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Home > 識者に聞く > 日仏ホームレス対策最前線[2]

司会 ここからはグザビエ・エマニュエルさんにサミュ・ソシアルの具体的な活動についてうかがいます。私たちが何をすればよいかのヒントが数多くあるはずです。

十分な訓練を受けたプロを先頭に

グザビエ・エマニュエル

(サミュ・ソシアル創設者・理事長)

ホームレスの問題は、すべての大都市に共通する問題です。私たちの生活様式、家族に対する概念、都市の発展のあり方を考えると、社会的な排除は存在し続けるでしょう。路上生活は苦痛を伴うだけでなく、心身とも破壊されるものです。多くの病気を抱えることになります。

この写真は私たちのパリの本部です。活動に際して戦略が練られる場所といってもよいでしょう。パトロールのクルマも写っています。クルマは12台あります。そこにサミュ・ソシアルのスローガンが書いてあります。「全く要求をしない人たちであっても、会いにいかなくてはいけない」と書いてあります。

1993年11月にサミュ・ソシアルは設立されました。当時パリ市長であったシラク氏(前大統領)の政治的な判断によって生まれました。出発に当たり電話が必要になりました。無料の24時間使える115番という番号が与えられました。 115番の15番というのはサミューの番号で救急車を呼んで医療サービスを受けられるものです。17番が警察、18番が消防というようにフランスでは2ケタの番号が整っています。

すべては電話の応答から

私たちの仕事は「聞く」ことから始まります。掛かってきた電話に答えるには、相手が何を望んでいるかを聞き分ける力が必要です。電話の内容を分析して、どういう医療的な措置や社会的対応が必要なのかを把握するわけです。通報の中でしばしば出てくる言葉は「私はいま住む場所がほしい」というものです。通報の70%は住居の問い合わせです。

どのような宿泊施設が必要とされているのか。ケースワーカーへの相談が必要であればそこにつなぎます。ただちに援助が必要ということであればクルマで迎えに行きます。

3人のプロたちの連携

クルマには必ず3名が乗り込んでいます。ドライバーと看護師とケースワーカーです。看護師が3人の中の指揮官となります。病院に行くのか、住居の確保だけでよいかの判断は看護師がつけます。クルマが現場に到着し、現場の判断で次の行動を決定します。クルマの3人は十分な訓練を受けたプロたちです。

サミュ・ソシアルの組織は次のようになっています。(1)看護師も付いた宿泊施設、 (2)ホテルの予約センター、 (3)115番の支援スタッフ、 (4)精神的な病気や結核をわずらった人に対するパトロール、 (5)他の組織や機関とのタイアップ、(6)世界14の都市とネットワークを組む国際活動、(7)接触したすべての人のデータベース管理などです。

緊急宿泊サービスセンターには、ベッドだけでなく、看護師、心理療法士、ケースワーカーが配置されています。センターには、(1)日中にシャワーが浴びられるスペース、 (2)医療への相談コーナー、(3)IDの準備を整えるコーナー 、(4)住所の手続きコーナー 、(5)家族などが共同で生活できる集合住宅もあります。

どのような人たちが私たちの所に電話をしてくるのでしょうか。本人であったり、ケースワーカーであったり、病院であったり、タイアップしている他の団体だったりします。町でホームレスが倒れているのを見た通行人から連絡が入ることもあります。

115番に電話するとコールセンター(フロントライン)につながります。1〜2分でどこにつなぐかをフロントラインが判断します。電話をしてきた人がフランス語を話せないとか、自分の状況をうまく説明できないという場合は、バックラインに転送します。フロントラインには次々と電話が入るので回線を空けておかなければいけないのです。

子どもがいるような場合はファミリーユニットに、健康に問題があれば介護ユニットに連絡します。病院に入院するほどではないけれど路上生活を続けられるほど体力がないといった場合も介護ユニットで対応します。

通報は2006年に160万件、2007年に76万件、2008年に103万件ありました。そのうち、私たちの対応が必要なものは年間平均で35万件ほどです。

排除というのは社会的な側面だけではありません。心理的、身体的な配慮も必要です。最初の判断をパトロールのチームができるようにしておかねばなりません。24時間のパトロールで問題のある人を見つけたときにただちに対応できる体制が必要です。こうした問題に対応するにはプロが必要になります。プロの養成は重要であります。教育をし、教育後の実力を評価するのです。

パトロールはそれぞれのセクター別に行動します。パトロール隊はときどき担当するセクターを変えることがあります。同じ場所でやっていると慣れが生じるからです。

緊急事態に対処できる体制を

いまはポケットPCを使ってあらゆる状況に対応するようになっています。毎日、新たに150人分のベッドを用意しています。150だけでは不足する場合もあるので、パリの郊外でもベッドを確保しています。ときには運河の近辺にテント村ができてしまうこともあります。こうした人たちを屋根のある施設に収容しなければならないといった緊急事態が起きることもあります。そうした緊急事態に対応できるようホテルと契約を交わしています。

パブリックとプライベートをうまく組み合わせること、それがサミュ・ソシアルの成功の秘訣です。

パリ市や国との連携や他の団体とのバランスの取れたネットワークも必要です。パトロール隊はいろいろな疾病に対して対応できるようにしなければなりません。あらゆる病気はもちろん、アルコール中毒や結核などへの対応も欠かせません。さまざまなファクターがサミュ・ソシアルの活動に関与しています。予算を獲得することは私たちが満足のいく活動を行う上で非常に大切なことです。