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Home > 識者に聞く > 環境省 総合環境政策局 中島 恵理

Q:環境省は、ソーシャルビジネスの実現に向けて地球環境パートナーシッププラザの運営を通じ、企業と非営利団体(NPO)との連携支援や、環境NPOのソーシャルビジネス化支援を行っています。企業とNPOとの連携は双方にどのようなメリット、必要性があるのでしょうか?
中島 私個人の意見として、持続可能な社会を築くためには、営利目的のセクターだけではなく公益を追求するセクターが増えていく必要があると考えています。新たなセクターを担うにはNPO自身も助成金だけに頼るのではなく自立する必要性がある、企業との連携によって経済的な活動を行う必要性が出てきていると思います。
一方、企業の事業活動は営利目的ですが、その中にもソーシャルな(社会的)側面を取り入れることが時代の要請です。企業が独自にソーシャルビジネスに取り組むこともできますが、NPOと協力して経験を共有することでソーシャルビジネス化しやすくなるのではないでしょうか。
既に環境省が運営する地球環境パートナーシッププラザへ、企業からNPOと組んで何か新しいことをやっていきたいという問い合わせも増えており、企業とNPOの連携という社会の流れは着実に進んでいると感じます。

Q:地元密着型企業など中小企業の方が地域と連携したソーシャルビジネスを実現しやすいようにも思いますが?
中島 可能性としては高いのですが、現実には地域企業の多くが大企業のグループ企業であったり、一方で地元密着型の中小企業の多くは残念ながら経済的な余裕が少ない。今のところソーシャルビジネスが企業自身にメリットがあることを認識する企業が少なく、大企業など体力に余裕がある企業がソーシャルビジネスにかかわるケースが多いというのが現状だと思います。
企業とNPOのかかわり方としては、NPOに資金援助することが第1ステップですが、これはあくまでも企業の社会貢献活動の範疇にとどまってしまいます。企業が本業でどのようにNPOと連携するかがソーシャルビジネスのポイントです。一例として、岩手県のある自動車学校は少子化の影響で運転免許取得者が減少傾向にありましたが、地元NPOとの協力により、運転免許取得合宿にグリーンツーリズム――農業体験や農家との交流等――を取り入れることによって自然に興味を持つ都会からの受講者数を伸ばし、一方では地元の無農薬栽培農業などに貢献しています。地域に貢献することで、低迷していた本業に付加価値をもたらし再生させた理想的なケースだと思います。

Q:中島さんは個人的にもサステイナブルコミュニテイ(持続可能な社会)の実現に関心が高く、海外各地への足を運ぶ機会も多いと伺っています。欧州ではソーシャルビジネスが盛んと聞きますが、日本型のソーシャルビジネスとはどのようなものでしょうか?
中島 日本独自のソーシャルビジネスの方向性を模索する鍵として、滋賀県の菜の花プロジェクトネットワークの活動があります。琵琶湖の水質悪化から消費者を中心とする「合成洗剤に代えて石けんを使う運動」が始まり、「家庭から出る廃食油を回収し、石けんへリサイクルする運動」へ、さらに「菜の花を植えて、ナタネ油をせっけんや軽油代替燃料(BDF)に利用する資源循環リサイクル活動」へと発展したものです。
海外でも資源循環のために菜の花を栽培する例はありますが、菜の花プロジェクトのように市民運動ではなく、あくまでもビジネスです。長い歴史の中で日本の市民運動から発展したさまざまな草の根的な活動の中に、海外にはない、日本独自のソーシャルビジネスの可能性があるように思います。
また意外に思われる方もいますが、日本には四季があり気候に恵まれ、欧州と比較して資源が豊かです。農業国といわれる欧州では大規模農業がほとんどで、例えばイギリスの山は開発されつくされ牧草地となり里山がほとんど残っていません。農村コミュニテイといった古い文化も失われています。日本のほうが地域独自の特性と豊かな資源を活かしたビジネスチャンスがあるように思います。欧州ほどにNPOセクターが根付いていないと言われますが、日本のソーシャルビジネスの主体は農村に住む個人の方々でも良いし、日本独自のソーシャルビジネスの可能性はさまざまに考えられるのではないでしょうか。

Q:国内では自然エネルギーを地域で活用する仕組みでもユニークなものがあるようですね。
中島 滋賀県では地域通貨の導入と組み合わせて太陽光の市民共同発電所を作る仕組みがありますし、青森の市民風力発電所の市民ファンドは出資者へのリターンの一部を出資者の希望により地元の環境団体向けの環境基金に組み入れて、出資者――多くは都心の方々――には対してはりんごなど青森の農産物を販売するなど、結果的に地域農業の支援にもつながっています。海外ではソーシャルビジネスにおける一つの成功モデルが全体に広がる傾向がありますが、日本では地域ごとに個性があり、他地域の事例を複合的に組み合わせて成功するケースが多いように感じます。その点も日本独自の広がり方ですね。

(2009年8月取材)

中島 恵理(なかじま えり)氏
環境省 総合環境政策局 環境経済課 環境教育推進室 室長補佐
京都大学法学部卒。1995年4月環境庁入庁、1999年7月より2001年7月まで英国に留学。2000年ケンブリッジ大学土地経済学科修士過程取得、2001年オックスフォード大学環境変化管理学科修士過程取得。英国やEUの環境法、環境政策、環境経済を学ぶ。
2001年8月より環境省地球環境局総務課で、地球温暖化対策、貿易と環境、ヨハネスブルグサミットに関わり、2003年7月より経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課に出向し新エネルギー推進政策に関わる。