Q:協力企業の皆さんは実際に難民キャンプに行かれるケースもあるそうですね。
高嶋 例えばシェルタープロジェクトにもご協力いただいているABCクッキングスタジオの横井啓行CEOは20代の頃に難民キャンプに行かれた経験があるなど、本当に難民問題をご理解いただいたうえでご協力してくださる企業の皆さんが増えつつあるのは、素晴らしいことだなと思っています。
Q:一方、まだまだ日本では難民問題に関心が薄い方も多いと思います。
長野 企業の担当者の方から、社内や顧客の「どうして、環境問題などいろいろあるのに難民問題なの?」という問いかけに、なぜ自分たちが難民を支援するのか、きちんと説明できなければという話をよく伺います。
その際に申し上げるのが、UNHCRが難民支援を360度の視点で行う機関だということです。今日の夜から泊まる場所も水や服もない人への緊急支援から、母国へ帰ってからの家や職業の確保まで、すべてのプロセスでの支援を行っています。 一方、例えば商業施設では、食べ物、洋服、生活雑貨、時には住宅まで、生活に必要なあらゆるモノを提供しています。
高嶋 グローバル企業だけでなく、国内をベースとした企業や中小企業の皆さんとも、協力いただける切り口は必ずある、それを私たちからも企業にもっとご提示しなければと思っています。
私は2010年1月に事務局長に就任するまで、過去10年間は海外の難民支援の現場で働いてきました。日本に戻り、日本企業の皆様にお会いして驚いたのは、真剣に社会のために何かをしたいと考えてくださる方がたくさんいる、いわばその“善意”の熱さでした。こんな宝物があるのだから、ぜひ日本発の支援を大きく形にしていきたいです。
知られていない難民問題-2:世界の難民問題の中心地はアフガニスタン、イラク 日本では難民=飢餓のイメージがあるせいか、アフリカ地域の難民が多いと思っている人も多いが、現在は圧倒的にアフガニスタン、イラクなど中東・アジア地域に支援対象者が多い。
注(1)難民として認められた者の他に、難民の地位が確かめられないが、難民と同じような危険から保護受けている人数も含まれる。 注(2) UNHCRが支援対象としているパレスチナ難民のみ。 |
Q:皆さんが企業を理解しようと歩みよる一方で、企業に対して“これだけは”という条件付けは当然あるのではないでしょうか?
高嶋 互いに一緒にやっていこうという意志があることが第一条件ですが、そのうえで、非営利活動法人側と企業がそれぞれの立場の間で接点を見出すために、最初に基本合意書Partnership Agreementを交わすようにしています。
例えば商業施設でのイベント中にお客様が怪我をされた際の責任の所在であるとか、イベントがキャンセルとなった場合など、ある程度、具体的な事項について事前に確認を取り合います。
当然のことながら、難民支援とは間逆の活動、例えば海外調達先も含めてその企業が武器取引や児童労働問題に関与していないという確認も書面で行います。 一方で私どもNGO/NPOもガバナンスの問題を言われていますが、国連UNHCR協会は特定非営利活動法人として、外部からの会計監査を含めたガバナンスチェック体制を整えていますし、認定NPO法人として、ご寄付への税金控除が認められています。
Q: 難民キャンプなど海外の現場を経験されてきた高嶋さんから、日本に何が求められていると感じますか?
高嶋 あくまでも個人的な意見ですが、発展途上国と言われる多くの国で、日本のイメージというと“トヨタ、ソニー、おしん”。戦後あれだけの経済復興をとげた技術はスゴイ、日本に一度行ってみたい、どうしたら自分たちの国もあんな風になれるのかと、今でも日本は憧れの国だと言ってもらえます。
一方、日本に帰ってきて感じることは、日本人は“難民=特殊な人たち” “可哀想な人たち”と思っている、決してそうではない、ということを強く言いたいです。
たまたま日本は国境が海に囲まれていますが、多くの難民たちは地続きの大陸の上を、東京から横浜ぐらいの距離を移動したにすぎません。
難民キャンプにいると感じますが、難民たちは私たちと変わらない普通の人たち、むしろ私たち以上にエネルギーと大きなポテンシャルを持つ人たちです。 モノがない=不幸せとは違う、子供たちが空き缶ひとつで遊ぶクリエイティビティや強い家族の絆を持っている、決して私たちより下の“可哀想な人たち”ではありません。 ただ、たった今は身動きがとれなくて、そこから一歩踏み出すためには誰かの手助け、きっかけが必要です。
今回のシェルタープロジェクトを通じて、私たち自身が難民の人たちから学ぶということをわかっていただく、そして難民たちが“憧れの国”と言ってくれる日本を本当にそんな国にする良い機会ではないでしょうか。日本が支援した難民たちが自国に帰り、自分たちの経験を次世代の人たちに伝えていただけたら、日本は国連常任理事国になるかならないかなど関係なく、本当に平和に役立つことができるのではないでしょうか。大きな夢かもしれませんが、そんな風に考えています。