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CSRフラッシュ
「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)講演会」から
企業が国際競争に勝ち抜く戦略=ワーク・ライフ・バランス

昨年12月に東京で開催された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)講演会」(会場:丸の内 MY PLAZAホール/主催:厚生労働省)から、東京大学社会科学研究所 佐藤博樹 教授とパク・ジョアン・スックチャ氏 アパショ-タ, Inc.代表、ワーク/ライフ コンサルタントとの基調対談「仕事と生活の調和で社会を変えよう」をダイジェストでレポートします。

“バランス”という言葉は誤解を招く?


佐藤:少子化問題を背景にワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)が推進されたため、WLB=女性社員の支援と思われがちですが、本来、男女双方にとってのテーマです。今日は3つのテーマを伺いたいと思って来ました。1つめは改めてWLBとは何かの確認、2つめはなぜ企業が取り組むべき問題なのか、そして3つめが企業にとっての具体的な課題は何かです。

パク:企業のWLBの取り組みは従業員が働きながら仕事以外のさまざまな責任を果たすための取り組み、と同時に、より能力を発揮して企業に貢献できる取り組みだと思っています。一律の定義はなく、ワークとライフのバランスというと人生のすべて何でもOKとなってしまい、解釈がさまざまです。

発祥の地である米国でもバランスというとさまざまな理解の仕方によっては誤解も生じるので、最近ではWork Life Integratedといった言葉を使っています。同様の理由で、シンガポール政府もWork Life Harmony、他企業でもWork Managementなどの言葉を使うケースも増えています。

佐藤:社員一人ひとりによって“バランス”の中身が違うのに、常に仕事と生活の割合が半分/半分でないといけないという決め付けがおかしいということですね。


“働きやすい”ではなく、“成果”を出すための仕組みがWLB


佐藤:経済不況で残業も減り、もうWLBを考えなくてもいいという意見もありますが、どうお考えですか?

パク:リーマンショック以降、日本企業が初めて真剣にと言うほど “とにかく早く帰って欲しい”と時短業務の取り組みを始めています。では、経済が回復したら元に戻ってしまうのか、そこが日本企業の大きな課題だと思っていますが、きちんと効率的に仕事をこなして定時内に帰る人と、単に会社が早く帰るようにと強く言うので仕事を終えている人の両方がいるのが現状です。

海外では日本のように“毎日定時”“残業規制”という形にはなりませんでしたし、企業に最も成果があり、同時に社員に喜ばれた施策は、フレックスタイムを設けるなど“フレキシビリテイ”を高めることだったんです。

佐藤:日本ではフレックスタイムを設けても残業が減らなかった、それは時間意識を持って自分で仕事を管理するという意識が変わらなかったから、働き方が変わらなかったということじゃないでしょうか?

パク:米国でも高い成果を出す人は結果的に長時間労働になる人が多い、しかしメリハリのある働き方をしている。知人でも朝の6時から15時まで働くという人もいました。 日本企業の場合、まずは業務改善、徹底して仕事のムダを省いて効果・効率を高めて、その後でフレキシビリテイに取り組む必要があります。


制度だけでは、働き方を変えられない


佐藤:日本ではどのような制度を変えるべきだと思いますか?

パク:日本の大企業では制度自体はこれ以上充実できないという所まで取り組まれています。ですから、意識改革と業務改善というところにメスを入れないと、会社にとってのメリットが見えてこないと思います。

佐藤:制度は人事部が変えることができるが、個人の意識の問題である働き方を変えるにはどうしたら良いか、会社が個人の生活にかかわる“意識”にまで、入り込むべきなのかという悩みを企業が抱えています。

パク:日本人は欧米だけでなくアジア各国と比べても、 “仕事以外の時間、自分の時間というものを持ってこれをやりたい”という意識が薄いと感じます。このような人生をおくりたい、こうした責任を果たしたい、だからこういう働き方をしたいと考えないと。 働きやすい環境じゃなくて、成果を出しやすい環境を作るということだと思うのですが、そこが誤解されがちだと感じます。

高度成長期の日本でもビジネスマンは土日も働き続けましたが、今のようにメンタル面の問題は出てきませんでした。つまりIT革命以降は1時間でこなせる仕事の密度があまりにも濃くなってしまって、 “充電”なしに長時間・長期間続けては誰も本当にクオリテイのある成果を出せなくなったということだと思います。

仕事以外のやることがないというのは気付いていないだけで、仕事でハイパフォーマンスを出すためにも、(自己啓発といった面だけでなく)健康、メンタル面のケアのためにも(仕事以外の)時間をとる必要があるということだと思います。


世界各国で働く女性を支えているのは“メイド”か“夫”


佐藤:日本企業のWLB制度はかなり手厚いというお話は、例えば法律で定められた「育児休業は1歳2ヶ月まで取得できる」などを上回る制度となっている大企業が多いということだと思いますが、制度そのものは充分だとお考えですか?

パク:十二分だと思います。今でもアジア各国では産前産後の育児休暇は2-3ヶ月で、時短勤務の制度がなく、復帰後すぐにフルタイムで働くケースが一般的です。また、欧州でも実はそれほど長く育児休暇をとっているわけではありません。女性社員に対しては“両立支援制度”を考えるのではなく、“女性の活用”をまず考えていかないと。

海外ではWLBによって女性の管理職、専門職が増えたことが一つの成果であり、日本がそうなるかどうかは、WLBの推進の仕方次第です。

佐藤:もう一つは夫の方、夫が早く帰ってこなければ、女性がフルタイムで働きにくくなる、夫の側の働き方の問題が大きくなりますね。

パク:なぜアジアでキャリア女性が2-3ヶ月で復帰できるかといえば、メイドさんという存在が大きいわけです。結局、アジアの働く女性は日本の男性と同じようなもので、家に帰っても食事をして子どもと遊んでいることができる。では、メイドのシステムが浸透していない欧米はどうかというと、“夫”(の手助け)です。ですから、メイドか夫、この2つの存在抜きに女性の活用をうまく出来ている国があったら教えていただきたい(笑)。女性の管理職率が高い国は全て、男性の育児時間率が高いという結果も出ています。