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「識者に聞く」特別編 イベントレポート
日仏ホームレス対策最前線[2]
― 路上生活者に関するシンポジウムから ―

雇用の悪化からホームレスやネットカフェ難民に対する支援が急務となっています。90年代以降、ワーキングプアが増え、移民の流入などで同様の問題を抱えてきたフランス。そのフランスで先駆的な役割を果たしてきたのが路上生活者緊急支援システム「サミュ・ソシアル」です。ホームレスのSOSに応えてきたグザビエ・エマニュエル理事長を迎え、2009年10月20日に日仏の有識者によるシンポジウムが開催されました。2回にわたってレポートします。
>>日仏ホームレス対策最前線[1]を読む

4名の参加パネリスト:左から岩田、エマニュエル、湯浅、芦田の各氏

自立支援システムですが、3つのステップがあります。第一ステップは、緊急一時保護センターに一時的に保護し、1カ月程度食事などを提供し、生活相談を行い、次の自立支援センターにつなげます。第2ステップは、自立支援センターで就労による自立を目指して2カ月程度入所し、生活相談や健康相談、公共職業安定所と連携した職業相談などの支援を行います。第3ステップは、地域生活サポートで自立支援センターなどの退所者を対象に、就労指導や日常生活などに関する指導を行い、社会復帰への支援を行うものです。

このほか、ホームレスが生活している場所を巡回し、面接相談なども行っています。高齢や病気の人には生活保護で対応するケースもあります。

自立支援センターで自立率51%

東京都内には10カ所の施設があります。すでに廃止された施設を加えるとこれまでに20カ所ほどの施設をつくってきました。現在も3カ所で新たな施設を建設中です。最近はプライバシーに配慮した施設づくりを目指しています。今年3月末までに22,724人がこの施設を利用してきました。最終的に就労自立をした人は、4,776人となっています。自立支援施設は現在年間3,000人が利用しています。自立支援センターに入ればハローワーク職員による職業紹介、住宅相談員によるアパート確保支援、生活相談員の指導などが集中的に受けられるため、自立率は51%になっています。

ただ、このような施設を地域につくろうとすると地域から反対運動が起きます。私は障害者の対策も行っていますが、障害者の施設でも同様の反対運動が起きています。エマニュエルさんにも聞きますと、フランスでも同様の反対があるそうです。やってもいいけどほかの所でやれというわけですね。

東京都の施策には「地域生活移行支援事業」というもう1つの柱があります。これはホームレスを地域の借上げアパートに直接入居させるものです。2004年からの3年間で1,945人が入居しました。入居期間は2年間で2010年3月末までの施策となっています。この事業の特徴は、事業の紹介からアパート移行後の生活指導、就労相談、住宅相談をホームレス支援で実績のあるNPOなどの民間団体に委託していることです。

Housing-First

一度、アパートに入った人が、再び排除されることのないよう、必ず月に1回か2回は家庭訪問をして社会とのつながりを保つようにしていくことが大切です。事業利用者の約90%は現在でもアパート生活を継続しています。「Housing-First」、つまり家の確保がいかに大切か分かります。まず屋根のある所に入って、そこから生活の建て直しをしようというわけです。

次は生活保護についてお話します。ホームレスの人もそうでない人も、生活保護の基本は変わりません。本人の生活の状況と本人の意思を尊重して、ホームレス対策を選ぶのか、生活保護を選ぶのかの選択を行っています。

「居住地がないか、明らかでない者」への生活保護は、東京都だけで2007年度に715億円行われています。実はこの費用の70%は医療費です。ホームレスの医療費は生活保護で対処しているといっても良い数字です。福祉事務所における最近の「生活保護」に関する相談状況ですが、1年前に比べると1.6倍に、保護申請件数は1.8倍になっています。

住居喪失離職者への対応

従来のホームレスという概念とは異なるネットカフェ難民のような住居喪失不安定就労者の数は全国で5,400人、東京で2,000人いるとされています。この層は若い人が多く、30代が33.1%、40代が28.4%となっています。1カ月の収入は平均15万円ほどありますが、半分近い人が債務を抱えていますので、なかなか安定した生活につながりません。

こうした人たちに対する支援のため2008年に新宿で「TOKYOチャレンジネット」を開設しました。相談登録者数が1,529人、うち企業採用者数が340件、住宅資金貸付決定が229件となっています。

住居喪失離職者に対しては、今後も配慮が必要です。東京都では、山谷地区などで民間団体と連携を進め宿泊所の運営なども行っています。「国境なき医師団」の方々がボランティアで診療なども行ってくれました。
「山友会」「コスモス」「ふるさとの会」といったグループの活動は、生活保護者などを食い物にする貧困ビジネスの対極にあると考えています。