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Home > 識者に聞く > 「貧困をなくすためのグローバル・コール」共同議長・ 「気候に関する国際行動キャンペーン」議長 クミ・ナイドゥ氏

地球を平等に分かち合おう

いまの状況は非常に深刻です。私たちの住む地球は1つしかありません。先進国の人たちは、いまの生活に慣れています。みんなが先進国のような豊かな生活を望めば、もう1つ新しい星を探さないといけません。この1つしかない地球をみんなで平等に分かち合う必要があるのです。

私たち市民社会では市民を動員してさまざまな取り組みを進めています。昨年10月の「動く→動かす」も連携した「貧困をなくすためのグローバル・コール」の“スタンド・アップ(「貧困のない世界」を目指して2006年から始まった)”活動ではギネスブックによると世界新記録となる1億7,300億人が行動を共にしました。また、コペンハーゲンのCOP15に向けた活動では世界で1億人が行動を起こしました。

ところが私たちのこうした活動も各国政府にはなかなか届きません。それどころか政府が本来やるべきことをやっていないわけです。このままでは気候変動も貧困も解決に向けた取り組みが進みません。「いままでと異なることをやらないといけない」というアインシュタイン博士の言葉どおりなのです。

1つは、私たちの行動は正義を求める闘いであるということです。よりよい社会を育てるための社会的、経済的、政治的な市民の正義を求める闘いであるということです。環境やジェンダーの行動であれ、正義を求めるための闘いだといえます。
2つめは個別の行動ではなかなか政府を変えることは難しいということです。私たちはさらに大同団結が必要です。その上で政府に分からせないといけません。なにを政府に分からせるか。いま行動を起さないと次の選挙でツケを払うことになるということを知らせるのです。そのためには、さまざまな人たちとの連携が欠かせません。これまで関係が少なかった、たとえば労働組合や宗教団体などにも連携を呼びかけないといけません。
3つめの企業関係者との連携です。企業関係者にも気候変動などで将来について革新的な考え方をもった人たちが大勢います。連携のチャンスはあります。私たちに欠けているのは、いままでの活動だけで十分だったのかという問いかけです。


いまこそ不服従運動の精神を

政治家や企業に働く人々に働きかけるロビー活動で政策や行動を変えてもらうことも必要です。昨年10月、「動く→動かす」が主催した“スタンド・アップ”では日本だけで35,000人が立ち上がったと聞いています。それは凄いことです。

私たちは歴史にもっと耳を傾けるべきです。正義を勝ち取る闘いで、女性の参政権、奴隷制度に反対する運動、アメリカでいえばキング牧師の公民権運動などがそれです。なにが勝利をもたらしたのか、これらの勝利を教訓にしなければなりません。これらの闘いに共通しているのは、普通の市民男女が、もう耐えられない、もう黙っていられない、命を懸けてでも状況を変えたい、牢屋に入れられても変えたいという熱い思いがあったことです。キング牧師、ガンジー、マンデラといった人たちはひたすら自分を信じていました。

権力者は署名や手紙を書くだけでは、簡単に動きません。いまは政治家に会うだけでは変わりません。会うことと影響力を及ぼすことは別物です。 それぞれの国々の文化などの違いを踏まえて、私たちになにができるのかを問い直さないといけません。その1つが市民としての不服従運動です。かつて勝利を収めたリーダーたちが私たちに教えたことです。

今日という日(2010年2月13日)は非常に興味深い日です。実はネルソン・マンデラが20年前の今日刑務所から出てきた日なのです。指導者の力、インスピレーション、不服従運動の大切さをいま一度考えるべきときだと思います。

実は、私が日本に来た理由はもう1つあります。国際NGOグリーンピース日本支部のメンバー2人(佐藤潤一氏と鈴木徹氏)の裁判が来週から始まるからです。この問題は捕鯨に関する大掛かりな腐敗があることを明るみにしようと2人が行動をとったという問題です。これは犯罪ではなく、市民の不服従の行動です。当局はこれを単なる盗みとして扱おうとしています。私はきのう日本の外務省の方とも会いました。慎重に対応すれば大胆に変えられる問題だと考えたからです。正当な行動だという観点からは、もう少し猶予が必要になっています。

日本政府は私たちを追い詰めるだけでなく、話し合いをすることもできるはずです。しかし、日本政府は私に会うだけで耳を貸しません。緊急性をもって取り組まなければいけないのに、見せかけだけの芝居のような民主主義だといえます。物事を変える力をもつ為政者たちが、変える意思を持たないということです。

この問題をみなさんはテレビか新聞で見たことがありますでしょうか。国連の人権委員会ではグリーンピースのこの2人に対する対応を人権侵害だと捉えています。なぜなら、政治的市民的な自由を認めた国際条約に日本は加盟しているからです。みなさんはこのニュースを見ていません。それはテレビにも新聞にもほとんど取り上げられていないからです。

みなさん、自問して見てください。日本は民主主義国家といわれ、自由でオープンなメディアをもちながら、国連から申し入れがあったにも関わらず、市民はこの問題を知らないのです。この問題は私たちが改善しなければならない課題はメディアの分野にもあることを示しています。気候変動や貧困の問題が社会の本流の問題になっていかなければならないのに、テレビ、ラジオ、新聞が報じないということは、市民が知る権利さえも奪われ、いかに大事な課題であっても社会の本流になれないということを意味しています。




クミ・ナイドゥ氏 プロフィール
1965年南アフリカ共和国生まれ。アパルトヘイト(人種隔離政策)との闘いから市民社会でのキャリアを開始。若者のリーダー的存在として人材育成や人種の壁の撤廃など、草の根の活動を展開してきた。1994年の新生南アフリカ誕生後、世界の市民社会の能力強化に取り組むNGO・CIVICUSで事務局長を務める。また、貧困問題解決に取り組む国際的ネットワーク「貧困をなくすためのグローバル・コール」(GCAP:Global Call to Action against Poverty)を結成し、共同議長としてホワイトバンド運動やスタンド・アップなど貧困問題解決を目指して最前線で活動する。2009年には気候変動に取り組むためのネットワーク「気候に関する国際行動キャンペーン」(GCCA:Global Campaign for Climate Action)を率いて、コペンハーゲンで開催されたCOP15では、気候変動への公正な取り組みを求めて行動した。2009年から国際NGOグリーンピースの事務局長を兼任している。
MAKE the RULEキャンペーン
http://www.maketherule.jp/
CO2などの温室効果ガスの削減目標を定め、その目標達成のために温室効果ガスを確実に減らす制度づくりを求めるキャンペーン。

動く→動かす
http://gcapj.blog56.fc2.com/
クミ・ナイドゥ氏が共同議長を務める「貧困をなくすためのグローバル・コール」の日本版。「貧困を生むしくみを変える」ことを目的に政策提言やスタンド・アップなどのアドボカシー活動を行っている。日本のNGO・NPO52団体が加盟。