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「識者に聞く」特別編 イベントレポート
日仏ホームレス対策最前線[1]
― 路上生活者に関するシンポジウムから ―

雇用の悪化からホームレスやネットカフェ難民に対する支援が急務となっています。90年代以降、ワーキングプアが増え、移民の流入などで同様の問題を抱えてきたフランス。そのフランスで先駆的な役割を果たしてきたのが路上生活者緊急支援システム「サミュ・ソシアル」です。ホームレスのSOSに応えてきたグザビエ・エマニュエル理事長を迎え、2009年10月20日に日仏の有識者によるシンポジウムが開催されました。2回にわたってレポートします。
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4名の参加パネリスト:左から岩田、エマニュエル、湯浅、芦田の各氏

 

司会 竹信三恵子
(朝日新聞編集委員・労働担当)
私は非正規雇用を専門に追いかけてきました。いま、非正規雇用は働き手の3人に1人の割合にまで広がっています。単に非正規雇用の問題にとどまらず、深刻な社会問題となっています。たとえば、失業した場合はどうかというと失業手当でカバーできるのはたったの3割です。生活保護はというと、ある研究者の調査ではこちらも必要な方の2割しかカバーされていません。日本の社会は、これまでは企業と家族がしっかり支えているので公的な安全網を張らなくても大丈夫といわれてきました。それが怪しくなっています。公的な安全網も手薄になっている状態の中で、私たちはどうしたらよいのか。きょうはフランスで路上生活者対策に取り組む「サミュ・ソシアル」のグザビエ・エマニュエルさんをゲストに迎えました。その前に、日本のホームレスの実態はどうかということで、日本女子大教授の岩田正美さんから報告を受けます。

就労支援の前に“住む家”を

岩田正美

(日本女子大学人間社会学部教授)

私は日本のホームレスを住居喪失という観点から調べています。日本では1999年の暮れから都市部でホームレスが急増しました。ただ、その後のホームレスの概数を全国調査しますと、その数はむしろ減っています。2008年と2009年の調査では全国で15,000名ほどです。日本の定義では、ホームレスというのは路上生活者、つまり野宿をしている人ということになるのですが、最近では路上以外にもホームレスがいるといわれ始めています。

1つはネットカフェ難民のように24時間営業のお店の中に隠れた人たち。厚生労働省の2007年の調査では、大体4,700人ほど。そのうち、2,200人が非正規就労者だといわれています。もう1つは、昨年末以降、派遣労働者が失業して会社の寮から追い立てられるという事態が現れました。隠れたホームレスとして注目を集めています。

ネットカフェ難民は隠れたホームレス

路上ホームレスは50代を中心とした中高年の男性がかなりの比率を占めています。これに対して、ネットカフェ難民は20代と50代の2つの山があります。これは男性の失業者の年齢カーブとほぼ重なっています。

この人たちの寝泊りの場所を聞くと、50代は路上と深夜営業のお店などを行ったり来たりしています。20代は路上が少ないのが特徴です。こうした人たちを調べると野宿を中心に企業の寮、住み込み、友人の家、病院、刑務所などが宿泊の場所として上がってきます。野宿というのは社会の中にありながら、社会から排除されており、野宿を経験することで、社会のメインストリームから外れていくという傾向が見られます。路上の問題は路上生活者だけの問題ではなくて、路上に至る人たちを生み出す社会全体の問題でもあるのです。

2007年と2003年の全国調査を比較しますと、ホームレスが全般的に高齢化しているのが分かります。平均で57.5歳。5年以上野宿している長期のホームレスも増えています。2003年から路上生活をしている長期の人は50%。かつて野宿の経験があり再流入したのが18%。新規の流入が32%という割合でした。長期層は50代半ばから65歳ぐらいまでが中心で全体に高齢化しています。新規の流入は40代が多いのが特徴です。再流入は2つの中間となっています。

不十分な制度活用

次は制度利用の実態です。制度には、「食料の炊き出し・衣類の提供」「巡回相談員の支援」「シェルター(緊急宿泊ベッド)とかの自立支援」制度がありますが、利用したことがないという層は、新規層と長期層に多いのです。長期層の34.5%は4年以上も路上生活をしているのに、なんの制度も利用していません。 実は、再流入の層は、意外に制度を利用しています。自立センターや病院とかを利用しているのです。しかし、そこから社会に戻るのではなく、2割以上が再び路上生活者に戻っているという実態があります。

次は病気の話をします。路上生活者で制度にも寄り付かない人たちは、何の問題もないわけではありません。病気という観点から見ると、病気のない人は23%。残りの人たちは病気の症状がある人、あるいは病院に行っていないから分からないという人を含めて7割を超えています。特に再流入の層は、83.7%の人がなんらかの症状を訴えています。治療をしているのかという質問になると、7割の人が何もしていないと答えています。2割程度が通院しているという結果です。

日本のホームレス対策は、中高年の男性を労働市場に就労支援するという所に主眼がおかれています。調査の中で就労支援に何を望んでいるかという質問をすると、職業訓練、仕事先の開拓、身元保証に集中すると思いきや、どのタイプもアパートが必要だといっています。これはホームレスという言葉の意味を実によく表しています。社会の中でその人の帰属をはっきりさせる住居がまず欲しいというわけです。