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Home > 識者に聞く > 特定非営利活動法人日本エコツーリズム協会 理事・事務局長 杉山 悦朗

Q:エコツアーの醍醐味というのはどのようなものでしょうか。
北海道から沖縄まで、日本列島は南北3,000キロメートルの広がりを持ちます。地域ごとの自然環境が異なるだけでなく、そこには独自の多彩な文化が息づいています。

たとえば、最近の人気スポットに屋久島(鹿児島県)があります。
だれもが縄文杉や日本百名山の宮之浦岳を思い出すでしょうが、世界遺産である屋久島の魅力はそれだけではありません。屋久杉の巨木な森以外にも山の標高に従って亜熱帯から亜寒帯まで日本列島の縮図のような豊かな植生が広がっています。
また、花崗岩の山塊、原生状態の照葉樹林も見られます。一方、海では造礁サンゴや熱帯魚をはじめ、アカウミガメの浜もあります。現地の方々との素朴な会話の交流なども屋久島ならではの楽しい思い出になるはずです。

また、同地には、ガイドの登録制度があり、その登録数は100余名にのぼり、エコツアーを依頼する際の重要な手がかりになっています。専門のガイドとのふれあいが味わい深い旅をもたらしたという感想が、私どもにも数多く寄せられています。




Q:エコツーリズムの普及は海外でも見られるのでしょうか。
一律の定義がないため、世界全体を同じ基準で計るということはできませんが、オーストラリアでは広大な国土と雄大な自然を生かしたエコツアーが盛に行われています。オーストラリア政府観光局の公式ウェブサイトを見ると、エコツーリズムへの力の入れようが一目でわかります。なかにはツアー参加者に自然保護の基金を要請する政府推奨のエコツアーもあるようです。

地域で有名なものとしては、南東太平洋に浮かぶエクアドル領ガラパゴス諸島があります。ガラパゴスゾウガメなど独自の進化を遂げた特色のある生態系で知られていますが、1990年代以降は急速な観光地化、それに伴う人口の急増により環境汚染も進み、外来生物の繁殖や密漁が社会問題となりました。2007年には危機遺産に登録されたため、現在では外来種の拡散防止をはじめ、さまざまな保全活動に挑戦しています(注:最新の情報では保護努力が実り、危機遺産から削除されることに)。

徹底した環境配慮で知られるのが名峰マッターホルンに近いスイス・ツェルマットです。ガソリン車乗り入れ禁止のリゾートで、静かな環境と清らかな空気が保たれています。約400キロメートルに及ぶハイキングコースや雄大な景色のスキー場が大人気です。

Q:8月にはエコツーリズム大賞の募集も始まりますね。
エコツーリズム大賞は、環境省の主催で、当協会が運営を受託しています。今年で6回目を迎えます。エコツーリズムに取り組む事業者、団体、自治体などを対象に、優れた取り組みを表彰するもので、全国のエコツーリズムに関連する活動の質的・量的向上などを目的としています。

応募できるのは、環境保全活動を取り入れた取り組みや、自然体験(農林水産業体験や生活文化体験を通じた自然環境への理解につながる活動なども含む)の取り組みをはじめ、環境保全や地域活性化、良質な体験提供等の視点から特に優れた活動を行っている事業者、団体、自治体など(例:ツアー事業者、宿泊事業者、交通事業者、コンサルタント、協議会、教育機関、学生団体、地方公共団体など)を対象とします。

昨年は、三重県鳥羽市の「海島遊民くらぶ」の鳥羽らしい持続可能な観光のあり方から、持続可能な地域づくりへの貢献を目指す取り組みが大賞に選ばれました。 優秀賞には、富士登山でエコツーリズムの進化を目指した「富士山登山学校ごうりき」、熊野の豊かさを伝える「紀南ツアーデザインセンター」、24時間365日オープンの建物のない美術館を運営する「NPO砂浜美術館」が選ばれました。ほかにも6つの団体が特別賞に選ばれています。


2009年のエコツーリズム大賞を受賞した「海島遊民くらぶ」

受賞者の取り組みを見ていると、わが国のエコツーリズムも着実に発展しつつあると実感できます。どうか、あなたのご家族や友人との旅にもエコツーリズムのエッセンスを取り入れてみてください。きっと今までと一味違った豊かな旅が実現するはずです。
2010年7月取材


NPO法人日本エコツーリズム協会(JES)http://www.ecotourism.gr.jp/
第6回エコツーリズム大賞  応募団体募集中
今年は8月20日に応募を締め切り、9月25日に東京ビッグサイトで行われる「JATA(日本旅行業協会)世界旅行博2010」の会場で表彰式を行い、「エコツアー総覧」や各種イベントで紹介します。