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Home > 識者に聞く > 特定非営利活動法人 世界マメナジー基金 理事長 高瀬香絵氏
[低炭素技術と再生可能エネルギー]
産業界と個人:2つの変化が日本の環境と経済を救う鍵


日本政府は今年1月に「2020年までに1990年比でCO2を25%削減する」ことを正式表明した。“厳しい環境規制が経済成長の妨げ”との見方は本当か?私たち一人ひとりの個人に何ができるのか?長年エネルギー研究に携わるとともに、個人が直接的に太陽光発電の普及にかかわる仕組みを創った世界マメナジー基金 理事長 高瀬香絵氏に話を伺った。

厳しい環境規制が国際競争力を向上させる

Q: 政府が掲げるCO2の25%削減目標には、経団連など産業界から世界での日本企業の国際競争力にマイナスとの懸念も表明されています。

確かに前麻生政権下での中期目標検討委員会では、CO2を25%削減した場合、GDP(国内総生産)が約3%減少するという試算が提示されました。 日本は世界的に見て省エネが進んでいる、そのためCO2削減の単位あたりコストが他国よりも高くなる(=企業の費用負担が高い)、結果として厳しい温暖化対策をとると企業の国際競争力が落ち、産業の空洞化からGDPが低下するという見方です。

一方、こうした従来型分析とは逆に“経済へのプラス効果”と見る意見もあります。
国際競争力に関する研究の権威である米国ハーバート大学のポーター教授は「厳しい環境規制がある国ほど、国際競争力が高い」というPorter仮説を提示されています。ポーター教授はあくまでも国際競争力を専門とされる立場から、一つの分析テーマである“環境”を取り上げ、実証分析として実際のデータから競争力指標と環境規制指標を比較されました。環境規制が高いほど競争力が低いと思いきや、全く逆の結果が出たということです。ポーター仮説には批判も多く、“コストなしの環境政策なんてあり得ない”とも言われますが、室田泰弘先生との共同で行った研究(文献1)にて、原油価格と輸送機械部門の付加価値率の間に強い相関がみられたように、世界が同じ“制約”に遭っている場合など、世界的に新しい需要が創出されている状況に限って言えば国際競争力の向上をもたらすのではないか、と私は考えています。


Q:世界の市場でこれだけ環境ニーズがある現在、“先進的な環境技術”はビジネスチャンスをつかむキーワードでもあります。
最初にご紹介した分析結果のように、これまでの産業構造を前提とすれば“エネルギーコストが高い=環境負荷を下げる省エネコストも高い=競争力が下がり、物が売れなくなる=産業が空洞化”となり、ロジック自体はそのとおりです。 けれども、そうした従来型のモデル分析では、世界的な“低炭素技術(二酸化炭素の排出が少ない社会の実現に貢献する技術)”の需要拡大を考慮していません。

従来型の産業構造における“空洞化”は起こるべくして起こります。問題は、“次の主力が育つかどうか”です。

皆さんもご存知のように、日本は成熟経済です。 素材産業から、より経済波及効果が高い加工産業へ移行しながら、経済成長を続けてきました。一方で、日本のように技術力や経済力が高い、為替水準が高い国では低価値のものを作っても世界で売れず、次々と高付加価値のあるものを創り出していくしかありません。

日本は次の成長産業を見つけるべき時代ですが、世界の市場を見渡しても“低炭素技術”しか見当たりません。実際に世の中で売れているのは、太陽電池やハイブリッド車など、“低炭素技術”関連ばかりです。

そもそもエネルギーコストが高いのは原油高も一因ですし、それならば再生可能なエネルギーを使う省エネ技術などをより積極的に開発すれば、コストをかけたとしても、(環境技術を売ることで)売上とのバランスで“元がとれる”のではないか。実際に、国の研究機関でも、そのような試算結果を出しているところもあります。


Q: 経済成長の側面からも、環境規制をチャンスと考えて、新しい主力産業を早く創らなければならないということですね。
すでに政府は温暖化対策に積極的に対応すると決定しています。(経済成長へのマイナス面を気にするあまり)温暖化対策が遅れている国だと思われて良いのか、温暖化対策なくして次の成長があるのかということだと思います。 産業界においても、環境対応によって新しい需要の可能性がある以上、(環境規制に積極的に対応しつつ)低炭素技術に向かうしかないのではないでしょうか。
ただし、環境税や排出権取引などを入れる際に気をつけなくてはいけないのは、その収入(排出権の場合オークション収入)の還流方法、そして合計税収を増やさないようにする、ということかと思います。