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Home > 識者に聞く > 国際連帯税を推進する市民の会(アシスト)共同代表・ 非政府組織オルタモンド事務局長 田中徹二 

途上国の人々を貧困や飢餓から守る
「国際連帯税」を進めよう
国際連帯税の広がりを訴えるパンフから


国際連帯税が動こうとしている。途上国の人々を貧困や飢餓から守る活動資金に充てられるもので、これまで課税対象から外れてきた通貨取引など国境を越えた取引に課せられる。抵抗勢力とされた欧米の金融機関もリーマンショックで自らが政府の資金援助を受け、いまは抵抗も弱まっている。今年は大きな進展が見られるかもしれない。

Q: 国際連帯税が話題になっています。それが必要とされる社会的な背景からお聞かせください。
現在、地球に住む4人に1人が1日1.25ドル未満(年間4万5千円)で生活しており、絶対的貧困に陥っています。また、地球上の6人に1人が栄養失調で生死の境をさまよっています。そのような状況を解消するため、2001年に、「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」が設定されました。MDGsとは、世界の貧困との闘いを8つに絞り、2015年を期限として立てた目標です。その目標の1番目が「極度の貧困と飢餓を解消する」というもの。「2015年までに絶対的貧困を半減する、同年までに飢餓に苦しむ人々を半減する」とうたっています。

今年2010年は、MDGsの基礎となった「ミレニアム宣言」が国連ミレニアム総会(2000年)で189カ国の首脳の合意によって採択されてから10年が経ちます。それで9月には、各国首脳が参加して目標の達成状況を確認する「MDGsレビュー・サミット」が開催されます。目標期限の2015年まであと5年。しかし、目標達成はきわめて困難と言われています。その大きな原因は圧倒的な資金不足にあります。これまで貧困解消のための支援は、ODA(政府開発援助)に頼っていましたが、リーマンショック以降の金融・経済危機のため、ただでさえ足りないODAもまったく増加していません。そこで今日世界的に注目されているのが国際連帯税です。

国際連帯税とは、国境を越える特定の経済活動に課税して、貧困や感染症、環境などグローバルな課題に取り組むための資金を調達する税スキームです。どのような国際税が考えられるかといいますと、(1)航空券税、(2)通貨取引(外国為替取引)税、(3)航空・海上輸送税(含む炭素税)、(4)多国籍企業税、(5)武器取引税などです。このうち、すでに航空券税が10数カ国で実施され、税収はHIV/エイズなどの感染症の治療薬購入に使われています。 そして現在世界で最も熱く議論されているのが、通貨取引税です。最初に提唱した人(ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・トービン教授)の名前をつけてトービン税とも呼ばれています。


田中徹二 氏

Q: いつごろからどのようにして登場してきたものですか。
通貨取引税はすでに1970年代から提唱されていました。国際連帯税として提案されたのは2005年1月のことで、フランスのシラク大統領(当時)が最初です。ご承知のように2005年という年は、ミレニアム総会から5年目ということで、世界の貧困問題が大きくクローズアップされた年ですね。ホワイトバンド運動が行われたのもこの年です。

フランスは、貧困対策のための新しい資金調達方法を、大統領直轄のNGO(非政府組織)を含む委員会で検討し、国際連帯税として提案しました。イギリスも、将来のODA資金を担保にして債券市場からの資金調達方法を提案しました(昨年は日本国内でワクチン債を発行しました)。

その後フランスは、数ある国際連帯税のメニューのうち航空券税を選択し、2006年7月から実施することになりますが、その年の2月28日・3月1日の両日、国際連帯税の旗揚げ式とも言える「革新的資金メカニズムに関するパリ国際会議」を開催しました。これには93の政府と国連を含む18の国際機関、そして世界から60のNGOを招待しました。当時、日本政府は国際連帯税に後ろ向きでしたのでオブザーバー参加し、NGOはオルタモンドが参加しました。日本で国際連帯税の研究や啓蒙活動を行っていたのがオルタモンドだけだったので、私どもが招待を受けたのです。この前後にわが国の外務省や財務省にロビー活動を行いましたが、その当時は全く相手にされませんでしたね。

