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Home > 識者に聞く > 日仏ホームレス対策最前線[2]

司会 活動の詳細が分かりました。特に現場に人が行くことの重要性がご理解いただけたと思います。いまのお話を聞いてパネラーの3人から一言だけコメントをもらいます。

大手企業を巻き込めないか

芦田 先ほどの私の話の中でホームレスのシェルターをつくろうとすると、住民から反対の声が上がるという話をしました。ただ、施設ができると地域との関係はよくなります。反対していた地域の人もホームレスの人や施設の担当者が率先して地域のお祭りなどに参加するのを見て、なぜ反対したのだろうという疑問もわいてくるようです。知らないから、どんな人たちか分からないから反対したという側面があります。できてみれば何の問題もない、知ってもらうことが解決の第一歩でした。シェルターに近隣の子どもたちに訪ねてもらって感想文を書いてもらうようなこともしています。もう1つ点は、サミュ・ソシアルの活動を見れば、フランス電力、フランスガス公社、フランス国有鉄道、プジョーシトロエンなどが活動に協力しています。日本でいえば国を代表する大企業ですが、日本ではそこまでのつながりがありません。日本は一部の行政と小さなNPOが中心ですが、そこから脱却することも必要だと思います。

貧困ビジネスへの根本対処を

湯浅 ホームレスというのは路上にいる人をさすわけですが、路上からさえいなくなれば問題は解決するわけではありません。現状はとにかく路上からなくすということで、路上から不安定な住居や不安定な就労に向かっている状況があります。ネットカフェ難民の問題が出たとき、厚生労働省は「住居喪失不安定就労者」といいました。彼らはホームレスではないとされました。この言葉を英語に直すと意味が通じません。これではホームレス状態にある人たちへの対応も進みません。もう1つは住宅の問題です。路上でなければよいという施策のもとで生まれたのが貧困ビジネスです。路上にいる人に声を掛け、自分の所に連れてきて、自炊できそうかどうかを判断し、自炊できない人は放り出して、自炊できる人だけ生活保護を取らせて、取ったうちの10万円は問答無用でピンハネしています。そうやって生活保護のお金がムダに使われています。本人に提供されるのは米10キロだけ。これでは生活するので精一杯で、就労活動どころではありません。こうした不法に規制を掛けるのは当然ですが、根っこにあるのは住宅が権利であるという発想の決定的な欠落にあります。日本は戸籍制度のもとで住居を失うことは、選挙権や年金受給の権利も失うことを意味しています。住居がないということは、社会からの排除につながるのです。

パーツを有機的につなげる

岩田 フランスと日本の違いはプロが関わっているかどうかにあります。日本は素人のNPOが非常に頑張っていますが、サミュ・ソシアルの「ドライバーと介護士とケースワーカー」が一体で現場に行き、そこですぐに対応するという仕組みにはかないません。私はニューヨークで同様のケースを見学しましたが、実に見事な対応でした。私が日本のホームレス支援に一番必要だと思うのはここだと思います。プロを巻き込んでいく、その周辺に市民のボランティアが厚い層で支えていくようになれば、企業や団体の支援も引き出せるはずです。2番目は電話相談のあり方です。サミュ・ソシアルは電話相談とパトロールがセットになっているわけです。日本にもパーツはあるわけですから、それを有機的につなげていく仕組みがあればと思います。連携の大切さを思い知らされました。

※このレポートは2009年10月20日に東京・上智大学で開かれたシンポジウムを要約して報告しています。文責はCSRマガジン編集部にあります。