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Q:実際にお子様を育てられて、フランスでよかったと実感された場面をご紹介いただけますか。
横田 私は妻が仕事を持っていましたので、平日の子育ての担当となりました。フランスに渡った当初は保育所に入ることができず、ずいぶん追い詰められた気分 になりました。しかし役所に書類を提出すると、まだ所得税などを払っていない段階だったにもかかわらず、フランス語でクレッシュという乳幼児保育所に預け ることができました。実際に生活して分かったのですが、フランスではほとんどの人が家庭でベビーシッターを雇うため、乳幼児保育所の数は逆に少ないので す。3歳児から入る保育所兼学校のようなエコール・マターネルという施設は、充実していて100%入れました。育児休暇を採って子育てを愉しみ、育児休暇後には子どもを預けて、仕事にでるということでしょうね。

子育てで夫婦のどちらかが犠牲になったり、家計が追い詰められるということもほとんどありません。また、仕事に対するとらえ方も日本のようにサービス残業がまかりとおることもなく、多くの人が定時で家路に帰り、家族で夕食をとるのが当たり前になっています。

Q:日本に戻ってこられて、いまもっとも困っていること、これは解決すべきであると考えたことがありましたら教えてください。

横田私の子どもも小学生になり、子育てのプレッシャーからは解放されつつあります。ただ、小学生もかなり早く授業は終わるので、学童保育がなかったらたいへん でしょうね。私の子どもはさいわい学童に入れましたが、待機する児童もかなりいるようです。先日、民主党の政策研究グループから、話を聞きたいというので出かけてきました。子育ての仕組みを変えるには、税制の問題にメスを入れないといけないという持論を話してきました。北欧では税負担もある代わりに、生活 のセーフティーネットがしっかりしています。社会保障に関していえば、フランスは“北欧モデル”を追いかけているという状態にあります。日本は税金の負担と使い道に国民も関心を寄せ、子育てをしっかりケアできる社会システムをつくるべきでしょう。


子育てを社会全体で支えようという「連帯の意識」の高まりとともに、社会が応分の負担をすることは避けて通れません。国民の負担率が小さいということは、社会保障も少なくならざるを得ないはずですから。


横田増生:
1965年福岡生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て米アイオワ大学大学院に留学。
卒業後、業界紙で編集長を務めた後、フリーランスのライターに。著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(情報センター出版局)などがある。