Q: わが国で注目をされ始めたのはいつごろですか。
注目されはじめたのは、2008年2月に超党派の国際連帯税創設を求める議員連盟ができてからです。一方、この年の3月から福田首相(当時)直轄の「地球温暖化問題に関する懇談会」がはじまるのですが、その委員の1人であった寺島実郎氏(日本総合研究所会長、多摩大学学長)が『投機マネーに国際的な課税を行い、税収を気候変動や貧困問題に充てる「地球環境税」構想』を提案していたのを知りました。2008年11月に、その寺島さんに基調報告をお願いしてシンポジウムを行いましたが、150人以上もの参加があり、盛り上がりました。この盛り上がりをバックに、翌年4月には市民や研究者、NGO・NPOが参加して、「国際連帯税を推進する市民の会(アシスト/ACIST=Association of Citizens for International Solidarity Taxesの略)」が設立されたのです。

いっそう注目すべきは、2009年8月には政権交代が起こり、国際連帯税が日本政府の政治課題として急浮上していることです。同年12月に閣議決定された「平成22年度税制改正大綱」に「我が国でも、地球規模の問題解決のために国際連帯税の検討を早急に進めます」と明記されました。一日も早くこの問題を政治日程に上げてほしいと願っています。鳩山総理や岡田外務大臣も非常に意欲的です。

Q: 今年は国際連帯税の実現に向けた大きなヤマ場が訪れるかもしれませんね。
今年1月に南米のチリのサンチアゴで「革新的資金メカニズムに関するリーディング・グループ」の7回目の総会が開催され、日本からも政府代表のほかにNGO・研究者3名が参加しました。このリーディング・グループには日本も含め59カ国が加盟しており、ほかに国際機関やNGOも議論に参加しました。そこで私どもの仲間から日本の一番新しい取り組みを報告すると、大きな反響がありました。そして、総会では4月からの次期議長国に日本が推薦されました。

議長国として、日本は9月の国連総会――貧困問題でのサミット――に合わせて、国際連帯税を世界にアピールするためのリーディング・グループのイベントを行うことになっています。また年末には第8回総会を日本で開催します。これらの国際会議で、日本は大きな発言力をもってリードするまたとない機会を得るはずです。

Q: 構想は分かりました。しかし、こうした資金はだれにどのような形で渡されるかによって、新たな紛争の火種になる恐れはないのでしょうか。
現在、「航空券(連帯)税」による資金はHIV/エイズなどの感染症の治療薬購入に使われていますが、その購入機関はUNITAID(ユニットエイド)という組織が行っています。興味深いことは、この組織の理事会では政府代表のほかに先進国側のNGOと途上国側のNGOが参加していることです。また、意思決定はコンセンサス方式を取っていますから、NGOが反対すれば運営ができないような仕組みになっています。

こうした資金の使途については、どこまでも高い透明性が求められています。途上国への支援では、本当に支援を必要としている人々に資金が渡っていないということで不信感が持たれていることも事実ですから、現場に近いNGOや草の根組織の参加も必要です。

国際連帯税の中の通貨取引税については、これまで金融機関や金融当局が反対をしてきました。ところが、リーマンショックで彼らの多くが国からばく大な資金を受けて救済されたことで、改めて投機マネー問題を含め金融機関自身の社会的な責任が問われています。彼らも「強欲資本主義」から脱して、社会的に評価される金融機関になるべきで、通貨取引税に反対すべきではありません。

その通貨取引税ですが、例えば通貨取引額に取引1回ごとに0.005%を課税するというものですが、この程度の課税なら市場を極端に歪めることもないでしょう。2007年の取引額をベースに試算すると、世界で年間約3兆円を超える金額になります。たいへん大きな援助資金になると思います。本格的な議論はこれからですが、皆さんにもぜひ議論の輪に参加していただければと思います。



国際連帯税を推進する市民の会共同代表・ 非政府組織オルタモンド事務局長 
田中徹二氏 略歴

1947年北海道生まれ。1968年北海道教育大学札幌分校中退。1976年江戸川区職員となり一昨年定年退職。1993年NGO「市民フォーラム2001」設立に参加、2004年9月「オルタモンド」設立に参加し事務局長となる。昨年4月「国際連帯税を推進する市民の会(アシスト)」共同代表となる。著書に、「もう一つの世界をともに」(功刀達朗・毛利勝彦編著『国際NGOが世界を変える』東信堂2006、所収)ほか。