキングなタイトルで始まる。気候変動が原因となってもたらされる“気候戦争”は、食糧の争奪にとどまらない。水や土地/耕地を争う戦争はすでに世界各地で見られるが、ますます環境紛争の色を帯びるというのである。本書では地域ごとに環境破壊がもたらすリスクや紛争の懸念についても述べている。資源、エネルギー、食糧の大半を輸入に依存するわが国の“気候安全保障”のあり方についても検討を急ぐべきであろう。


〈緑の成長〉は可能か

第3章は、「エコイノベション」の可能性について世界の最新動向を印している。〈緑の成長〉を目指すグリーン・ニューディールの動きも米国、韓国、EU、中国、日本の別に取り上げているほか、環境経営を標榜する主要企業トップの発言なども列記している。
そんな中で面白いのは、排出量削減の国際交渉が間に合わないか、ぎりぎりのところに来ているという前提で考えられているある技術である。一言でいえば、“地球を積極的に冷やす”ジオエンジニアリング(地球工学または気候工学と訳される)である。2009年9月、英国王立協会は「気候のジオエンジニアリング」という82ページの報告書を発表。①大気中からCO2を除去する技術 ②太陽から来る光や熱の一部を宇宙に反射する太陽光マネジメント技術の2つを提唱した。この技術の実現性はさておき、ここまで事態は深刻だという警鐘ととらえることはできよう。
本書の最後は、日本版グリーン・ニューディールへの政策提言である。「いますぐできること」「お金をかければできること」など提言そのもののレベルは分かれるが、「やる気があればできる」というテーマもかなりあるように思う。〈緑の成長〉をテコにもう一度この国の形を考えるのはどうだろう。