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フランスでの子育て体験を出版した横田増生さんに聞く。

Q:『フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由』が発刊されて2カ月ほどが経過しました。どのような反響が寄せられていますか。
横田 複数の新聞や週刊誌が書評欄で取り上げてくれました。北海道新聞では森永卓郎氏が「フランスの子育て支援の大部分は共稼ぎを支援するのではなく、子育 てそのものを支援している」と語ってくれました。週刊ポストでは重松清氏が「フランスでできることがなぜ日本でできないのか。子育てすら当事者任せの社会 では息苦しさが増すばかり…」と述べています。週刊東洋経済では、田中秀臣氏が「フランスでは子育ては人生の愉しみなのに、なぜ日本では人生の苦労になる のか。政府の制度設計の仕組みの違いが原因だろう」と書いています。いずれも好意的なのはうれしいのですが、肝心の子育て世代からの反響はあまり届いてい ません。それほど余裕がないということでしょうか。

Q:冒頭に、子育てや少子化の問題をフランスの方に取材すると、なぜそんなテーマを選んだのか不思議がられるという話がでていました。そもそもフランス人は子育てをどのようにとらえているのでしょうか。
横田 日本は2005年に人口減少を始めた最初の先進国となりました。このまま出生率が回復しなければ100年 後には人口は半減するという政府の予測もあります。私自身は、自分が子育てに関わっていたこともあり、子どもが育てにくいというのは、日本社会に構造的な 欠陥があるためではないかと思うようになっていました。そうした素朴な感情をフランスで暮らし、フランスで子育てをする友人や識者たちに尋ねて見ました。 私の問題意識を聞いた彼らの反応は、「いったい日本の政府はなにをしているんだい」というものでした。

日本でも90年代に入って、児童手当の引き上げや保育園の待機児童の解消への取り組み、育児休暇制度取得の促進が進められてきましたが、それによって子育てが楽になったという実感をほとんどの子育て世代は持っていません。

ところが、フランスでは航空会社のフライトアテンダントが仕事と子育てを両立したり、シングルマザーが4人の子どもを育てているのです。「子育てを愉しむ」とか「子どもを産んでもそれまでと変わらない生き方ができる」ことが大前提になっているのです。

Q:フランスでの出生率は日本とは対照的に90年代から上昇傾向にあります。なにが上昇カーブを描かせるきっかけになったのでしょうか。
横田 フランスはドイツと歴史的にライバル関係にあって、ドイツに人口で劣ることへの恐怖感が昔からこの国を支配していたようです。第二次世界大戦前の1930年代にも人口を増やそうという声があがっていました。ただ、そうした決意は決して悲壮なものではなくて、「家族をつくることは幸せになれること」というある種楽観的な人生観が背景にありました。

フランスの人口が上向くきっかけをつくったのは、1981年に登場したミッテラン政権の功績に追うところが大きいようですね。ご存知のように社会党の大統領ですが、彼によって生活保護費や年金の充実、週39時間労働制が採り入れられました。フランスには1960年代後半から女性の権利を擁護するフェミニズム運動がさかんになりましたが、それとともに女性の仕事や出産、育児に関する法整備が整い、70年代に「親権の平等化」「嫡子・非嫡子の平等化」「男女平等賃金」「人工中絶の合法化」「雇用の 性差別禁止」「育児休業法」などが整備され、ミッテランの就任でその流れがさらに加速し、定着していったようです。

有名な「N分N乗方式」は、世帯の収入を家族の人数で割って税額を算出するものですが、それまで第三子以降の家族の除数を0.5としていたのを1に引き上げました。子どもの数に比例して支援が厚くなるようにしたものです。ミッテラン政権の時代には、養育手当てや乳幼児手当ての設立と拡充も進みました。

フランスの出生率は80年代で下降カーブに歯止めがかかり、90年代に入ると上昇に転じました。いまでは1人の女性が平均2人を産むようになっています。