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〈ツバル特別寄稿 第2弾 COP15に参加して〉
自然は交渉に応じない
ツバルと私たちの未来は大国同士の国益の陰で 沈んでいくしかないのだろうか?
特定非営利活動法人 Tuvalu Overview 代表:遠藤 秀一


その会議は、9つの小さな島に住む人口1万の島国・ツバルの住民にとって、実にむなしいものとなった。「海面上昇の被害を食い止める」決議はおろか、悲痛な叫びさえも無視され、結論が先送りされたからだ。環境先進国デンマークの歴史豊かな美しい町・コペンハーゲンで開催されたCOP15(国連気候変動枠組条約締約国会議)。ツバル国代表団の一員として参加した遠藤秀一氏の報告を聞こう。

なぜ、ツバル政府代表団に日本人がいたのか

2009年12月7日、私はツバル代表団の一員としてデンマークの首都コペンハーゲンのCOP15の会場にいた。人口1万人のツバルは常に資金不足、そして人手不足のため、今回のツバル政府代表団総勢18名の中には、オーストラリア人1名、ポーランド人1名、フランス人2名、日本人2名が加わっていた。

私が主催する日本の特定非営利活動法人Tuvalu Overviewとツバル国との関係は足掛け11年に及ぶ。2006年にインドネシア・バリ島で開催されたCOP13にはNGOの立場で参加したが、そのときの活動も評価されて、今回は代表団の一員として会議場に入ることとなった。
ツバル政府のツバル人代表団は首相を含めて10名。その10名をサポートするため、私はフランスのNPO法人(アロファ・ツバル)のメンバーなどと手分けをして、主に会場内に開設したツバル政府の展示ブースで、ツバルの現状を来場者に訴えるプレゼンテーターや広報役を務めた。

COP15会場内のツバル政府展示ブース前で肩を組むツバル国首相アピサイ・イエレミア氏(右)と遠藤秀一氏


来場者の中にはツバル政府のブースになぜ東洋人がいるのか怪訝な顔をする者もいたが、人口わずか1万人のツバルには、ツバル人の未来を決める重要な国際会議であっても、大勢の人間を送り込むだけの経済的かつ人的な力がなく、ツバル政府代表団の交通費や宿泊費も海外の支援団体からの援助によってまかなわれていた。当然ながら、私たちの渡航資金も自前であった。


ツバルで暮らす1万人の声

ツバル代表団は、この会議に2つの重要な提案を抱えて臨んだ。実は、その提案はコペンハーゲンで初めて提示されたわけではない。6ヵ月前にドイツのボンで開催された準備会合から公式に提案されていたものであった。その2つとは、


今回のCOP15の最大の目標は2012年に約束期間をむかえる京都議定書に続くルールを決めることにあった。新しいルールを作るに際して、ツバル政府が重要視したのは、先進国だけではなく、京都議定書で温室効果ガス排出削減の義務が課せられていない一部の発展途上国(中国やインドなど)にも削減義務を負担してもらうことにあった。しかし、ツバルをはじめとする小島嶼国連合(AOSIS)やアフリカに点在する貧困国は、中国やインドと駆け引きするだけの材料を持たないため、国力によらずに決定と実行が担保される道を模索したのだった。

会議開始3日目、ツバル政府は、中国、インド、サウジアラビアなどの発展途上国というには十分に工業化された国々も、排出削減義務を追うべきだとして、すでに提案してきた先の2点、特に法的な拘束力について検討する分科会の開催を提案した。ツバル政府のこのアクションは「Tuvalu Protocol」と呼ばれ、真の意味での削減を求めるNGOからは喝采を浴びて受け入れられたが、一部の先進国と発展途上国は条約や議定書に法的な拘束力を設けることを嫌がり、分科会の開催自体を拒んだのであった。

ニュースでは先進国対途上国という単純な図式ではなく、途上国間にも異なる意見があることを浮き彫りにした、と伝えられたが、実際は排出削減義務を負わなければならない大量排出国が、排出義務を法的に拘束されることを嫌っているという事実が浮き彫りにされたということだろう。つまり、本気で削減しようとは考えていないということである。すでに温室効果ガスを大量に排出している国々にとって、気候変動問題を語るこの会議は、国益を守るための取引の場所でしかなかったのだ。

ツバルの首相アピサイ・イエレミアは、16日に行った演説で、「これらの提案は京都議定書を差し替える内容ではなく、同議定書を強化する内容です。京都で行ったように、われわれはコペンハーゲン議定書に署名をするためにやってきました」と語った。

また、「見せかけの合意ではなく、法的拘束力のある協定に名前を残す用意があります。われわれの目の前にすぐに使える資金が準備されていることは知っていますが、短期間の資金で長期間の未来を買うことができません」とも述べた。ツバルは資金援助の取引に来たわけではないという明確なメッセージの発信であった。