世界は、いま“完璧な嵐”の状況と形容することができます。いくつもの危機が訪れて、普通の人々の生活に大きな影響を与えつつあります。1つは貧困の危機です。1日あたり5万人の子供たちが亡くなっています。2つめは気候変動の危機です。こちらは世界の人々が理解を広げつつありますが、はかばかしい進展はありません。それに加えて金融の危機が襲ってきました。幸い各国政府の対応はG20金融サミットの開催でも明らかなように、個別ではなく関連した危機であることが認識され、それを見据えた対応を迫られています。
私たち市民社会も対応を求められています。本日のように気候変動の問題に取り組んでいる人たち、貧困の問題に取り組んでいる人たちが共に行動することはたいへん意義深いと思います。
危機への対応を見ていると、特別にたいへんなことではないとのんびり構えている人々が依然として大勢いることが分かります。世界的な物理学者であるアインシュタイン博士は、「われわれが直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ考えのレベルでは解決することはできない」という言葉を残しています。いま、各国の対応を見ていると私はこの言葉を思い起こします。
私たちが世界レベルで要求していることの中心部分は、気候と貧困への対応です。貧困の問題でいえば、途上国に対して債務の帳消しをやって欲しいということのほか、援助も国民総所得(GNI)の0.7%を要求しています。また、支援の質も改善して欲しいと要求しています。一方、私たちは途上国に対しても要求してきました。保健の状況の改善、教育、水、衛生、ジェンダー(性別による差別)の改善です。
気候変動問題では、コペンハーゲンで行われたCOP15において、私たちは「公平で、野心的で、法的拘束力をもつ合意」を呼び掛けてきました。もう少し具体的に申し上げると、「目標、木、資金」ということになります。
まず、「目標」ですが、先進国に対しては、2020年までに二酸化炭素の40%削減を求めました。途上国については、先進国だけのせいにするのではなく、成長のあり方を考えて欲しいと要求しました。 次は「木」です。森林の破壊ですが、理想的には2010年までにゼロにして欲しいと考えています。森林の破壊は単に木や森に愛着をもつ人たちだけの問題ではありません。森林は、人間の存続のために欠かせない地球の肺、呼吸器官のようなものだからです。
そして「資金」。先進国は気候変動の問題では一番責任の少ない途上国に対してもっと寛大で気前よく支援をしていかねばならないということです。
気候変動と貧困の問題を近づけている要因はより切実なものとなっています。気候変動によって貧困の問題がさらに悪化しているからです。ある団体のレポートでは、気候変動によって年間30万人が生命を落としていると述べています。アフリカのケニアでは砂漠化が進んでいます。バングラデシュでは地下水に塩害が及んでいます。気候変動で貧しい人たちが影響を受け、さらに貧困が加速しています。
気候変動で紛争も増えています。ダルフールの殺戮は外から見ると民族紛争と捉えられがちですが、気候変動で水や土地が不足していることが紛争の背景にあります。チャド湖という湖が気候変動による乾燥で水がなくなり、紛争を引き起こしたという側面もあるわけです。
また、危機の背景には腐敗もあります。ガバナンスの欠如から援助の資金が特定の政治家のポケットに納まるという問題です。本来は保健や教育に使われるべき資金が政治家の懐に入れられ、一方で環境破壊が放置されています。歴史的に見ると、石油・石炭・ダイヤモンドなどの鉱業に巨額な資金が動き、腐敗を促進させた側面もあります。それを許したのはガバナンスの欠如です。各国政府が腐敗を取り締まれなかっただけでなく、貧困や気候変動にも対応できなかったのです。