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CSRフラッシュ
5月8日は世界フェアトレードデー特集 (1)
援助よりも公正な貿易を!
第1回 企業はフェアトレードのよきパートナーになれるか
国際シンポジウム「フェアトレードの拡大と深化」から

途上国と先進国。南と北の格差が縮まらない。援助や慈善事業も大切だが、途上国の人々との公正な貿易によって自立への歩みを支援するのはどうだろう。フェアトレードは60余年の歴史がありながら、日本ではまだまだ立ち遅れている。
先ごろ東京経済大学学術研究センターとフェアトレード学生ネットワーク(FTSN)の主催で行われたフェアトレードをテーマとした国際シンポジウムから、フェアトレードを取り巻く最新の動きについて4回にわたってお伝えしよう。第1回目のテーマは「企業セクターへの浸透」である。


企業はフェアトレードのよきパートナーになれるか

第1回 企業セクターへの浸透

○参加パネラーの発言要旨


サフィア・ミニーさんの発言から
19年前にフェアトレードを始め、バングラデシュ、インド、ケニアなど12カ国50の生産団体と取引が。現在は生産者の新しいメンバーを増やすよりも、トレードの質の向上に力を入れています。東京に3店舗のほか、英国や欧州のフェアトレードショップ500店とつながりを持っています。当初は英国経由で輸入を行っていましたが、日本人にフィットしたものが少なく、自宅にスタッフを集め仕事を始めました。現在、日本で50人、英国で25人のスタッフがいます。
途上国への支援は、人の手を動かして物をつくるのが一番。有機農法によるコットンの栽培から始め、糸を撚り、手織りの生地をつくり、縫製をして商品にします。現在、売上に占める生産者のマージンは約15%。少ないと思われるでしょうが、技術指導のほか、50%の前払い金を渡すなど、先行投資はかなりのものとなっています。『Vogue』や『Marie Claire』とタイアップしたり、新しいところではハリーポッターに出演した女優エマ・ワトソンさんとのコラボレーションで高島屋に出展。
課題としては、メインストリームとの不公平な競争があげられます。英国では政府の助成金が食品のみに偏り、手工芸製品や機械産品にも向けられる仕組みにする必要があります。

●サフィア・ミニーさんのプロフィール
1990年に来日。1991年に環境と貧困問題に取り組むNGO「グローバル・ヴィレッジ」を設立。95年にフェアトレード・カンパニーを設立し、ピープル・ツリーのブランドを立ち上げ、2001年には英国に逆上陸。フェアトレードとファッション界への貢献が認められ、英国政府より大英帝国勲章第5位を授与される。

左から
サフィア・ミニーさん、
金田晃一さん、
星野智子さん


星野智子さんの発言から
2006年から企業とのコラボレーションを開始しました。2001年のカカオ生産地における児童労働や人身売買の実態を知り、なにも知らないで買うことは、不公正に手を貸すことではないかと考えたのがきっかけです。公正で持続可能な社会を実現するには、身近なチョコレートの裏側に潜む問題の解決に向けて、相互理解を深め、より多くの人に認知してもらえるアクションが必要だと思いました。
日本人は欧米人に比べ内向き。日本にあった方法で企業、マーケット、商業ベースからのアプローチでフェアトレードを推進したいと考えました。これまでにイオングループ、ミニストップ、高島屋、ヨックモック、リコー、日本経済新聞、ニフティ、全日空商事、丸井などとコラボレーションを実現。基本的にはどの企業も売れないものはおきません。より魅力的な商品づくりが欠かせないと思います。

●星野智子さんのプロフィール
チョコレボ実行委員会代表。英国BBC放送のカカオ児童労働報道や9.11同時多発テロをきっかけに国際社会のフェアネスに関心を持ち、有志とともに「チョコを選べば、世界が変わる」キャンペーン“チョコレボ”をスタート。企業や個人を巻き込んでいる。


金田晃一さんの発言から
フェアトレードには、途上国生産者の経済的な自立を支援すること(フェアトレード運動)と、途上国が国際貿易システムに無理なく参加して恩恵が受けられる(フェアトレード体制)という2つの側面があります。企業から見ると「調達」コンセプトを加えることで、フェアトレードをCSRの施策に組み入れることも可能です。
たとえば業態別で見ると、(1)輸入・販売業ではコーヒー、チョコレート、バナナなどを「取り扱う」だけで、(2)全産業では社内で飲むコーヒーなどを「買って使う」ことで、そして(3)組立加工業では靴、アパレルから半導体、レアメタルなど「部品や原材料として使う」ことでフェトレードがそれぞれ拡大でき、CSRが前進することになります。
ただ、フェアトレードが真に浸透するには、(1)では「安全・安心の意識の高まり」「BOPビジネス」を、(2)では「社内消費拡大キャンペーン」を、(3)では「CSR調達キャンペーン」などの課題をそれぞれ克服する必要がありそうです。

●金田晃一さんのプロフィール
武田薬品CSR・CBシニアマネジャー。経団連社会貢献担当者懇談会委員。ソニーなど数社を経て、現職。2009年にNGO/NPOとの協働で「タケダ―Plan保健医療アクセス・プログラム」を立ち上げ。内閣府の「新しい公共」円卓会議構成員も務める。


イアン・ブレットマンさんの発言から
「国際フェアトレード・ラベル機構(FLO)」は、産品認証(ラベル型フェアトレード)でメインストリームに位置づけられています。2008年の時点で58カ国、746の生産者団体が参加しており、そのうち76%は比較的小規模な農民の組織です。
2007年から2008年にかけてフェアトレードの小売市場は22%成長しました。フェアトレードを拡大するためには、生産者・産品・取り扱い国を広めること、生産が利益を得られるよう仕組みを深化させること、影響力の極大化に向けた変化を加速することが必要です。成功のためには資金力、シンプルな仕組み、確かな効果、規模、信用などが求められています。

●イアン・ブレットマンさんのプロフィール
英国の代表的なフェアトレード団体「オックスファム・トレーディング」のマーケティング責任者を務めた後、1997年に同国のラベル団体「フェアトレード財団」に移籍。2006年には「国際フェアトレード・ラベル機構(FLO)」の理事に就任し、現在副理事長を務める。

左から
進行役を務めた渡辺龍也(東京経済大学教授)さん、
クラリベル・ダヴィッドさん、
イアン・ブレットマンさん


クラリベル・ダヴィッドさんの発言から
「世界フェアトレード機構(WFTO)」は、不利な立場に置かれている生産者の発展支援や貧困削減の一手法としてフェアトレードを位置づけています。
私たちは南からの視点を大切にしないといけません。南の生産者には、農民、アーチスト、家庭の主婦などが含まれます。フェアトレードが変革の機会を提供しているのです。フェアトレードは北の市場へのアクセスの手段でもあります。私たちはアジアやアフリカやラテンアメリカで協力の輪を広げています。現在、北の市場が金融危機などで停滞する中、南南貿易を拡大できないかと考えています。
これからはもっと生産者の権利を強めないといけません。生産者こそが一番重要なプレイヤーだということを私たちは肝に銘じておく必要があります。

●クラリベル・ダヴィッドさんのプロフィール
1997年に金融からフェアトレード界に転身。「アドヴォケット・オブ・フィリピン・フェアトレード」の理事に就任。2002年には「アジア・フェアトレード・フォーラム(AFTF)」の創設に尽力。その後、「世界フェアトレード機構(WFTO)」の理事に就任し、現在副代表を務める。WFTOの新認証・ラベルシステム開発をけん引。